幕間 あの日の話
知らぬ間に私は彼に惹かれていたのでしょう。
当初の予定では、彼と親しい仲となり私を……フォストという国の力になってもらうことが目的でした。
お父様にはしなくていいと言われましたが、戦後のことを考えれば必要なことだと考えていましたので。
彼の、大陸一の機械技師としての力。そして戦争に勝利した時彼は偉大な英雄としても名を残すことになる。
えぇ、彼はそれを否定するでしょう。彼はそれを望まないでしょう。だとしても彼はそうされる未来にあった。
負けた時? その時は何も残りませんので考慮する必要はありません。勝たねば未来はないのです、負けることを考えないのではありません、負けたら未来がないだけです。
そんな、ある意味打算的な理由もあって彼の戦記を彩る一つの花となった私。ですが、彼はそれを気にしません。
というか、多分素で気づいていないのでしょう。エストさんが言っていましたが、彼は……クレアーツィさんは人の気持ちを考えるのはそんなに得意ではないのだとか。
それが突破口になることもあるそうなのですが、基本的に人とのかかわりよりも自分の趣味に生きてきたような人なのだとか。
まぁ、どちらにせよ彼にとって私は頼れる戦友でしかなく、その関わり方が私には心地よかったという話なのですが。
これは私と彼とのちょっとしたお話です。
飛び交う砲火の中を駆け抜ける赤い巨神、鋼の獣の軍勢に向かって飛びかかる勇者は拳を向け構える。
「ザンバァァフィストォォォ!!」
男の叫びと共に空を割き解き放たれた鋼の拳。その一撃は進路上にある獣の全てを打ち貫き、一つの道を作り出す。
されど、ただ一機で敵陣に飛び込む彼を獣たちは取り囲み、数の力を武器として四方八方から襲い掛からんと飛びかかる。
「ザンバーキャノンっ!」
高らかに告げられる武装の名と共に、後方から獣目掛けて数発の砲撃が放たれる。
全てが獣たちにとって致命打となり得る攻撃。故に感がいいモノは即座に砲撃の範囲から離脱しようとバックステップをしようとする。のだがしかし、全てが対処できるかどうかは別問題。遅れた仲間にぶつかっては攻撃範囲から離脱することもできずに砲撃で撃ち貫かれて行く。
「エストさんが防衛していた辺りは仕留め終わりましたわ!」
砲門から継続して放たれる魔導力の塊が鋼の獣、マギアウストを吹き飛ばし続けながら彼女は語る。
残っているのはこっちの連中だけだと。
「はははっ、ブレイドザンバーは早くて速いからなぁ……だったらお姫様、お手伝いいただけますか?」
軽口を叩きながらも、マギアウストを殴り飛ばすのをやめないゴウザンバー、勇猛果敢なその姿は人々に希望を与えるモノ。
「よろしくってよ、それでは行きますわよ!」
ゴウザンバーの隙を潰すように放たれる魔導の矢と砲、ブラストザンバーの連続射撃はマギアウストを吹き飛ばす嵐そのもの。
されど、獣たちは狡猾であった、自分たちが死ぬことを前提とした策略が張り巡らされていたのである。
「っ!? アーロ! 下がれ!!」
クレアーツィの叫びと共に大地が裂け、マギアウストが飲み込まれてゆく。
無論そのド真ん中にいたゴウザンバーがどうなるかなど言うまでもない。裂け目の中に吸い込まれていく赤き勇者の姿を見て、ブラストザンバーは一瞬動きを止める。
これが命運を分けた。
「わ、分かりましたわっ!?」
ブラストザンバーは、各ザンバーの中で最も遅いザンバー、裂け目から逃れるには行動も遅すぎたのだ。
二機のザンバーが落ちる、地の底目掛けて一直線に。
この事態に彼らの仲間が気が付いた時にはもはや手遅れと言っても過言ではなかった。
「っ……、どこまで落ちた?」
すさまじい衝撃によって意識を失っていたクレアーツィ、彼が目を覚まし自分の状況を確認しようとゴウザンバーを稼働させる。
彼の視界に映るものそれは―。
「……命かけてやるような作戦じゃねぇだろ」
砕け散った無数の残骸と化したマギアウスト。呆れたというよりもこういった作戦を実行する皇国のやり口に怒りを面に出しつつも、どうにかして地上に上がる手段を思考しようとし―。
