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魔鎧戦記ゴウザンバー  作者: 藍戸優紀
第二章 転生騎士団編
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第53話 我ら鋼の決死隊

【決死隊】

 甚大な被害を覚悟した部隊を使った戦術、死よりも戦果を求めるためのソレで在る。

 これをしなければならない段階で負けの可能性が濃厚であるのは言うまでもない。

 その日が来た。


 雲一つない空、しかし青が視界に入ることはない。


 そこに在るのは黒、黒、黒。一面の黒一色。


 ぺんぺん草すら生えない、荒れ果てた大地。小さな小動物すら近づかない土地だ。


 にも拘わらずそこに在るのも黒、黒、黒。


 その全てが鋼の軍団、見るものが見れば絶望というものを理解するだろう。




「……ギガントアークの軍団、とはいえあの量は異常よねぇ」


 視界に入ったソレを見て、エストはブレイドザンバーのコックピットの中で溜息を吐く。


 当たり前の話だ、ギガントアークを破壊して見せたのは合体形態のザンバー。すなわちゴウザンバーが必要なのだから。


 そして今ゴウザンバーは動かない、乗り込む人間がこの世にいないのだから。


「……さてと、アレどうします?」

「私がやる、どうにか暴れてくるから」


 アーロの問いかけに応じたのは未来、いや今の彼女はピュアグリッターというべきか。どちらにせよ、彼女がたった一人であの軍勢を押しとどめるというのだ。


 はっきりと言えばアーロからすれば自殺行為にしか聞こえなかった。


 それはそうだ、ギガントアークと直接相対した人間として、単独のザンバーでの勝利などまるで想定できないのだから。


 アーロの全てをかけた攻撃すらも無力化される防御などというふざけた力、それをぶち抜くには三人係でようやくというもの。


 そんな怪物の軍団を相手に彼女はたった一人でどうにかするというのだ。


「……やらせてあげましょ、魔導力量のことを考えれば互角、そしてクレアーツィの用意していたザンバーということならば当然上回るのだから」


 当たり前だが、性能で上回っているとしても数の差というのを覆せるほどではない。エストだって理解はしている。


 だが可能性があるのはソレしかないのだ。


 例え死が定められているかのような内容であっても。


「……それに、この戦いで戦う人は皆覚悟してるでしょ?」


 命などとうに捨てた……というのは言い過ぎだが、すでに彼女らも生きたくはあるが、死なねばならないのならば死ぬぐらいの覚悟はしているというのだ。


「……でしたわね、一秒でも長く生きることだけ考えましょうか……よかったら戦後また会いましょう?」

「さてさて、それはどうかしら……みんな忙しくなるでしょ?」


 この言葉を最後に、三機のザンバーは数えるのもばからしくなる敵の中に飛び込んでいく。


 それを追うように、無数のマルチザンバーを引き連れて。




「やはり、ゴウザンバーの姿はない……か、代わりにいるのは空を飛ぶザンバー」

「あの見た目、魔女ってことかしら?」

「デザインに意味を持たせるのはクレアーツィのスタイル、恐らくはリザディ辺りが後を継いで完成させたものだろう」


 三大将軍は皇国軍の後方からじっと前方を見つめている。ザンバーの軍団というのは驚くに値するものだが、だとしてもどうにでもなる相手にすぎない。


 いつも通りに戦えば勝てて当然の戦い。ひっくり返しうる男ももういない。


「……グリモワ、私のマギアウスト……いや、ギガントアークはできていたな」

「……完成はしているが、アレを使うのか?」

「……命を賭けねばならん程度にはこの戦争のことを考えているだけだ」


 男は、ノヴリスはそれだけ告げれば格納庫の下へと向かう、自分が出なければならないタイミング迄はコックピットに座ったままでいるのだと示すように。


「……グリモワ、ノヴリスのためのギガントアークってどういうこと?」


 ノヴリスは当たり前の話ではあるがこの大陸で生まれこの大陸で育った存在、間違っても転生者などと呼ばれるものではない。


 そしてギガントアークとは転生者の膨大な魔導力で無理矢理成立させている化け物、ノヴリスでは動かすことなど不可能なはずであった。


「生きている限り無限に生成され続けるのが魔導力というのは分かっているな、ダーミラ」

