第56話 帰還せし者
【滅びの光】
グリモワが作成していた決戦兵器。
常にその地にいる人間から魔導力を少しずつではあるが吸収し続けることで、エネルギーを蓄え解き放つ超兵器。
作中でのチャージ量が仮に地球で使われた場合、オーストラリア大陸が文字通り消滅してしまうほどの威力を持っている。
遮蔽物がない限りどれだけ離れていても見える。
誰もが認識する光の輝き、解き放たれればそれだけで戦争が終わるであろうソレ。
神話の世界の神々すらも霞む滅びの姿。
「っ、あの方角で何かあるとしたらアキョクのネルトゥアーレ城だけっ……撃たれる前にどうにかできるとしたらマギサザンバ―だけだけどっ!」
最高速度が亜光速のマギサザンバ―であれば今から向かってもどうにか阻止ができる。
そう、向かうことができるのであれば。
「ですけれども、ギガントアークをどうこうできるのはマギサザンバ―とドラゴニックザンバーのみ。向かわせればこちらの戦場で普通に負ける可能性が高いですわね」
この戦場からマギサザンバーを向かわせることなどできはしない、敵の主力への対抗手段が無くなれば負けは確定したようなもの。
故に彼女は迎えない、当然ドラゴニックザンバーも同様の理由で迎えないし、他のザンバーはそもそも間に合わない。
別部隊などそもそも距離が遠すぎる。
「……詰み、か」
連合軍の指揮官の一人が漏らした言葉、あぁ完全なる敗北。
マギアウストが投入された時、三十倍の人数がまるで吹けば飛ぶものとして扱われた。
数で戦争が決まる時代は一度あそこで終わったのだ。
一機のマギアウストと一万の人間であれば、一機のマギアウストに劣る。
これが現実であった。
風向きが変わったのは一人の英雄が立ち上がった時、ゴウザンバーと呼ばれる鋼の勇者がマギアウストを打ち砕いて行く。
一の英雄が戦争の結果を決める。
マルチザンバーという立ち向かう力が兵士たちに届けられた今であっても、戦争の大勢を決めているのはクレアーツィと共に戦っていた四人のみ。
戦争は完全に変わったのだ。
「これで何人死ぬのだろうな、まぁどうでもいい。私にとって重要なのはアレが作動するかどうかだ」
滅びの光を見つめながら、グリモワは呟く。
自分の作品が成果を残す、自分の作品が世界を変える。
ようやく純粋な自分の作品でそこまで行けるのだと。
だから彼にとって、この一撃によってどれだけの人々が死のうが構わない。
幾千幾万の罪なき命が潰えようとも構わない。
共に戦っている同僚や部下が死のうと構わない。
勿論その一撃で自分自身が死んでも構わないのだ。
それ程までに自分の作品が世に出て、どのような形であれ認められるということの方が、男にとっては重大な問題であり、大切な理屈なのだ。
「っ、数が多いのに動きも正確っ! 強いに決まってるけどぉっ!」
ノヴリスという指揮官が前に出てきた、という事実は大勢を皇国の側に引き寄せる。
ドラゴニックザンバーとギガントアークの性能差は圧倒的、されどその差を数と運用で縮めるということは、程度の差はあれど不可能ではない。
「……とは言え、これほどの相手を討つにはまだ手数が足りんか」
されどその差は縮めども縮めども大きな差である。
それも一撃もらうだけで死ぬというふざけた難易度で。
どちらにとってもやりにくい状況というのは変わらないでいた。
そんな激戦の最中である。
「あれ、急に軽くなった?」
もともとドラゴニックザンバーは、巨大戦艦マルチドラゴネットが変形したものである。
当然の話だが、その中身自体はマルチドラゴネットの時と大きな変化は発生していない。多少配置は変わることはあっても、位置が変わっただけ。
にも拘わらず、突如としての変化が発生した。
重量の変化、それも急に軽くなったと実感できるほどのである。
考えられるものとしてはダメージを負ったことで装甲などが剥がれた、という事態だがそのレベルのダメージは一度も受けていない。
気にする余裕はほとんどないが、だとしても異常事態による敗北はあり得る。
「……格納庫の辺り? な、無いっ!?」
故にこそ発生した以上に気が付いた彼女は困惑を隠せない。
