第5話 新たなるザンバー開発計画始動!
【機械技師】
一般的には魔導具の中でも複雑な道具、機械を製造する技術を持っている存在を指す言葉。例えどんなものであろうとも、条件を満たしている魔導具を作れるのであれば機械技師と呼ばれる。
なお、例外として魔導石に頼らない技術で道具を作る人々も一部存在するが、あまり一般的ではない。
「はっ、わ、私のためのを作るって――」
「悪いが一人だけヒーローになって戦後に疎まれるとかのあるあるな流れを避けたいんだよ、巻き込まれる信用できる奴の一人になってもらうぜ?」
クレアーツィの目はすでに戦後の起こりうる可能性を想定していた。御伽話でもよくある流れ、世界を救った英雄が怖くなった民衆によって迫害される。はっきりと言ってそんなことになれば、自分が生きるために迫害する者たちを一掃するかもしれない。
が、クレアーツィはそれを望まない、彼自身完全無欠のハッピーエンド主義者であり、さらに言えば――。
「無辜の民をぶっ殺しだしたらそいつは絶対にヒーローじゃないからな」
「いきなり何言ってんのよ、それで私の要望だったわね……本当に私以外が使うことは考えないのよね?」
とエストが突っ込みを入れつつ問いかける。自分だけが使うのか、それとも他の人間も使うことを想定するのか、それによって求めるモノは変わってくる。
魔導具は物によっては使用者によって癖のようなものが出る物もある、これが出やすいように作れば使用者に使いやすいが他者はまともに使えない物になることもある。
「あぁ、完全にエスト専用ザンバ―、その方が盗まれても問題ない」
「ちょっ、なに盗まれたときのこと考えて……おかないといけないのよね、既に一度あったことだから」
すでにマギアウストという形で盗まれた設計図が悪用されている。故にその後のことを頭の中に常に入れておく必要がある。
完全にその人間が使うことしか想定していないものは悪用されにくいだろうという判断であった。なにせ悪用しようとする人間がそのままでは使えないのだから。
「じゃ、そうね……まず、火とか風の魔導石は適性がないからそれは積まないで、逆に一番適性があるのは――」
「切ることに特化した魔導石、だろ?」
「分かっているじゃない、だからそれをメインに、後はゴウザンバーと違って手持ち武器、剣を頂戴」
そう言いながらエストは自身の要望を述べていく、機動力を高めにしてほしい、細かい動きも正確にできるように、私のイメージに合わせて色は考えて。などといった性能面から外見の面まで含めての大事なものからどうでもいいことまで含めて。
無論できる範囲でではあるが、クレアーツィはその全てを叶えるつもりである。
「ん、できる限りは全部採用するさ……だけど、問題はこれだけじゃない」
「えぇ、私用のを作る辺りから想像したけど、もっと他にも作るんでしょ?」
「あぁ、俺とお前だけが皇国に勝ててもジリ貧、3か所同時に攻められたら絶対に1か所負けるのが現状だからな」
皇国軍は連合国軍より人数では劣るものの、マギアウストは無数に存在する。ゴウザンバーが必ずマギアウストに勝てても、全ての戦場で立つことはできないのだ。
シンプルゆえにどうしようもない問題、だからこそ解決策もシンプルになっていく。
「で、その新ザンバーを託すのにふさわしい相手を探していく必要があって」
共に戦う仲間を増やす必要がある、数に対抗するために数を用意するという至極当たり前の回答である。
そしてそれを実行するために必要なこともシンプル。
「当然各地で戦場を転々とせざるを得ないわけで」
「しかもそれをしながら開発建造しないといけない……どうするのよ」
戦場から戦場へと動く以上、当然ながら移動しながら出ないといけない。だがしかし、開発建造をしなければならない以上、研究所のような設備が必要になるのも当然の話である。設備をわざわざ持ち運びながら戦場を渡る。確かにやろうと思えば可能だが、あまりにも労力がかかりすぎる。
故にこそ必要なものは、開発ができてさらに移動できる拠点という代物。
だがそんなものを用意できるのだろうか?
