第55話 滅びの光
【ザンバーブレス】
ドラゴニックザンバーの頭部から放たれる強力な魔導力の破壊光線。
口から放たれるそれはまさしくドラゴンブレス、並大抵の攻撃であればそのまま飲み込みむしろブレスの破壊力を増強する結果を生み出す。
目覚めし巨竜がギガントアークの軍団を打ち砕く。
それに続けと、魔法煌姫が空に青空を取り戻さんと飛び回る。
大地には無双の騎士と麗しき戦姫が兵士たちを引き連れ、皇国の戦力を押し返していく。
「ドラゴニックザンバーに、空を行く鋼のドラゴンに続きなさいっ!」
エストの指揮が響き渡れば、マルチザンバーは即座に行動を開始。たとえ有効打とならなくとも、英雄たちを狙う敵の攻撃を妨害していく。
時にはその手に持つ剣や銃で、ある時は拳や蹴りで。最悪の時にはその身全てをぶつけることでどうにかできることをしていく。
誰しもが生きるために、自由と希望を信じて戦い続ける。
「だがお前たちの快進撃もここまでだ」
されどどこまでも上手くいくとは限らない。いや、むしろ上手く行き続けることなどそうありはしない。
それが現実、そしてこれもまた現実だ。
「……ギガントアーク……なの?」
確かにその姿ギガントアーク、されど従来のソレとは意匠が違う。一目見るだけで分かる特別な扱いのソレ。
「……専用機って奴なのかな」
前世で見た記憶のあるアニメの中での描写を思い出し、竜希は身構える。
専用機、ある種ロボットアニメではあるあるな現象。
その多くが、エースの……優れた搭乗者のために調整されたマシーン。
つまりは約束された強者を意味する。
そしてそもそもの原型が強大な力を持つギガントアーク。強い道具を、強い人間が使う。
あぁ、実にシンプルな絶対強者の証明。
「このノヴリス、ドラゴンスレイヤーとなりに来た!」
エース、切札とはその存在そのものが人々に勇気を与えるモノ。
ノヴリスという男は皇国の一般の兵士たちにとってはそれは確かにエースであり、希望なのだ。
ギガントアークという、転生者だけが使える兵器を、ノヴリスは使って見せている。
彼らにとってはその事実だけで、自分たちもああなれるかもしれないという希望を生み出す。
故に生きねばならない、故に勝たねばならない、故に恐れていてはいけない。
決死の覚悟で立ち向かう連合軍の気迫に押されていた皇国の兵士たち、されど今の彼らも負けじと立ちはだかるようになった。
「……出てきただけで戦場の流れが変わるっ! これがエースっ!」
自身に向かって飛びかかる、ノヴリスのギガントアークの攻撃をいなしながら竜希は吐き捨てる。
別に前世でロボットアニメを熱心に見ていたわけではない、ただなんとなくそういう知識を知っていただけである。
けれども、その知識が目の前の敵は強大であると突き付ける。
「ザンバーテイル!」
攻撃をいなしたが故に背後に回られる、むろん振り向く時間が惜しい。
だからこそ、後方を攻撃できる武器が用意されている。
なにせドラゴンなのだから――。
「っ、男を尻で殴るのかっ!?」
強烈な尻尾の叩きつけが成立するのも至極当然なのである。
「っちぃ、さすがはクレアーツィの用意したトンデモか、ダーミラ! お前も出られるか!」
吹き飛ばされるノヴリス専用ギガントアーク、自身の最高傑作をそうもして見せる規格外を見れば、グリモ
ワも即座に行動を始める。
その一つとして、ノヴリスと同格であるだーみらへの出撃が可能かを問いかけ。
「……少なくとも無策で行ってこいはダメよ、アレ私が出てもマギアウストでは傷一つ付かないわ」
現状私に何もできることはないと突き返す。
あれほどの戦力ならば、雑兵が一億になろうが、一兆になろうがかかる時間が多少変化するだけで結果は何一つ変わらない。
かつて自分たちがマギアウストという、戦略兵器で暴れた時と同様。
違うのは立場が逆転しているというだけの話。
持ち出せば勝つ兵器を使う陣営が逆転した、死んだ天才が今もこちらを苦しめ続けるという事実。
しかもマギアウストの原型を作ったのもあの男、クレアーツィ・プリーマである。
はっきりと言えばグリモワの苛立ちは収まらない、自分の実力を知らしめるためにこの立場にいるのであって、立場など関係なく好き勝手やっている男の実力を突き付けられ続けるなど望んではいない。
故にこそ絶対的な逆転の一手を打たねばならない、連合軍は決戦の体制に入っている。
