第4話 芽生えた希望、反撃の兆し
【魔導石】
ネルトゥアーレ大陸の文明の根幹を支える鉱石、生きとし生けるものが持つ力、魔導力を増幅し様々な現象を発生させる。
種類によって得意不得意なことがあるものの、例えば火の魔導石であっても水を出したりなど別のことに使うことは不可能ではない。基本的にどの魔導石でも大体のことはできるモノの、効率が悪かったり、出力が落ちたりする。
一般的には魔導石を使う際は用途を限定するなどして魔導石を効率的に使えるようにすることが一般的である。例外として照明器具に光の魔導石を使うことはあまりない、何故かというと照明として使うにはあまりにも光が強くなりすぎて失明したなどという事故があったためである。
「ケサーマがやられたと」
ネルトゥアーレ皇国の首都であるアキョク、その中央にある巨大な城こそがネルトゥアーレの中心部、ネルトゥアーレ城。かつては気高さを感じさせる白き城であったが、今ではどこか陰気で汚れた灰色の城へと変わっている。そんな城のある場所にて、多くの人々が集まっている中できらびやかな衣装を身にまとった一人の高貴な男が口にする。男の名はビートゥ・ネルトゥアーレ。このネルトゥアーレ皇国の指導者である。
「はっ、貴重なマギアウストと共に戦死したとの報告です」
報告をするのは屈強な身長が2メートルにもなろうかという武骨な鎧の男、その名はノヴリス将軍。皇国軍の中でも高潔かつ優秀な能力を持つと言われる存在である。
「で、どこの騎士にぶっ殺されたのよ? それとも魔導士?」
その報告を聞いても大したことはないとばかりに語るのは扇情的なボディラインを強調するデザインの衣服をまとった女。彼女の名はダーミラ、強力な魔導力を操る魔導士であるとともに皇国軍の指揮官の一人でもある。
「クレアーツィ・プリーマ、例の機械技師だとさ」
発言を聞いて城内がざわつく、それほどまでにクレアーツィの名前は大きい。大陸一の機械技師が動き出した。大っぴらにはされていないがマギアウストが彼の発明である可能性はネルトゥアーレの上層部であっても頭の中にあった。
改めて事実として確認するためにケサーマから送られていてたゴウザンバーの戦闘データを見て城内にどよめきが広がる、マギアウストという強大な力をを上回る力を見せつけられればそうもなろうというものであった。
「奴は兵器の何たるかも分かっていない、奴の開発したゴウザンバーとやらを見てみろ」
だがしかし、その現実を突き付けられながらも、恐れるに足りんとゴウザンバーがマギアウストを破壊した光景を指さし怒りを込めて叫ぶ男の声、その男の名は――。
「グリモワ・ズィープトそこまで言える理由はなんだ」
かの男もまた大陸の有名人の一人、大陸で"二番目"に優秀な機械技師、それこそがグリモワ・ズィープトの肩書である。故にクレアーツィの作ったゴウザンバーの欠点を見抜いていた。
ノヴリス、ダーミラ、グリモワの三人を纏めて皇国軍の三大将軍と呼ばれる、皇国軍の特に優れた指揮官だと言えるだろう。
「確かにこれは性能は高い、だが致命的な問題がある」
「ま、ゴウザンバーだけじゃ勝てないんだよなぁ」
「あれだけ自信満々に言っといてそれ言う?」
皇国の攻撃を退けたクレアーツィは自身の研究所でゴウザンバーの整備を行いながらそう語る。
「兵器としては完全に欠陥品だからなぁ」
「あぁ、お金がかかるって話?」
「いや、それは金がかかるのはそれはそれ、ただ高いだけだろ」
彼の語る問題点、それはゴウザンバーの性能の根幹に当たる魔導石の問題であった。
「魔導石各種積んでるせいで、何かの魔導石の適性がない奴が乗るとまともに動かないかもしれない」
魔導石の適性とは文字通り使用者がその魔導石を扱えるかどうかという問題、そして扱えたとしてその魔導石の力をどこまで引き出せるかという問題である。
ゴウザンバーの強みであるそれだからこそ、この要素を外すことはできない。そしてそれが大きな問題となる理由はシンプルで。
「大陸全体で、それこそネルトゥアーレ皇国の連中も含めて全部に適性がある奴なんて俺含めても100人いればいい方だろうよ」
いかに強大な兵器であろうとも、使える人間がいないのであればそれはただのデカいゴミと同じである。そしてその使うという条件の段階でゴウザンバーはあまりにも多くの人間を対象外としてしまう。それ故兵器としては完全なる欠陥品。
