第63話 地球皇国皇帝
【地球皇国】
文字通り地球を支配する統一国家。
全ての国々をたった一人で制圧することで支配下に置いている。
実はある力によって、多くの人々は抗うことすらできないようだ。
鎧塚率いるレジスタンスの拠点へとマルチドラゴネットで向かうクレアーツィ達。
彼らにとって、鎧塚の語った内容は実に混乱を生じさせるものであった。
「……いったいどんな手品使えば、俺たちとそこまで時間の差がないのに、あいつが世界征服なんてできるんだ?」
地球皇国皇帝ビートゥ・ネルトゥアーレ。
この世界、というかクレアーツィ達がいる場所の名が地球。
わざわざその地球を冠する国家であることからも容易に想像ができたことだが、この地球全体を支配する統一国家、それが地球皇国なのだという。
しかしビートゥ・ネルトゥアーレは、確かにクレアーツィ達よりも先にこの世界に入ってきたとはいえだ。それほど時間の差は生じていないはずである。
だがしかし、その僅かな時間で世界を征服したというのであれば、クレアーツィ達にとっては大きな問題が生じてくる。
何故ネルトゥアーレ大陸での戦争では時間がかかり、結局ビートゥ自身は勝利していないのかという問題である。
少なくともクレアーツィ達にとっては一時間も経過していないはずなのだから。
「ビートゥ・ネルトゥアーレが行動を開始したのは数年前だ」
レジスタンスの拠点に向かう道中で鎧塚から語られた言葉に衝撃が走る。
(数年前だとっ!? 俺たちが入り込むまでの間にそれほどの時間が経過したと!?)
一時間も経過していないはずの期間で、数年の時間が経過している。
だからこそ、この事実がどういう意味を持つのか理解する。
「……世界と世界、それと世界と世界の間の全てで流れる時間の速さが違うのか」
「うん、これならビートゥが世界征服を達成できた理由も分かる」
世界によって時間の流れる速さが異なる。
だからこそ、この地球に突入したタイミングがクレアーツィたちと誤差であったとしても、結果は大きく異なるということになる。
「……ほんの僅かな時間の差が、数年の時間の差になるだなんてね」
この事実は面々に大きな問題を与えることとなる。
自分たちがビートゥを倒したとして、戻った時に自分たちの居場所が残っているのかと。
(とは言え、アレを野放しにすれば……当初の想像以上にひどい末路になるしなぁ)
だとしても、クレアーツィはビートゥを放置できないと思考する。
ビートゥは一切何の力も借りずに、世界の壁を破壊することができたのだ。
ゴウザンバーコキュートスとなることで初めてできるような領域。
それを何の道具も使わずにできるような、しかも他者を害することを行い続ける怪物を野放しにしてしまえばどうなるのか。
言うまでもない、この世界の支配が完全なものとなれば、ビートゥの魔の手が他の世界にまで広がっていくということは、ビートゥのしてきたことを知るものであれば誰の目から見ても間違いないのだ。
「……だからこそ、アレを止めずに大陸に戻るなんてのはしてられない」
なにせ放っておけば再びこちらの世界への攻撃が始まるかもしれないのだから。
「よく来てくれた、ここが我らレジスタンスの拠点だ」
鎧塚の案内で辿り着いたのは、彼の語るようにレジスタンスの拠点。しかもだ――。
「そして日本支部の心臓部でもある」
あっさりと語られた最重要拠点である事実。にも拘わらず――。
(……下手しなくても小さな村とかのほうがまだマシな規模じゃないか)
無論規模の大小は必ずしも勢力の優劣とはイコールではない。それこそ身を隠すことを優先しているというのであれば、大きくなれば見つかる可能性も上がるので小さくしていくというのは分かる。
だがしかし――。
「……にしては隠蔽してないな」
まるで隠れていないのだからどうしようもない。
これほどまでに弱々しい拠点という事実に、クレアーツィは頭を抱えざるを得なかった。
世界一つを支配した敵ということは、それ即ち世界一つを敵に回すことと同じ。
「相手が悪すぎるわね、死ぬまで時間が少しだけ伸びるだけだわ」
冷静に戦力差を見極めたうえでエストは語る、少なくともあの人型戦車の攻撃を躱せるか、受け止められる力がないとそもそも戦闘にはならないのだと。
