第52話 決戦前夜
【ザンバーバトン】
マギサザンバーに用意された専用装備。
見た目としては魔法のステッキを模した武装、魔導力を純粋なエネルギーとして運用することに長けており、斬撃武装としてリボン上に展開したそれを操ることができる。
発生している魔導刃はその姿通りひらひらと舞うが、正しく扱うことができれば変幻自在の攻撃をすることができる。非常に使い手を選ぶ武装。
マギサザンバーが帰還した、その知らせと共に兵士たちが集まりその姿を一目見ようと様子を見に来る。当然の話だが兵士たちの中にはエストとアーロの姿もあった。
「ふふっ、さすがはピュアグリッターといったところかしら……?」
「初めて乗ったと考えれば十二分の戦果ですわね、むろんまだまだやれるのでしょうし」
クレアーツィと共に戦っていた、その事実だけで二人が本物であると兵士たちは理解している。自分たちが勝てなかった怪物相手に、ザンバーの性能はあるもののたった四人で戦い続け勝利してきた英雄の力を疑うほど愚かなものなどいるはずがない。
ではその二人が認める未来の、ピュアグリッターの実力はどうだろうか?
問うまでもなく本物の実力者、誰も疑わずに信じられるものだと納得しているほどであった。
それほどまでに二人の信用というものは強く、信用を支えているのはゴウザンバーらの活躍が兵士たちの心の支えになっていたからだろう。
マギサザンバーに集まっていた兵士たちもそれぞれの持ち場に戻っていけば、未来はすぐにリザディに細かい調整を任せる。
そうして何もすることがない自由時間が生まれれば、彼女らはそろってマルチドラゴネットに乗り込んでいく。
彼女らの部屋がそこに在り、仲間である竜希がそこにいるのだから当然である。
「……決戦ねぇ、ここからならネルトゥアーレ城まで一直線……とはいえかなりの距離でしょうけど」
「えぇ、しかもこの戦いの希望を生み出した方が不在という状況でですわよね」
四人集まれば始まるのは自然と明日から始まる決戦の話、休む暇もない激戦が待っていることを噛み締めればアーロが一言呟く。
クレアーツィの死亡、まるで想定していなかった……想定しているはずのなかった現状、出会ってからの期間の長さの大小は関係なく、彼に方向性はともかく惹かれる何かを感じている面々。
故にこそ彼が死んだという事が大きな影響を与えていないはずはない。
事実として兵士たちの前での表向きはエストとアーロもおとなしくしていたがシミュレーターでは、初心者相手に一切の遠慮も指導もなく、ひたすらに暴れ続けるだけというありさまを見せていた。
それでもなおろくに被弾せずに勝利しているあたり二人の実力の高さというものはあるのだろうが、明らかに冷静さを欠いていたのを四人全員が理解していた。
未来はクレアーツィが残していた遺言の存在を予感していたし、その予感が的中したこともありまだ何かあるのではないか、と勘を働かせていた。あの絶対的なピンチからもどうにかして見せたうえで、さらに自分を救って見せた男という点での信頼だろう。実際どうなのかはこの際どうでもいい、まだクレアーツィは共に戦っているのだという予感が彼女を多少は冷静にさせていた。
ならばそう言ったものもない竜希はどうだろうか?
