第39話 赤い靴履いた魔法少女、異界人に連れられて
【グリティアン】
ネルトゥアーレ皇国が開発したギガントアークのバリエーション。
ピュアグリッターの専用機として調整されており、彼女の魔法を増幅することなどを可能としている。ギガントアークよりも細身の体躯はただ単にデザイン的な好みとのこと。
同士討ちを狙うことで敵を撃破していくクレアーツィとピュアグリッター、気が付けばマギアウストは全滅、ギガントアークであってもたったの三機となっていた。
「……ふむ、このままではまずいか」
その光景を見た指揮官の女は呟く。わざわざクレアーツィ達に聞こえるように。しかも発言とは裏腹に何処か軽い、まるで気にしていないかの様な振る舞いで。
(……何を企んでやがる、何を仕込みやがった)
気にしないことにしたとしても、本当の意味で気にしないわけには行かない。数も減ったとはいえ立ち位置自体は三角形を描く形で囲まれてしまっていた。故に背後を取られないようにとゴウザンバーとグリティアンは背中を預け、隙を作らないように動き。
「カレンシステム起動」
言葉一つで全てが打ち破られていく。
「なんで!?」
ピュアグリッターは発生した事象に困惑を隠せないでいた。
「あー、そういうことか」
クレアーツィは、発生した衝撃に吹き飛ばされながらも納得していた。
ゴウザンバーがグリティアンに殴り飛ばされたという事実を。
「なんで! なんで動いてくれないの!?」
グリティアンのコックピットの中で、ピュアグリッターは叫びを上げる。彼女の意思と操作に反して、グリティアンは勝手に動き続ける。
ただただ、ゴウザンバーを破壊するためだけに。
「ふっ、上官に従わん兵士に価値はない。ただ魔導力を吸われるだけの物としてそこにいろ、裏切り者」
冷酷に告げられたそれはピュアグリッターの耳にだけ届く。
「や、やめてよ! グリティアン!!」
無慈悲なまでに言葉が届くことはない。そんな中で、グリティアンのモニターに映像が割り込んでくる。
「何っ!?」
モニターに映ったのは一人の男の顔。
「久しぶりだな、そして実に残念だ」
男の名はビートゥ・ネルトゥアーレ。ネルトゥアーレ皇国の支配者その人で。
「君は実にいい子だったのだが、ここで裏切るとは実に愚かだったようだ」
ただただ一方的に口にする。支配する側の存在しとして、支配される側の相手のことなど欠片も興味がないのだと示している。
「私もせっかくの実戦を積んでいて、世界を形だけでも救って見せた存在というレアものを失うのは心苦しい」
口ではそう言っているもののまるで感情の動きが存在しない。まるでくじ引きで手に入れた欲しくもない景品をどこかに忘れてしまったかのように、どうでもいいことなのだ。
「……だが、君の出番は終わりだ」
ただただ無感動に、無慈悲にそう告げる。極々当然のことである、持っているものから手を離せば落ちるのと同じように当たり前のこととして。
「まぁ、しかしそれでもそのままポイと捨ててしまえば君の栄誉が失われてしまう。それは実に、そう実にかわいそうではないか。……愚民はそう言うのを好んで君を応援するかもしれんが、それでは私に不利益だ」
故に利用するのだ、捨てるゴミを再利用するのだと。
「我らを裏切ったピュアグリッター、しかし自身の罪深さに命を賭けてクレアーツィを討つ。どうだ感動的な末路であろう」
無理矢理作り上げられた自己犠牲の物語、それを人々は信じ立ち上がるのだと。
「そ、そんなの間違ってる」
「間違ってなどいない、これが事実となる」
誰もがそうだと認識してしまった時、偽りは事実となる。たとえそれが間違っていることを示す証拠がいくら出てきても事実はそうなってしまうのだと。
「いいか、事実とは真実の中の一部にすぎん。真実とは真なる事象、人それぞれに認識があるかもしれんが少なくともその当人にとってはそれ以外存在しない。ただ一つのモノだ、お前はグリティアンを操られゴウザンバーを破壊するという真実を知る。だがそれを知る者がどれだけいる?」
ビートゥは語る、真実とはただ一つしかないもの、事実とは真ではないのだと。
「そう、これよりお前は自らの命と共に奴を討つという事実が構成される。否定する真実を知るものがいなくなるのだから。誰もがそれを信じた、客観的な結果がそれとなる。あぁ、むろんこの事実は完全なる偽りだ、だが皆が信じればそれは事実だ」
だからお前は踊り続けろ、自分の手で決して止められない、偽りの英雄となる戯曲を。
「い、嫌ッ!」
そんなの、あの日よりも最悪だ。
「そんなの嫌っ!!」
無駄だと分かっていても、機械を無理やり動かしていく。当然のことながら操作をまるで受け付けてくれない。
「ピカリラピリラ! 止まって! ピカリラピリラ!! 止まってよ!!」
魔法の呪文も何度も何度も試す。一瞬は止まるがしかしすぐにまた動き出してしまう。外から勝手に動かされている。
「ザンバァァァっ!」
そんな中でピュアグリッターの耳に声が聞こえた、それも女性の声が。
「ソォォォォォドッ!!」
すさまじい音を鳴り響かせながら着地したそれは青い巨人、手にあるのは身の丈よりも大きな剣。
「これ、どういう状況っ! 説明しなさいクレアーツィ!!」
新たなる参戦者、ブレイドザンバー。エストはクレアーツィに問いかける、今どうなっているのかと。
「……どういう訳か知らんが、ピュアグリッターのマシンが勝手に動かされてる」
「……まったく、悪趣味ね」
「で、少なくとも彼女自身はこっち側についた、殺すのはもってのほかだ」
「竜希も悲しむでしょうしね」
なんて言いながらも、グリティアン目掛けて思いっきりザンバーソードを横なぎして吹き飛ばすブレイドザンバー。攻撃から何とか切り抜けることができたゆえに立ち上がるゴウザンバー。
「で、あいつらはどうして見てるだけなのよ?」
エストの問うあいつらとは、こちらを囲んでみているだけのギガントアーク。
「あいつらが手を出したら、あいつらが俺たちを殺したことになるからとかそんなのだろ。ピュアグリッターが、裏切り者が殺すことに意味があるんだろうさ」
「本当に悪趣味」
軽く推測した結果を口にしながらも構えを取る二機のザンバー。視線の先にあるのはこちらを睨みつけるグリティアン。
ただただ舞を踊るその姿。それが無理やりさせられていることなど傍目には見えず、人を魅了し殺す悪趣味な姿が存在するだけで。
【カレンシステム】
グリティアンに仕込まれていた強制暴走システム。
搭乗者の操縦を遮断し、設定されている敵を破壊することだけを開始する。また本来魔導具は仕様書の意思によって送り込まれる魔導力を利用するが、カレンシステムが起動した場合、搭乗者の魔導力を強制的に吸い出していく。そもそもが魔導力そのものが生命エネルギーであるため、吸われれば吸われるほど抵抗することも困難になるという悪質なもの。それも回復が間に合わないほどの量を吸い出していくため、外部から停止させない場合、搭乗者は必ず死亡する。