「わーってる、けどだとしてもだ……やらなきゃいけないだろ、あんな屑相手だったらよ」
だとしてもと鎧塚は告げる、エストの言葉は正論かもしれない。勝ち目などありはしないかもしれない、だとしても戦わないといけないのだと。
鎧塚の返答を受ければエストは笑みを浮かべてこう語る。
「その覚悟ができてるなら……私はまぁ問題ないと思うけど?」
その程度の覚悟すらない、自分と相手の戦力の差を理解もしていないような奴ならば邪魔になる。だが、自覚しているのであれば共に戦うにふさわしい。
なんて考えている様子で、にこりとクレアーツィに視線を向ける。
立場で言えばアーロの方が上だ、指揮をするという点ではエストが一番上手い。
だが、彼らはクレアーツィを中心に集まった者たち、故にクレアーツィの判断が最終的な結論になる。
「……それで、レジスタンスは何を求めてる」
だからこそ、クレアーツィは問いかける。最初から手伝うことは前提だとばかりに。
「いやはや、改めて見ればまるでガキの頃に見てたスーパーロボットだな」
鎧塚をはじめとしたレジスタンスの面々がザンバーをじっと見つめている。
特に、子供たちは満面の笑みで鋼の勇者たちの姿を見つめている。
「……テレビや映画の中の悪党が世界を征服したと思えば、またまた同じようにヒーローがやってきてくれるとはねぇ」
「ガキの頃の妄想でもここまでドストレートな奴はねぇよ」
大人たちもけらけらと笑いながら、まるで数年ぶりに笑ったとばかりに大笑いする。
いや、まるでという言葉は不適切だった、確かに彼らは世界がビートゥに支配されてから笑っていなかったのだから。
そんな和気藹々とした面々を見つめていれば、気になったことができたとアーロが鎧塚に問いかける。
「……町の方々はどうなさったのです?」
確かにあの町の人々は異常なまでに日常であると振る舞い続けていたと。
「何か理由があるのではなくて?」
真横で戦闘が起きている、まともな人間であれば走って逃げ去るなりなんなりするだろう。逆に野次馬としてじーっと戦闘を見つめているのもあり得る話だ。
流れ弾で死んでもおかしくない状態で、ただただ普段通りの生活を続けているというのは明らかにおかしいのだと。
「……そりゃまぁ、この世界で自由に行動できるのはレジスタンスだけだからな。後の奴らはビートゥの呪いとでも言えばいいのか、あいつの与えた役割通りの振る舞いを強制させられる」
鎧塚の告げた言葉は、クレアーツィ達にとっては理解ができないでいた。あの男はそれほどの力を有しているのかと。
「……テレビでも見てみればわかる」
「懐かしいなぁ、数カ月も経ってないはずだけど」
竜希はそんな風に口にしながら、テレビの電源を入れる。
しっかりと電波を拾った様子で、その内容を見てみれば――。
「ニュースの時間です」
始まったのはニュース番組、だがしかしその内容は異常な代物で――。
「……ねぇ、これが普通なの?」
エストの問うのも極々当然、ニュースキャスターとして行動しているのは子ども、しかも衣服だけはそれらしいスーツ姿で。
さらにチャンネルを回していけば明らかに異常な、それこそ配役を間違えているとばかりの姿。
「……ま、こういうバカバカしい姿を嘲笑うためだけにそういう役割が与えられてるんだ」
頭を抱えた様子で鎧塚が告げれば、悪趣味な世界を利用した遊戯という現実を理解させられる。
「……最低限の役者ってのもそう言うことか」
ビートゥの告げた内容を思い出しながら、クレアーツィはこの世界がどういう風に使われているのかを理解する。
ただただ娯楽として用意された、世界を一つの舞台とした終わらない悪趣味な演劇。
(恐らくはレジスタンスはいつでも対処できるアクシデントといったところだな)
そして自分たちもその一つに過ぎないのだと理解する。奴の力があればいつでもつぶせるのだと。
「……ま、甘く見てくれてる分には都合がいいや」
だが、だからこそ付け入る隙があるのだと、クレアーツィは強く笑みを浮かべていた。
【地球皇国の民】
ビートゥを楽しませるための、終わらない演劇の役者たち。
もしくは彼を楽しませるためのゲームの駒といったところ。
一つ重要なことを告げれば、彼らは正気のまま狂ったことをさせられ続けている。




