第61話 現実は非常なり、そして現実は異常なり
【自由】
何物にも束縛をされない状態、ただしこれを乱用しすぎた時には自由ではなく無法へと変わってしまう。
だがそれでも、何者かによって完全にこれが奪われることは、例え無法となろうとも許されることではない。
世界を超えたクレアーツィたち、ひとまず食料の補給のための行動をするべきだと判断した様子で、人里離れたちょっとした山の中に隠れ潜むこととした。
無用な混乱を引き起こせば、世界の敵として武器を向けられるかもしれない。
少なくとも、竜希も未来もどちらもがこの点だけは守ってほしいのだと告げていた。
「確かにザンバーの性能なら、私たちの知る地球の兵器では到底勝ち目がないわ」
「でも、それを一方的に叩きのめしたりするのって、ヒーローのすることじゃないよね?」
この言葉を受ければ即座に面々も納得、服装などについては未来の、というよりもピュアグリッターの魔法で、彼女の思い描く一般的な衣装を用意し、紛れ込むこととした。
なお、エポンはどう頑張っても誤魔化せなかったのでお留守番となっていた。
「ふーん、地球はそんなに人種の種類って少ないのか」
ぶらりと、町まで向かえば探索を始めるクレアーツィ達。
良くも悪くも見目麗しい女性陣と、かなり派手な頭髪のクレアーツィ故にか、人々の視線が四方八方から向けられていた。
「……まぁ、こうなりますわよね」
そんな中で、ネルトゥアーレ大陸でも、そもそもが王族であるがゆえにこういった視線にも慣れていたアーロだけは普段通りの振る舞いをしている辺り、慣れというのは大きなものなのかもしれない。
「それで、お金の問題はどうするの?」
当たり前の話ではあるが、クレアーツィ達は地球の金銭を持ち合わせてはいない。
確かに地球出身者ではあるが、未来や竜希も転生をした結果所持金は完全にゼロとなっている。
誰一人としてお金を持っていない、まさしく一文無しの集団なのである。
そう、つまりは食事をすることはおろか、食材を手に入れることすら困難なのである。
「そ、それはその……私の魔法でちょちょいとお金を出したり」
だからこそ、未来の発言はある意味理解できるものではあった。少なくとも竜希にとっては、まぁそれぐらいしても許されることだよねと認識していて――。
「地球人こわっ!?」
ネルトゥアーレ大陸出身の、クレアーツィたちはドン引きしていた。
この当たり前提として、面々がもともとそれなりに高貴な家の出であるという点が挙げられる。
一国の王女で、次代の統治者となると決まっているアーロだけでなく。リューションという国の騎士団長のエスト。そう言う立場ではないもののちゃんとした騎士の家系の出身のクレアーツィ。
三人いずれも、例外などなく金銭の流れに身をゆだねるのではなくある程度管理する側の人間。
彼らにとって、勝手に金銭を増やして流通を混乱させることなど、理解の外にある話である。
無論竜希もそちら側の人間ではあったはずなのだが、幼少のころから応援していたアニメの主人公の行動故に、あまり気にしていなかった。
結果、クレアーツィ達は、これが地球の普通なのかと勘違いしてしまったのだ。
「……いや、まぁ俺たちも背に腹は代えられないけどさぁ」
「……ちょっと、引きましたわよ?」
「……うん、これは仕方のないこと、だからリューションの王も許してくださることよ、いいわね、エスト」
だとしても、自分たちの立場として受け入れがたい行為ではある、それでもしなければならないのだと、言い聞かせる面々を見ていた未来はと言えば。
(うんうん、そりゃあそうだよねぇ……できれば私もしたくはないし)
もともと彼女は魔法の国から、人間界へとやってきたお姫様。つまりは引いている面々と同様の立場である。
だとしても、彼女はこういった行為に対してそこまで気にすることはない。
もともと魔法の国に貨幣経済がなかったのである。ありもしないものに気を使う必要など、当然あるはずもない。
それでもなお、内心ではできることならばしたくはないと考えているのは、彼女が地球で暮らしていた時の教育のおかげであると言えるだろう。