「いや、先にアーロがどうなったかを確認しに行かないとな」
仲間の、一人の少女を救うための行動に切り替える。
「ゴウザンバーで無事だから、ブラストザンバーのアーロも無事だとは思うんだがなぁ」
彼のその言葉にもしっかりと根拠がある、実にシンプルな話なのだがブラストザンバーは機動力を落とした代わりに堅牢な構造になっている。
ゴウザンバーで耐えられるのであれば必然ブラストザンバ―は耐えられて当然なのである。
無論全く同じ落ち方をしたわけではない以上、絶対に無事とは言い切れないからこそクレアーツィは捜索そのものには手を抜かない。
「……ブラストザンバーが動きませんわね」
さて、ではクレアーツィが行動を開始したのと同じころにアーロはと言えば、何もできないままぼうっとしていた。
モニターには何も映らない、いやモニター自体は起動しているあたりからして何も見えないのほうが正確。
「……あー、これ生き埋めですわね、それも……ブラストザンバーのパワーでもどうにもならないシチュエーションで」
どんな時であっても自分の状態だけは正確に把握しておかねばならない、そう心がけていたがゆえに自分がどうしようもない状態であることをアーロは理解してしまう。
焦ったところでどうもできない、むしろ状況を悪化させるだけなのは理解している。
「だからと言って焦らないでいられますかっ!!」
理解していても実行できる稼働はまた別問題、すこぶるにテンパりどうにかして状況を改善しようと体を動かしていく。
「あ、ダメですわこれ……疲れるだけですわね」
が、そもそも動かないのだから改善などするはずもなく、無意味にアーロの魔導力を失うだけで終わってしまう。
土と岩の中、何も変化のない光景をただ茫然と見つめるしかできない、という虚無を過ごすしかない。
「……あれ、何かを削るような音?」
だからこそ、発生した異変に気が付くことができる。
「ザ……ァァ!」
声が聞こえる、男の声が。
「ス……ラル!!」
必死さだけが伝わる声、それが徐々に近づいてくるのが感じ取れる。
「……あらあら、これは……結構くるものがありますわね」
だからこそ、声の主が誰なのかも考えなくても解る。
あぁ、確かに彼ならばこの位のことは自然にするのだろう。
「へへっ、助けに来たぜ囚われのプリンセス」
「別に捕まってませんわ」
赤い勇者が迎えに来た、ただその事実にアーロは笑みを隠せない。
この瞬間だけは、彼を私一人占めできるのだから。
「けれど感謝いたしますわ、私の騎士様」
「王女様のためならば」
アーロが冗談めかして言えば、クレアーツィも当然の様に応じていく。
アーロにとってはそれが心地よく、彼自身が基本的には誰相手でも振る舞いを変えないが故に、自分を肩書ではなく個人として扱われていることを強く印象付けられる。
二人だけの時間というものを楽しめたのだ。
で、二人だけの時間だがそれほど長く過ごしたわけではない、ゴウザンバーとブラストザンバーは即座にマルチドラゴネットに自分たちの状況を伝え、近くまで来たらブレイドザンバーを降下させる。トリニティへと合体することで遙かに向上した推力を最大迄発揮した大ジャンプによって、マルチドラゴネットに帰還。
言葉にすれば実にシンプルな話であった。
「とはいえそのシンプルな回答ができるだけトリニティが優れてるって証明なんだけどな」
そう誇るクレアーツィの姿を見て、エストは苦笑いを浮かべる。
彼の魔導具を作る姿は好ましいと思っているが、それはそれとしてディープな話についていけるわけではない。
無論分かっているからこそ、クレアーツィも小難しい話を誰かにすることはあまりないのだが。
「……あら、少し興味がありますわね」
「え?」
だからこそ、興味を示す相手が現れたとなれば彼は今まで抑えていたものが噴出していくのを感じ取った。
そして、もう我慢しなくてもいいのだと。
「いや、すみませんもう遠慮していただいてもよろしいでしょうか」
気のせいだった。