「そりゃまぁ当たり前の話でしょ」

「だから無駄に消費している分をため込む装置を使ったんだよ」

「なっ、そんな便利なものがあるんだったら私に渡しなさいよ! 私の方が魔導力多いんだし」


 グリモワの説明に困惑を隠せず、完成させたのであれば自分に渡すべきだと告げるダーミラ。


 実際問題、ダーミラの方が魔導力量は多い、故にこそダーミラに渡す方が効率が良くなるのも当然の話ではあった。


「……効率だけで言えばな、正直なところあの欠陥品を渡すつもりはなかった」

「欠陥品?」

「一度外部にため込む以上、魔導力は指向性を失ってしまう、どのように使うのかを定めるには再び体を通す必要があるということだ」


 一度出したものをもう一度体に入れなければならない、まぁ言葉にすると簡単そうに聞こえる。


 だが決してそんなはずがない。


「……つまりなに? パンパンの風船にさらに水を無理矢理入れるようなことをするってこと?」


 彼女の言葉は俗に染まりすぎているものの理屈の上ではそういう話。


 少しでも入れすぎればどうなるのかは目に見えている、狂気の沙汰とでもいうべき行為。


 しかも行うのは風船ではない、人間がするのだ。


 痛みを感じる人間が。


「全身激痛が走り続けるだろうな、しかもその状態で正確なバランスを維持しなければ内側から破裂する」


 決してまともな人間が、いやまともじゃない人間でも扱う奴はそうはいない代物。しかもわざわざ使わねばならないような戦場でないにもかかわらず。


「……あぁなりたくないわ、私」

「だろうな、アレはああでないといけない奴だけがなる状態。なりたくてなれるモノではないし、なりたいと思う奴は狂っているだけだ」

「……皇国のやり方合わなくなったんでしょうねぇ」

「ビートゥ帝と先代であるベステ帝以前では全然在り方が違うからな」


 三大将軍は例外なくベステ帝時代からこの地位にいる者たち。故にこそ皇国の路線変更を受けて去るという選択肢もあった。けれども今も彼らがここにいるのにはそれなりの理由があった。


「グリモワはどうして今もここに残っているんだっけ?」

「簡単だ、そもそも私は研究ができればそれでいい」

「たとえ世界がどうなろうと知ったことではないと」

「当然だ、今私が興味があるのは私がどれほどの魔導具を作り出すことができるかという未来だけだ」


 故にこの男は皇国から離れない、なにせ環境で見れば最も優れた研究環境は皇国にあるのだから。


 大陸で最も優れた国の、最も優れた研究環境、故にこそ次の魔導具の性能はより良いモノが出来上がり続ける。


 だからグリモワという機械技師は皇国に、スポンサーに従っているのだと。


「そういう貴様はどうして……と聞くまでもないな」

「えぇ、金よ」


 なんともシンプル、誰もが働く理由。それだけでここまでの立場になったというのだから世の中に天才というものは色々いるのだ。


「方向性は違えど貴様もクレアーツィと同じタイプか」

「あら、アレは良くも悪くも見返りを求めず自分がやりたいからやってた天才でしょ。私は儲けるために頑張ってたから違うわよ」

「それだけの理由でここまで頑張って結果を出す奴を私は他に知らん」




 マルチドラゴネット、クレアーツィが作り出した空飛ぶ戦艦。


 今この艦は前線から少し後ろの位置で空を飛んでいた。


「……私にできることをしないとっ」


 砲台として使うために。


 今まではザンバーだけでも勝利することができた。けれどもこれは決戦、出し惜しみなどしていられない。


 たった一人で竜希は今までとは違うのだと、戦う決意をする。


 そんな彼女が普段も使っている定位置に座る。次の瞬間であった。


「……さて、とこいつを見ているってことは乗り込んでいるのは竜希だけってことだよな」


 クレアーツィの姿が突如として映し出された。

【ノヴリスのためのギガントアーク】

 本来彼がギガントアークを操ることなどできる道理はない。にもかかわらず存在する代物。

 それ相応の無茶をして初めて動かすことができる兵器、そんなものを使うことを望む彼の思惑やいかに。

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― 新着の感想 ―
[一言] >クレアーツィの姿が突如として映し出された わあ出たぁ!
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