「……大丈夫、死んだだけじゃあまだ終わらないよ」
まるで彼がまだ死んでいないかのような、そんな風に考えている。
「……そこまで肩入れしてくれてたのね」
「……無理なさらないでくださいね?」
彼女の言葉を聞けばエストとアーロが口にして心配する様子を見せる。二人以上に心にダメージを負ってしまったのだと、場の面々が考えるのも無理はなかった。
「ビートゥ帝っ! 各拠点にてマギアウストおよび転生騎士団の配置が完了いたしましたっ!」
ネルトゥアーレ城の皇帝の間、玉座に座る男に向けて一人の兵士が告げる。準備が完了した、ただそれだけの事であるにもかかわらず兵士は歯を食いしばり危機感すら感じ取った様子で見つめている。
「ふむ、三大将軍全てが前に出る決戦だ、これに勝てねば奴らも大したことはなかった……いや、人選ミスとして私の能力不足か」
微笑みを浮かべては、自嘲するように語るビートゥ帝の姿を見て男はこの場にいることがまずいことを理解する。だがだとしても、まだ伝えねばならないことがあるのだ。
だから機嫌を悪くしないで欲しい、そのあふれ出す威圧感を収めて欲しい。
「それと、そのですね……転生騎士団の候補が現れる、転生の間なのですが」
「あそこには特に何もないだろう? どうかしたのか?」
「あそこに掛けられていた鍵が何者かによって破壊されました」
「ほう?」
告げられた明らかにおかしな事件についてビートゥ帝は明確に不快感を滲ませながらも問いかけていく。
あぁ、確かにこの事実を伝えることは大事なことだ、その時彼はそこにいなかったのだから彼に当たるのはよくないことだ。
が、それはそれとして不快感を感じることそのものは止められないし止める気もない。
「そうか、それで他に分かっていることは?」
「はい、誰もあれを起動していないがゆえに、新しく追加された可能性は本来薄いにもかかわらず鍵は内側から破壊された痕跡があるとのことです」
「あぁ、アレを動かせるのは私かダーミラだけだがダーミラは今この城にいないからな、転生者が現れる可能性はあり得ない。にもかかわらず内側から破壊されたと」
無論ビートゥ帝が新しく転生者を用意しソレに破壊させたという訳ではない。というか、それならばさっさと種明かしをするタイプの存在だ。
だからこそ、自分から言わないのであれば彼はその原因では断じてない。
「……つまり、こういうことか我らの干渉を無視してこちらにやってきた転生者がいると」
「は、はいっ! そ、そうなりますっ!」
故にこの事態について考えられる答えはただ一つだけ。
「おそらくはただの劣化だ、気にするな。この世界に現れる転生者は私が認めない限り現れない」
劣化していたところにネズミか何かがぶつかって壊れてしまった。あぁ、実にふざけた結論だ、仮にミステリーでこれを理由にされたならば絶対に許されない自信がある。
だがそれが一番自然な回答であり、それ以外の要因などありえないのだ。
「……いやはや、幸運というのもあるもんだ」
ネルトゥアーレ城のキッチンに一人の男がいた。男は当然ながら彼はこの城のコックではない。にもかかわらず誰もいないことをいいことに彼は一人勝手に料理を始める。
男は燃える炎のような赤い髪で、体格もそれなりによく見に纏っている服もそれなりの家の人間であることが見えてくる。
彼の持つフライパンの上では肉が焼け、部屋の中にはお腹が減る匂いが充満していく。
調理を終えた彼はさらに乗せるのも面倒くさいとばかりにフライパンを皿代わりに食事をし始める。
「うん、美味いな」
満足そうに笑みを浮かべながら、男はただただひたすらに肉に食らいつく。ナイフとフォークを使って行儀よくなんて姿は欠片もない、そんな手間暇をかけられるほどお腹の減り具合に余裕がないとばかりに、獣のように食らいついていた。
「……さっすが皇国の、いやビートゥ帝のために用意されていた肉……適当な調理でもうまいじゃないか」
どこか苛立ちを隠さないままに食事を終えれば、さっとフライパンを洗い元々あった場所に戻していく。
肉と調味料が減ったこと以外自分がいた痕跡を無かったことにしようとしている。
当然だが減ってるのでバレるのだが。
「腹ごしらえも済んだし、俺がやりたいこととやらなきゃいけないことするか」
笑みを浮かべて食堂から出れば、城の中のどこかに向かって彼は一人歩き始める。
まるでここにいて当然だとばかりに、ここにいるはずのない男が。
為さねばならぬことを為すために。大陸の、いや全ての人々のために彼は行くのだ。
【ザンバースターグリッターエクスティンクション】
マギサザンバーの必殺技、ザンバーランチャーから放たれる広範囲を一気に攻撃する破壊光線。
もともとピュアグリッターの必殺技スターグリッターエクスティンクションをザンバーで再現するという思考から誕生した技である。
その破壊力は一撃で山が消し飛ぶほどの破壊力があるという。