そんな面々が食材が買える店を探さんと歩き続けている、時間にしておよそ一時間ほどたったころだろうか。クレアーツィがつぶやいた。
「……妙だな、ふつうこれだけ街中でぶらつけば一つや二つぐらいは見つかるもんじゃないのか?」
まるでそれらしい店が見当たらないのだ、いやそれどころではない――。
「他のお店も見当たらないのだけど、住宅街って雰囲気じゃないのよね?」
「はい、どちらかというとお店があるような雰囲気なんですけど」
まるで店がない、それはもう以上とすら思える有様。これがおかしいと感じているのがクレアーツィ達だけならば、それはただネルトゥアーレ大陸とは文化が違うからの一言で済んだ。
だが、別の世界とは言え確かに地球と呼ばれる世界を生きていた竜希と未来にとってもおかしいというのであれば話は別である。
確かな異常、何かが起きていることを否が応でも理解せねばならなかった。
だからこそであろうか――。
「っ!? 皆様っ、何かが飛んできますわ、走りますわよっ!」
以上であることを理解していたからこそ、アーロの目に更なる以上を視認させていた。
何か、それも巨大な何かが飛んでくる。
竜希も未来も、地球の兵器についての知識はそれほどあるわけではなかった。それでもだ――。
クレアーツィ達がいた場所に降り立った、その存在を見て困惑を隠せない。
周りの建物と比較しても大きいのだ、ざっと見たとしても十階建てのビルほどの大きさの巨大なる戦車のようなもの。
だが、それは戦車とは言えないだろう。
「……いや、これロボだよねっ!?」
戦車を無理矢理人型に変えたような、そんな姿の巨人。
竜希が抱いた印象はそう言った代物だ。
技術というのは過去から未来へとつながっており、途中を見ればどうしてこうなったのか分からないものも、案外過去に遡ればどういう経緯でこうなっていくのかが分かったりすることもある。
だからこそ、竜希には分からない。
どうして戦車からこうなったのかが分からないのだ。
無論兵器というものの歴史に詳しくはない、だが確かに一般的に無数の決戦が存在する巨大人型兵器に、既存の兵器が進化したというのに納得がいかなかった。
これが、クレアーツィのような一気に技術を新しい方向に変える人間がいたというのなら納得はできる、だがそれも別方向からの技術であると理解ができる。
これは明らかにそうではないのだ。
「……砲身こっちを狙ってる! まず――」
そんな思考の海に落ちいてた竜希であったが、即座に命の危機が迫っていることを思い出す。
このままでは殺される――。
だからこそ、こちらに向かって走ってくる音に気が付いた。それもかなりの速さで駆け抜ける音だ。
「ザンバァァァァっ!!」
その存在に気が付いた人型戦車に向かって、駆けつけたソレが片手で持っている槍を向けながら突撃する。
「ラァァァァァンスッ!!」
槍を突き立て、そこからさらに高速で円錐螺旋状のソレが回転を始めて行く。
けたたましい音と、まき散らされる火花が確かにそれを穿つ様子を見せる。
(ここって本当に地球なの? いや、でも外から見た時はそれっぽかったけど)
竜希は、今自分がいる世界について嗜好を張り巡らせる。
ここが地球だとどう考えても納得のできない何か、仮に彼女の記憶にあるようなロボットアニメのような世界だとしても、まるで歪なこの世界。
(……どうして、私たちを殺しにやってきたの? しかも、どうして――)
竜希の視線は人型戦車から、周囲の……まるで何もおかしなことが起きていないと振る舞う人々へとむけられる。
(そんな風に振る舞っているのに、明らかに脅えが見えているの?)
これが日常だというのであれば、ある種納得はできる。だが、そうではない、この街に生きる人々にとって、これは恐怖の象徴なのだ。
だというのに、まるで日常のように振る舞っている。
まるで誰かにそう命令されているかのように。
【人型戦車(仮称)】
街を歩いていたクレアーツィ達に襲い掛かった代物。
全長三十メートルほどの、無理やり戦車を人型兵器にしたような姿のソレ。
少なくともかなり遠く離れた場所から跳躍、もしくは飛行することが可能だと思われる。