それはつまり、ここで勝てば皇国の勝利は確実だと言える。
「ふむ、ならば確実に勝てる一手があるとするならば?」
「……いつの間にそんなの用意していたのよ?」
ダーミラからすれば至極当然の問いかけ、少なくともマギサザンバーとドラゴニックザンバーという二つの脅威のことは誰も知らなかった。ギガントアークを打倒しうる存在はいなかったはずの戦いだ。
故にこそ、二機を妥当しうる何かが既に用意されていたのであれば、何のために用意していたのかが聞きたいと思うのも必然と言えよう。
グリモワは考えこみ、ほんの少し時間が経ってから答え始める。
「取り掛かり始めたのはこの戦争が始まる前の話だ、ビートゥ帝が今の立場になられる前に命じられたのだよ、できるように開発してほしいと」
「……それがようやく完成したと?」
「いや、完成自体はずっと前だ、使うタイミングがなかったんだよ」
グリモワにとっては世に出るのならばどのような結果であろうと構わないとは思っている。
そういうタイプであることをダーミラも理解しているがゆえにグリモワの言葉に嘘がないことも分かっているのだ。
「で、使えば勝てるんだ?」
「あぁ、この戦場で使えば勝てる、その為の時間稼ぎをしてもらいたい」
「分かったわよ、どれだけの時間がかかるの?」
「ほんの一瞬だよ」
グリモワの言葉を聞けば、ダーミラも頼みに従い即座に前線へと向かっていく。
「……A.D.D.R.起動承認」
「ほう、グリモワめ、アレを使うか……いいぞ、実に面白い展開ではないか」
ネルトゥアーレ城の支配者の間。玉座に座るビートゥ帝は皇国の首都であるアキョクで起きようとしている現象を楽しげに笑っていた。
何せアキョクの全てが光り輝いている。
ではこの光は何なのか? 問うまでもない、膨大なまでの魔導力の輝き。
その全てがネルトゥアーレ城でも最も高い場所に集っていく。アキョクの輝きが集い終わればさらに遠くからも魔導力が注がれて行く。
「魔導具とは大きければ大きいほどに強大な力を発揮できる傾向がある。では軽い問題だ」
誰に語るでもなく、虚空に向かって語り掛けるビートゥ帝。
「一国の領土全てが一つの魔導具だとすればその力はどれほどのモノだろうか」
されど確かに彼は何かを見つめている。
「そしてその一国が、大陸でも最も巨大な国家のモノだとすればどうなるだろうか?」
これほどの魔導力をどこから持ち出すのか? 言うまでもない、国民全員からの税収である。
生きとし生ける全ての人が持つ魔導力を税収として取り立てているのである。
集う魔導力が放つ輝きはもはや地上に現れた太陽、などというちんけなものですらない。
ただただ一方的なまでの、絶対的な力の象徴。
「そもそもの話、最初から私は戦争などしていない、しているのはどう勝つかの選択だけだ、最初から私が勝利するのは決まっているのだからな」
もしもこの光が解き放たれればどれだけの破壊が起きるのだろうか? 一つ分かっていることがあるとすれば、彼の意思一つで大陸の形が変化するという事実だけだ。
「……この距離でっ!?」
突如として発生した異常なほどの光量を察知しては、自身の位置と方角から何があるのかを理解する未来。
視線の先、光がある場所までアキョク以外何もめぼしいものなどない。
「っち、最悪にもほどがあるわよっ!」
舌打ちをするエストの言葉が、未来の地理の記憶に間違いがないことを示す。
光とは何なのかについても即座に推測ができる、魔導力そのものを破壊エネルギーとしてぶつけるつもりなのだと。
しかもそれなりに離れている場所でこれだけ鮮明に見える光なのだ。
「……ここどれだけ抉るつもりよ」
されども皇国の兵士たちはまるで撤退のそぶりが見えない。
(死ぬ気? ……いや、知らされてないのね)
自分たちの用に死んだとしても、という覚悟すらしていないであろう彼らに同情しながら、どうすればあの攻撃を凌げるかと考える。
凌げなければ全滅しかありえないのだ。
一目見れば分かる、防ぐ手段などありはしない。
それでもどうにかしなければ意味がない。
滅びの光は今にも解き放たれようとしているのだから。
【ザンバーテイル】
ドラゴニックザンバーの尻尾パーツ。
強大な打撃武装であり、姿勢制御のバランサーの役割も担っている。
マギアウストはおろかギガントアーク相手でも一撃で致命打となりうる破壊力を有している。