「まぁ、そもそもゴウザンバーは兵器として作ったわけじゃないんだから、そんな欠陥があっても問題はなかった……んだけど」
「いま必要なのは兵器、そういうことよね」
クレアーツィはそのまま頭を抱えた、当人としてもやろうと思えばいくらでも兵器は作れる。だがそもそもの問題として彼はそれを好まない、個人的な理由として兵器を作るのをしたくない、ただ感情だけでやる気がなかったのである。
「やる気だしたあんたはすごいけど、やる気がないと何にもしないわよね」
エストはその姿を見て苦笑するもクレアーツィがやる気を出さなければ負ける、そう考えざるを得ない。皇国のマギアウストに対抗できるのは現状ゴウザンバーだけである。そしてそのゴウザンバ―を扱えるのもクレアーツィだけなのだから。
「……だったらさ、ヒーローになりなさいよ」
「は?」
エストのその発言に、クレアーツィは怪訝そうな顔をする。ヒーロー、英雄、俗に言う救世主であり、人々に賞賛される素晴らしい行為を行う、高潔な正義の振る舞いをする者。それになれとこの国の騎士団長は告げる。御伽噺の主人公になれと、そんな事を口にするのだ。
確かに今必要なのは兵器だ、だけどもそれでもクレアーツィがやる気になって頑張る方が多くの人を救えるはずだ。彼への信頼からエストは英雄の道を示し、成し遂げるだろう。そしてそうなれば彼はやる気を見せるだろうと理解しての言葉であった。
「とまぁ、そう言うわけで反攻に出られるのはゴウザンバーだけ、しかも数をそろえることもできなければ、誰かが代わりを務めることも困難、これでは兵器として欠陥品だ」
そうグリモワ・ズィープトは皇国の中心部でゴウザンバーの欠点を指摘する。
兵器としてみた時ゴウザンバーの存在は、その戦場で見れば脅威かもしれないが戦術、戦略レベルで物を見れば大した問題にはならないのだと。
「端的に言えば最低でも三か所以上で戦えば絶対にこちらが勝ち続ける、一か所は負けるが二か所では勝つ、後は全軍で最後に残った奴を叩けばいい、とそう言うことか」
そう問いかけるビートゥ帝、指導者の問いかけにグリモワは首を縦に振る。その姿を見ればにやにやと品のない笑みを浮かべながらこの国のトップは勝利を確信した様子で続けてこう言う。
「だ、そうだ、皇国軍全体に告げよ、ゴウザンバーなど恐れるに足りず、今まで通りの戦いを続けよ」
「面白い、ヒーローかぁ」
一方そのころ、エストの言葉がクレアーツィの魂に火をつける。だからこそ彼はこう告げた。
「なら俺だけじゃなくてエストもヒーローになれよ、騎士団長なんだろ?」
「わ、私も!? ザンバーってこれだけでしょ?」
現状英雄的行動をとるためにはザンバーは必要不可欠、故に困惑する。エストは火や風の魔導石の適性がない。それ故にゴウザンバーを用意されても扱いきることはできないのだ。
さらに言えばそもそもこの研究所にそれらしい魔導具は見当たらない。無いのだから乗り込むことなどできるはずもなく、だから彼が何を言っているのか分からないでいて。
「いや、なくても作ればいいだろ」
と、エストは目の前の男が何者であるのかを忘れていた。彼の名はクレアーツィ・プリーマ、騎士の家系のプリーマ家当主にして、大陸一の機械技師。ゴウザンバーを独力で作った男なのだ。
ゴウザンバーでマギアウストを倒したヒーローとしての側面ばかり意識していたが、本来の彼は作るもの、壊すものではないのだから。
「え、も、もしかして――」
「エスト・ファネッリ騎士団長、君のためのザンバーの開発を行う」
だからこそ彼にとって当然新たなマシーンを作ることなどできて当然、なにせ既に一度やったことなのだから。
軽くそれらしい振る舞いをしてみせようと、目の前で跪きエストの手を取ってみせ。
「さあ、君の希望を聞こうか」
にこりと笑いながらそう問いかけるクレアーツィの姿を見て、エストははどこか嬉しそうにしながらも苦笑いを浮かべてはこう告げる。
「それじゃまるでプロポーズみたいだからやめなさい」
【魔導具】
魔導石を使用して作られた道具全般を指す言葉、それゆえゴウザンバーやマギアウストも全て魔導具として扱われる。
そもそも魔導石には適正というものが存在し、その適性がないと魔導石が反応してくれないといった問題があるため、一般的に魔導具はオーダーメイドで製造されている。
また適正の良さによって魔導石の反応も変わってくるため、同じ道具でも使う人によって得られる効果が変化したりすることもある。