第44話 何故に生き、何故に殺すのか
【グランディア砦】
長い歴史を誇るネルトゥアーレ大陸ではかつて幾度と戦争が起きた。
そして幾度と利用され、そのたびに攻撃を幾度と受けながらも一度も攻略されたことがない砦。難攻不落の要塞の代名詞のようなもの。
であった、ギガントアークという超兵器の一撃によって跡形もなく消し飛んでしまったのである。
マルチドラゴネットは連合軍の集合地点へと全速前進、とはいかなかった。
「ちぃ、最前線が近いからマギアウストも多いっ!」
彼らはマギアウストを発見するたびに出撃、それを撃破して再出発を繰り返していたのである。
「はーっ、フェーダ出発してから何日かかって、何回出撃したかしら」
「……確か、まだ三日ですわね」
「だけど……全員合わせたら三桁は行ってる気がする」
この事実にエストもアーロも苦笑いを浮かべ、エポンに至ってはもう嫌だとばかりに頭を抱えていた。
事実問題として彼らの睡眠時間はこれまでの凡そ半分以下という有様であったのだから仕方がない。
また長期間連続で何度も戦闘を繰り返すということは、ザンバーを動かす魔導力の消費にもつながる。
そして魔導力の消耗はすなわち、凄まじい疲労へと繋がる。エストやアーロが並外れた魔導力の持ち主であったとしても、それはこの世界に元から住んでいた人間の範囲での話である。
「……クレアーツィさん、私たちのザンバー用意できませんか?」
だからこそ、自分たちも戦いたいと望むのは至極当然の流れであろう。
「……いや、正直作りたいけど作る体力残ってねぇや」
故に彼もこう返答する。エストとアーロが疲労している段階で彼女らよりも魔導力量で劣るクレアーツィがまともに動ける状態でないのは火を見るよりも明らかであったのだ。
「……あー、とりあえず……その辺りに紙あっただろ」
「あ、ありました」
「要望メモッといて、デザインとかそのレベルの話でも全然いいから、二人共魔導石への適性は万全だったし」
それでも一応建造のためにできることはするとばかりに、指示を出していくクレアーツィ。
「無理しなくても―」
止めようと未来は口にしようとするのだが、しかし他の誰も彼の行動を気にしていない。
なぜか? 決まっている。
「いや、やりたくてやってるから一番疲労取れるから」
そもそも止めようとしても止まらないのだ。そんな相手を止めるなど無駄に疲れるだけ。
彼女らにとってクレーアツィを止めるというのはもはや愚かな行為以外の何物でもなかったのだ。
故に誰も止めない、ふらふらと歩いて研究室に向かっていく男の姿を。
「……それで、一人で来てどうしたんだ」
研究室、そこで一人建造計画を始めていた一人の男の下に足音が響いてくる。
上空を進むマルチドラゴネットに侵入するにはそれこそ空を飛ぶ魔導具が必要。
技術の問題で小型化はできておらず相応のサイズになる異常反応は確認できるわけであり、それがないというのであれば外部からの誰かという可能性はほぼ存在しない。
むろん転生者が何らかの手段を講じたという可能性もあるものの、それを考慮に入れた場合何もかもを考慮しなければならず、一周回ってもうなにも考慮しないのと同じレベルにまで落ちる。
故にクレアーツィは考慮することをしていなかった。
「ふふっ、もしかしたら敵かもしれないんですよ?」
「さすがにその辺りを考慮したくはないからな」
なんて苦笑いを浮かべつつも、背を向けたまま作業を続ける彼。
その表情には決戦が近いという焦り、自分自身が作るものが人を殺すことの苦悩、そしてそれを作ることを楽しんでいるという罪悪感が満ち満ちていた。
「……で、エポン……真面目に何の用だ?」
そんな彼が声をかけてきた相手、エポンへと問いかけるのはここに来た目的。
元々ここに誰かがやってくることなど稀な話。
誰かがやってくるのならそれには何かしらの理由が必ずあるわけで。
「……その、一ついいですか?」
だからこそ、彼女の持っているモノは何が目的なのか理解させるのも造作もない話。
「……クレアーツィさん」
そのままゆっくりと近づきながら、呼吸が苦しいのか息は荒くさらにほほも赤くなっていく。
まるで初めてのようなその表情で……じっと見つめる彼女は―。
「死んでください」
手にしていた槍でそこにいた者の背を貫いた。
鮮血が壁一面を赤く染め、そこにあった命が潰えたと示すよう、ソレは悲鳴を上げることすらせず力なく倒れる。
エポンは自身の手で殺したことをその身で理解しながら、自身が持っていた魔導具を起動する。
「ふふっ、ようやく爆発した」
それは通信用の代物、会話をする相手の姿もしっかりと映しだす代物で。
「まったく、時間がかかりすぎじゃないかしらぁ?」
映っていたのは一人の女、煽情的な衣装をまとった淡い桃色の女。即ち、ネルトゥアーレ皇国の三大将軍が一人、ダーミラ。
「……その、クレアーツィが隙を見せるのに時間がかかって」
「まぁいいわ、これで……連中はギガントアークと正面から戦える戦力を失った……捕まる前にこっちに逃げてきなさい」
その命令を受ければエポンはカバリオザンバーの下へと向かい乗り込んでいく。
「な、カタパルトオープン!? い、いったい誰が!?」
当然のこととしてブリッジにいる竜希の下へと情報は回ってくる。
「カバリオザンバー!? え、エポンさんどうしたんですか!?」
非常時に備え、カタパルトの方からも出撃体制の彼是は可能になるように調整されている、だからこそ問わねばならない。
ブリッジにいる彼女には止められないのだから。
「……ごめんなさい、私……死にたくないんです」
彼女の告げた言葉を最後にカバリオザンバーは飛び立った。もはや誰も追いつけない速度で駆け出していって。
彼女が無断で出撃してから少ししたころ、クレアーツィの研究室で冷たくなった死体が発見された。
【ダーミラの策略】
エポンという、皇国を裏切った存在を仕立て上げ潜り込ませる。
彼女が信頼を勝ち取り、クレアーツィが隙を見せたタイミングで殺すことで、ゴウザンバーを扱えなくするというもの。
ザンバー単機ではギガントアークに勝利することが不可能であると共に、合体を行うにはゴウザンバーが必須であるために仕組まれたものである。
なお、この作戦を実行しなかった場合、エポンは一族郎党皆殺しにされることが決まっていた。