「という問題を俺が考えていないと思ったか」
と笑みを浮かべながらクレアーツィはそう断言する。そのような問題は問題足りえないのだと。
「もともといろんな場所特有のモノとかも研究に役立つからな……この研究所と同様の移動研究所を作っていないと思ったか!」
と渾身のどや顔を浮かべながら、胸を張り、無駄に格好をつけたポーズを決める。ついて来いとそのまま移動を開始すればその先にあったのはまるで――。
「こ、これって戦艦かなにか!?」
「大正解!正確には魔導万能輸送要塞艦、その名もマルチドラゴネット」
全長五百メートル、全高四百メートル、全幅四百二十メートルという巨大なそれは確かにこれが動くのであれば移動の問題も研究の問題も解決しそうに見える。が、しかしこんなものを作って何をするつもりだったのか、それをエストが問いかけると。
「なんか作れそうだから作った、それ以上でもそれ以下でもない」
などという拍子抜けな回答が返されたわけである。
つまりは使う予定は元々なかったというわけだ。
クレアーツィの性格からしてこれを売りに出すつもりもなかったといっていい。やらなければならないやりたくない事には力を発揮しないが、やらなくていいやりたいことには全力投球、良くも悪くもダメ人間の類だとエストは考え。思い出す――。
「ま、そんなあんたのおかげで逆転の可能性が見つかったのよねぇ」
その時必要でなくても後々必要になるかもしれない、ダメ人間の類のおかげで勝てるのだ。 と考えを改めようと冷静になり、気づいてしまう。
「でもマギアウストがなかったら皇国もここまでできなかったんじゃないの?」
「そこに気が付いたか」
苦笑いを浮かべるクレアーツィを見て、エストは再びこいつやっぱりダメ人間だわと理解していた。
「とは言ってもあっちにも優秀な機械技師はいるからなあ、遅かれ早かれ超兵器魔導具は開発されてたと思うぞ」
「と自己弁護しても別にいいんだけどさ、移動拠点の問題は解決したけど、新しい問題ができたわね」
そう言いながら視線の先にある巨大なソレ、マルチドラゴネットを指さす。その問題というのが――。
「動かすための魔導力が足りない、だよなぁ」
当然の話だが魔導具は全て同じだけの魔導力が在れば動かせるわけではない、多少の工夫で必要な魔導力を減らすことはできるが、減らすことができるだけであり、大きなものを動かすのにも当然大量の魔導力が必要になるわけである。
それもマルチドラゴネットほどの巨大な代物、一人や二人で扱える代物では断じてない。
「ははは、という訳で人集めよう」
「……しかも、それするのメイン私でしょ」
「そりゃそうよ、俺はお前用のザンバー作らないといけないし」
真顔でそう宣言するクレアーツィの脳天に拳骨を叩きこみつつ、エストはやれやれといった様子で適当に人探ししてくると告げ外に出る。
この二人の幸先はいきなり暗雲に包まれてしまったわけである。
無理難題をどうにかしなければならないエストは軽く頭を抱えていた。
一方そのころプリーマ邸近くの森、そこではある出来事が起きていた。
「ぬぅぁぁぁぁぁぁ、転生したら森の中で放置ってなにこれ!?」
常人には理解できぬ内容の叫び声をあげつつ、つい数分前まではそこにいなかった少女が突如として現れていた。
「転生特典が、転生先では最高レベルの魔導力量の持ち主ーってのはうれしいけどさ?」
この世界に住むまともな者たちが彼女を見れば2つの可能性を思い浮かべるだろう。大陸の外からやってきて、理解ができない言葉を喋っている人物。それか頭のおかしい奴か。
「でもさ、私その魔導力とやらの使い方知らないもん、ステータス画面とかチュートリアルとか出してよ!!」
残念ながら彼女は大陸の外から来たという点はあっている。だがしかし彼女はいったい何者なのだろうか。
【ネルトゥアーレ皇国】
大陸でもっとも強大な力を持つ国家、先代のベステ・ネルトゥアーレ帝の尽力もあってそれだけの強国になったという歴史を持ち、様々な面で大陸の最先端を走っている。
現在のビートゥ・ネルトゥアーレ帝の力による支配という方針の転換によって多くの人々が現在、国民も含めて苦しめられている。
クレアーツィも幼少期はこの地で勉学を学んでいたこともあり、彼自身はこの国のことを悪く思ってはいない。