「ゴウザンバーが消えた!?」
命の恩人の形見が無くなった。
人々の希望の象徴が無くなった。
動かせる人間も、動かす事態もなかったのに無くなった。
「はっ、いや何が起きたのよ!?」
「クレアーツィさん、忘れ物として取りに来たのかしら」
無論異常事態の報告は即座に行われた、混乱は連合軍全体に広がる――。
「なっ、ゴウザンバーが消えた? パイロットは、クレアーツィは死んだのではなかったのか!?」
どころか、通信を傍受した皇国軍にすらも広がっていく。
それほどまでにクレアーツィという男は、世界に影響を起こしてきた。
例え死んだとしても、そこで終わりだなどとかんがえていないものが非常に多かったのである。
だから今すぐその場から逃げねば死ぬ、という状況であることを誰もが忘れてしまっていたとしても仕方がないことである。
「ふむ、そろそろ頃合いか」
玉座に座るビートゥ帝の言葉、ソレは溜まりに溜まった魔導力の量を見ての言葉。
限界まで集められた魔導力の光、解き放つだけで戦争に勝利できる。
だからこそ、ゆっくりと正確に、より多くの敵を殺すためにタイミングを計っていた。
たったの一撃で敵の軍全てが消滅するタイミングを。
故に彼はその引き金を引く、ただただ絶対的な勝利のために。
これにより、皇国の勝利が確定した――。
「バーンドアップ!」
筈であった。
「なにっ!?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
いるはずのない男の声が聞こえたのだ。
「……どういう事だ、何ゆえ貴様がここに現れるっ!」
ビートゥ帝の視線の先には赤い炎が燃え上がっている。
そこに在るのは真紅の巨人。
その名は――。
「魔鎧戦記ゴウザンバー、ただいま推参!」
「死んだはずのクレアーツィが何故生きている!?」
大陸一の天才機械技師クレアーツィ・プリーマと、その半身にして人々の希望であるゴウザンバー。
この場に存在するはずのない、死者の参戦という横やりに苛立ちを隠せないビートゥ帝。
確かに死んだのを彼は"確認した"のだからこそ、この事態を理解ができない。
「自らの意思で地獄に落ちた貴様がなぜ――」
故に、何が起きたのかの一端を理解する。
「貴様、転生したのかっ! そして転生者がこちらに必ず呼び出されるというのも利用してっ――」
「その通り、転生者の存在はこっちでも把握していたからな……ならば死んだだけでは俺は止まれない、むしろ利用して当然」
自らの死すらも利用して見せたのだ、むしろ自分から死にに来ていたのだ。
直接皇国に乗り込んでいくために。
「……だがもう遅いっ! 貴様の到着ももはや――」
「その引き金は引かない方がいい、一日もあれば魔導具の作成ならともかく破壊は造作もない」
クレアーツィの言葉を聞かずにビートゥ帝は引き金を引く。
そうして集束していた魔導力の光が解き放たれ――。
「なっ!?」
霧散した。
「……言っただろう、俺が破壊したと」
光が消えたのは遠く離れた決戦の地でも目にできた。
「だ、だれが消したのよ!?」
ある者は喜びよりも混乱が強く出て。
「……最低限のラインは越えずに済んだか」
ある者は安堵し。
「……ふざけるなよぉ! そんなにもお前は一番出ないと気が済まないのかっ! 偶には私に、俺にいい思いをさせろっ!!」
ある者は激昂した。
「……ふっ、これはまた面白いことをしてくれたな、クレアーツィ」
絶対的な切札を打ち砕かれてもなお、どこか余裕を感じられるビートゥ帝の姿。
城の中で一人、にやりと笑ったままゴウザンバーを見つめている。
「なるほど、決戦の地に全部向かわせていたわけではないか」
背後から気配を察知し、クレアーツィは軽くつぶやく。
何がやってきたのかはよーく理解している、なにせソレは――。
「……もう一度私が殺します!」
自分が作ったものであり、自分を殺した相手なのだから。
「……かかって来な、エポン!!」
【クレアーツィ・プリーマ】
死んでいたが蘇った男。
異世界転生ならぬ、同世界転生を成し遂げた。




