第59話 目指すは地球
【クレアーツィ転生直後のゴウザンバー】
突如として転移していたゴウザンバー、実は転移したのもクレアーツィが転生したからである。
転生時に着ている衣服や、持っているものなども自動的に所持している状態になるのだが、ゴウザンバーも同様に所持品として転生時に転移させられている。
のだが、あまりにも巨大な物品であったため、転移に時間がかかってしまったのであのタイミングでの転移となってしまっている。
ところでそもそも世界とは何なのであろうか?
その問いに対する答えとして、一つの大きな水槽だと考えるといいだろう。
大きな水槽の中には宇宙という水が入っている。
水の中には星々という陸地や、数多の生き物が住んでいる。
では、その前提を持ったうえで改めて問おう。
世界の壁が割れてしまえばどうなるであろうか?
「結論だけ言えば世界の器から零れ落ちて滅ぶ、それはもう見事に何もかもが滅びきるんだ」
直感的に理解したクレアーツィはそう語る、実際の所理屈として正しいのかどうかは大事ではない。
ただ世界が滅ぶという結果だ、結果どうなってしまうのかを理解しておけばそれでいい。
大切なのはこれから何が起ころうとしているのかを理解すること、過程や方法の理解は後回しでも構わない。
「……さて、では器から零れ落ちて滅ぶのであればどうするのがいいか」
「器のひびを全て塞ぐ?」
問いの回答として出てくるのは至極当然かつシンプルな答え。
「あら、別の器に入れる……は無理よね」
「あぁ、他の器には既に世界がパンパンに入っているからな、新しく世界を入れる器を作るなんてのは想像もできない以上、今ある器をどうにかして直すしかない」
ではどうやって世界の壁という器を修復するのであろうか。
「……魔導力を壁へと流し込む、ザンバーの基礎性能である自己修復の仕様を外部に転用、それしかないか」
自己修復機能、癒しの魔導石による各部位の修復を行うというもの。
装甲などの軽い傷やへこみ程度であれば放っておけば直せるという代物、とはいえ整備が不要になる類ではないのでそこまで有用ではなかったのだが。
「……コキュートスの領域まで持ちあがって全員で魔導力を限界までぶち込めば……ギリギリ行けるか?」
膨大な魔導力と膨大な魔導石の量により、本来想定されているものをはるかに超越した効果を発揮し得る。
合体による魔導力の上昇は乗法、つまりは掛け算による上昇の仕方をする。
魔導石によって生じる効果も同様。
そしてゴウザンバーコキュートスの搭乗者の魔導力と、魔導石の総量はと考えると、史上最高の領域に至る。
もはや誰も想像ができない世界、故にやってみる価値が生まれる。
「という訳でだ、はっきりと言って成功すれば奇跡、神話の仲間入りだ」
クレアーツィの手段は、数学で公式を理解していないにもかかわらず、無理矢理ひねり出した解答のようなもの。
はっきりと言えば期待するだけ無駄、むしろ正解である方が疑わしい。
それでもなお、やる価値だけは存在する。
なぜならば――。
「時間もないし、他の方法も思いつかないからこれしかないのよねぇ」
故に他に選択肢はない、不可能だとしてもやらねばならないのだから。
「であれば、細かい制御は全てクレアーツィさんに任せますわよ」
「言い出しっぺの法則だね」
「そう言うのは一番得意でしたよね」
「ま、まぁ私はただ全力で流し込むしかしてなかったし」
だからこそ、言いだした責任を取らさせられるのもクレアーツィの人柄とでもいうべきであろうか。
「……まぁ、もともとそのつもりだったけど、魔導力だけは借りるぞ」
面々の発言を聞いたクレアーツィも、分かっていることだと即座に受け止める。
大事な仕事を押し付けるのではなく、彼に任せるのが一番いい結果につながるという信頼故の行動か。
どちらにせよ、クレアーツィは五人が流し込む魔導力全てを正確にコントロールしていく。
そうなれば後は実行に移すだけ、全身を満たすエネルギーを一つの目的のためだけに費やす。
世界の壁を修復するという行為へと。
「……ふむ、奴らめ、俺を追うだけに飽き足らず、あの世界すら救って見せようというのか」
別の世界へと迎うビートゥが、クレアーツィ等のしようとしていることを察知する。
