第54話 小さな竜よ、今目覚めよ! ドラゴニックレボリューション!
【クレアーツィの遺言】
自分が死んだ後に困ったことにならないようにするために、定期的に録画されている。もうその話は解決している、なんて事態が発生したりしないようにするための配慮だとか。
「さてと、まずいきなり俺が出てきてびっくりしているだろう」
突如として映し出されたクレアーツィの立体映像、彼がまだ何か仕込んでいると考えていたとは言え竜希も困惑を隠せない。だがしかし――。
「……たった一人なのにもかかわらず、この艦で敵陣に飛び込もうなんて考えているだろう」
さらに竜希は驚かされる、事実としてそうしようと考えていたのだ。現状の位置では敵軍に有効打となりにくいと考え距離を詰めようとしていた。
「結論だけ言えばこれは当然録画されたもの、こいつが一定以上の距離に近づこうとしている時とか他にもいろんな条件が重なった時に流れるようにしていてな」
「お、驚いて損した」
されど、この状況を予測したうえで何かを伝えるために撮影されたものだという事実は変わらない。
「……このまま突撃すればマルチドラゴネットが墜ちるだけ、分かっているな?」
竜希は「だとしても」そう口にしそうになるが、しかしその前に映像の中のクレアーツィが先に語りだす。
「安心しろ、俺はお前のそういう考えを否定しない」
故にこそ、彼の言葉に竜希は何をすればいいのかと、焦らすのはやめて欲しいと思考する。そりゃあそうだ、時間は有限であり、しかも時間はこちらに味方をしてくれない。
「……だからこそ、マルチドラゴネットではなく、第零のザンバーの力を見せる時だ」
「第零のザンバー!?」
突如クレアーツィが口にした言葉。
「あぁ、ゴウザンバー以前に開発していた、俺も動くところを見たことがない鋼の勇者」
だがしかし、竜希はそんなものがどこにあるのか知らない。知らない以上乗り込むことも操ることもできはしない。
そしてそもそも竜希からすれば、クレアーツィすらも動くところを見たことがないなどと言われてしまえばまともに使えるモノではないのではないか。そう考えざるを得ない節もあった。
「こ、こんな状況でそんなことを言うために録画したの!?」
非難の言葉を口にして、思い返す。
クレアーツィという男が、そんな意味のないことをするだろうか?
断じて否。
「お前は既に第零のザンバーに乗っている、後は機動のための言葉を口にするだけ」
「……何を言っているの、乗っているのはマルチドラゴネットであってザンバーじゃ……っ!?」
理解できた、竜希は最初からマルチドラゴネットに乗っていたのだ。
だとするのならば納得がいく、動かすことに心配も必要ない。だって最初から動いているのだから。
ならば問題が発生するとすればマシーンではなく、搭乗者の問題。
故に竜希は応えねばならない、彼からの信頼に。
「竜希、今から映し出される言葉を言え、それで目覚める」
目覚めの言葉、伝えられた言葉を頭ではなく魂で理解する。後は竜希自身が戦えるかどうか。
ほんの少しの時間目をつむり、精神を集中させる。
「準備はできた、後はやってみせるだけっ!!」
少女は守られる側から戦士へと変わる、たとえどれほどの絶望が待ち受けようとも立ち向かう決意を手にして。
今こそ、子竜は成長する。より強い力を振るう巨竜、それこそが第零のザンバー。
「竜輝咆哮!!」
竜希の、いやマルチドラゴネットの咆哮が戦場に響き渡る。
「な、何が出てくる!?」
皇国の兵士だっただろうか、それとも連合軍の兵士だったのだろうか。誰が口にしたかもわからない、ただ彼らが天を見た時、突如として艦が現れたのだ。
「な、何が起きているんだっ!?」
現れた艦、それがさらに変形を始めて行く。艦から人へと代わるその姿、まさしく神威。
全長五十メートルのギガントアークすらも小人に見える、異常なる事態。
「……クレアーツィ、なんてもん仕込んでたのよ!?」
「……彼ならこう言いますわ、常に切札は仕込んでおけと」
「……あはははっ、言いそう」
エストらの言う通り、クレアーツィが用意していた第二の切札。
転生者自体が膨大な魔導力を持つ、そして竜希はその転生者の中でもダントツの魔導力量を持つ。
ならばその全てを扱いきれるザンバーの性能がどうなるのだろうか。
「なっ、く、クレアーツィ貴様っ!」
突如として前線で勃発した異常事態、空飛ぶ戦艦の話は把握していたが、それが変形を始めたのを見た時グリモワは最初理解を拒んだ。
実際問題として、ああ言ったことはやろうと思えば自分も近いことはできるだろう。
でもできるとは言ったが、実際に行えるとは言っていない。
勤め人であるグリモワは、ビートゥ帝が許可しなければ開発することができないのだ。
だからこそ、空飛ぶ戦艦が変形して巨大な鋼の巨人になる、などという荒唐無稽で常軌を逸した発想のモノは作れないし、作ろうとも思わない。
理解しているからこそ、グリモワにとってこの事態は想定しておかなければならない事であった。
なにせこの事態を生み出したのはグリモワにはなくて、クレアーツィにはあるもの。
「……きっ、貴様ぁ!」
圧倒的なまでの表現の自由、その力が思想を縛られていた男に突き付けられたのだ。
「ドラゴニックザンバー!」
竜の自信を知らしめる咆哮が轟く。
「ま、まずはあのデカ物をつぶせっ!」
「デカいということは被弾面積がデカいっ! ただの的だっ!」
誰が言ったのかも分らぬまま皇国の兵士の一人がそう口にすれば一斉に攻撃を開始する。高圧電流、強烈な熱線、絶対零度の冷凍光線。
四方八方から放たれる殺意の全て。
無論一つ一つが砦や城など造作もなく消し飛ばす滅びの一撃。
「ザンバーブレス!」
その全てが竜の吐息に飲み込まれていく、圧倒的なまでの力の差を叩きつけるかのように。
「なっ、なんだあの化け物は!?」
勘のいい兵は即座に距離を取り別の戦場に向かう、こいつには勝てないと。
さて、魔導具における巨大とは一般的な意味での兵器の巨大とは根本的に大きな違いがある。
それは使える力の大きさを意味する。故に桁外れに大きいドラゴニックザンバーは、桁外れに強いということを意味する。
無論大きくなることで被弾しやすい、制作するのに材料などが多く必要になる、などといった要素は発生する、物理的にどうしようもない事実なのだから。
だがしかし、それは完成したドラゴニックザンバーの姿を見れば大したことはない問題だと理解するだろう。
この光景を見た時人々はシンプルな回答に至る。
魔導具は大きければ大きいほどに強いということだ。
「無理矢理道をこじ開けますっ! そのまま突き崩しましょうっ!」
ドラゴニックザンバーの叫びに続け、そう言わんばかりに連合軍のザンバー達が突撃を開始する。
「あらあら、新しく参戦された方々にばかり良いところを持っていかれるわけにはいきませんわよねっ!」
「当たり前でしょうっ!」
当然、その先頭にあるのはブレイドザンバーとブラストザンバー。この戦争が始まって、今連合軍の反撃が皇国に突き刺さろうとしていた。
【ドラゴニックザンバー】
クレアーツィが開発していた第零のザンバーにしてマルチドラゴネットの真の姿。
変形の結果サイズダウンしており、マルチドラゴネット時は五百メートルだった全長も二百メートル程になっている。
もともとの万能な魔導具として開発していたものの、まともに使うことができないということでダウンスケールしたものがゴウザンバーであった。
そんな本機も、ようやく日の目を見ることとなったのである。