彼に別に妨害をしようというつもりはない、なにせどうでもいいのだから。
飽きて捨てた壊れた玩具を、何処か知らない奴が勝手に拾って直そうとしてたところで、捨てたものだから気にしないように。
壊れ果てた、あの世界がどうなろうとも興味はない。
彼が破壊したのも、あの世界で遊ぶのに飽きたからにすぎない。
だからこそ、客観的にクレアーツィがしようとしていることを見ることができる。
「やはり、いい役者ではあるな」
魔導力を解き放つ、言葉にすれば簡単だし、実際にやろうとすれば簡単にできる行動。
だがしかし、それは普通にやればの話である。
「……持ってる分全部出し切るつもりで、だよねっ!」
全てを出し切る、これまた言葉にすれば簡単に聞こえる。
結論だけ言えば簡単だが難しいのだ。
コントロールなどせずただ全開にすればいいというのは一つの事実、されどそもそも魔導力とは命の力、使いすぎれば必然として負担が発生する。
命の灯が消える、などといった危険があるわけではないのだが、意識が飛びかねないほどに疲れるのだ。
だからこそ、少なくとも世界が滅び去るか、自分たちが死ぬかのどちらかが発生するまで行い続けなければならない。
彼女らが感じる疲労は、終わらないフルマラソンを全力疾走し続けるようなものであった。
であれば、その力を制御し行使し続けるクレアーツィはどうであろうか?
「……直れっ、直れっ、直れっ!」
少なくともクレアーツィが知る限り、今まで誰も行ったことのない大偉業、滅びようとしている世界の救済。
そんな未知の事への挑戦で疲労しないはずがない。
しかもそもそも扱い魔導力の量そのものが、一人の人間が扱える量では本来あり得ない。
両肩にかかるプレッシャーは常軌を逸したモノであり。
彼がしているのは、誰もやり方を知らないにもかかわらず。
馬鹿みたいに大きなもので。
馬鹿みたいに離れた場所から。
馬鹿みたいに繊細な作業をしているようなものである。
はっきりと言って正気の沙汰ではありえない。
それでもなお、彼らは、クレアーツィ達は為すのだ。
生まれも育ちも違えば、竜希と未来は世界すら違っても、それでも世界が滅びるなどという未来を否定したいから。
そして諦めないものにこそ、奇跡は起きる。
「そう、奇跡は起きる、何度でもな」
世界の壁のヒビが修復されて行くのを、一人離れた場所で見つめる胡散臭い男。
彼の瞳には確かにこの奇跡が起きることが分かっていた、そういった信頼が見て取れた。
「……その代償はデカいもんだが、まぁ仕方ないか」
だからこそ、どこか悲しげな表情で彼は語りつつ飛ぶ、ビートゥの向かった先へと彼もまた追いかけるように。
「……あぁ、成功だな」
クレアーツィの視線の先にはひび割れはなくなっていた、これで世界の滅びは回避された。
そう、ひび割れと共に世界の壁に開いていた、彼らがくぐってきた大穴も修復されていた。
「……そして、私たちは帰れなくなった……でしょ?」
言いにくいことであろうとも、躊躇なく切り込んで告げるエストの言葉。
そう、世界の滅びの代償に彼ら六人は世界の壁の外に取り残されてしまったのだ。
「悪いな、俺だけで済むんだったら俺だけで行ったんだが」
「あの男、ビートゥ・ネルトゥアーレにしっかりと眠っていただく必要があるのですから、追いかけるためにもちょっとの間帰れないのは決まっていたでしょう?」
だからこそ、彼らは自分たちがなすべきことを見据える。
世界を救った、次は世界を滅ぼそうとした奴がまた悪さすることを止めること。
「……追うぞ、ビートゥを」
彼らの意思が一つとなれば、コキュートスは光をも超越する速度で飛ぶ。早すぎればソニックブームによる被害が発生するのは物理的に至極当然の話。
だがいま彼らがいる場所は世界の外、理から外れた場所。
故に彼らは向かう、ビートゥ・ネルトゥアーレが向かった別の世界へと。
その世界を、人々はこう呼んだ。【地球】と。
【地球】
太陽系第三惑星、我々人類が住む母なる惑星。
この惑星を舞台とする物語は古今東西無数に生み出されてきた、それはすなわち一つ一つの世界として地球が存在するということである。
ビートゥ・ネルトゥアーレはそのいずれかに潜り込み、クレアーツィ等も彼を追いかけている。




