第37話 ゴウザンバー対ピュアグリッター
【ワイヤーガン】
クレアーツィが作成していた魔導具。
アンカーを射出し、固定されたものに絡みつけることで移動するためのアイテム。
ワイヤーの強度は一般的な体系の成人男性五人ぐらいの重さに耐えられる。
クレアーツィ・プリーマは生きていた。その事実は大陸全土に広がることとなった。
「……あのバカ、目立ってどうするのよ」
無論その事実はマルチドラゴネットの彼女たちの耳にも入っていた。呆れた様子でエストは呟くも、どこかほっとした表情を浮かべていた。
「……彼が生きていて、皇国の兵士に金を渡した……ですか、その金額は―」
「二十オール、これ意味があると思います?」
「……高くもなく安くもない、まぁちょっとした小遣い程度となると」
一方でアーロとエポンの二人はあーでもないこうでもないと、出てきた情報からクレアーツィの行動の意図を理解しようと議論を重ねる。そのさまを見てはエストは軽く溜息を吐き告げるのだ。
「あいつがそんな所で意味のある行動すると思う? 自分から意識をそらさせるためにプロの店で一回抱けるだけの金を渡しただけよ」
実際彼女の指摘は正しい。クレアーツィはバカではないが、魔導具作成以外ではいちいち細かいことを考えるのはしないタイプである。むしろ無駄に深読みさせることで相手の行動を後れさせることを意識するぐらいだ。
「で、あいつが姿を見せたってことは―」
「そろそろ行動をするから迎えに来てほしいってことですよね?」
竜希のその言葉に、にこりと笑みを浮かべながら首を縦に振るエスト。
「だんだんあいつの考えることが分かってきたわね、それじゃ行くわよ!」
マルチドラゴネットはフェーダへ向けて進みだす。仲間を迎えに行くために。
フェーダの街に無数の巨人と巨獣が集う、マギアウストとギガントアークの軍団がそこにあった。それはこの地が彼らの支配下にあったと示すもの。マギアウストだけでも五十を超え、ギガントアークも十機は存在している。その地の民を威圧するためだけに。
「フェーダの民たちよ、お前たちは幸福だ。皇国の臣民としてこの大陸で唯一の希望を、夢を抱くことが許される側となった」
皇国から派遣されてきた指揮官らしき女が高らかに宣言する。
故に従え、隷属しろと。
「貴様ら力なき民に、力ある側に立つ権利をやろう、力なき者は栄光をつかむことなど許されない」
故にあの鋼の巨人は敗れ去ったのだと。
「数がいるだけの衆愚な愚民ではあるまい? 愚かな者たちに足を引っ張られるのは終わりだ、こちらにつくことが正義なのだ」
自分たちの力を誇示するように彼女は語る。
「故にお前たちを虐げていたような奴らにはこう言ってやれ、ざまぁみろと」
「だったらまずはお前たちがそれを言われる側だろ」
その宣言に全力で水を差す言葉が投げかけられる。
「何者だっ!!」
彼女の問いに対して男の声が返答する。
「何者……か、いいぜ教えてやる」
赤い炎が、いや鋼が立ち上がる。
「御伽噺を現実にするために、この魔鎧戦記に現れたヒーロー!」
その姿にフェーダの民たちは歓声を上げる。彼らにとっての夢が、希望がそこに在るのだから。
「ゴウッ!」
両の拳を打ち付け、威圧するように大きな音を響かせる。
「ザンッ!!」
続けて両腕を広げては全身を大の字の形にする。
「バァァァァァァァッ!!!」
そこから左の拳を腰のあたりに、右の拳を前方へと突き出してはポーズを決める。むろんその行為自体に意味はない、ただクレアーツィが格好いいと思っているからやっているだけだ。
「っ!? 貴様っ!!!」
だがしかし、ただそれだけでフェーダの民たちは士気を上げ拳を突き上げる。ゴウザンバーに声援を送る。そしてそれは―。
「お前たちに許可されないと持てない夢や希望なんざに価値はねぇ!! 元々みんなが持てて当たり前のモノだ!!」
ゴウザンバーの、クレアーツィの力となる。
「さぁ―」
そして声援に応えるように、大地から無数の武装が飛び出してくる。まるでこの町がゴウザンバーに力を与えようと、共に戦おうとしているように。
「お前ら全員かかってきやがれ!!」
その言葉とともにゴウザンバーの姿が消える、正確には目にも止まらぬ速さで飛び込んだのだ。
「ちぃっ、死にぞこないがっ!」
突如近くに現れたゴウザンバー目掛けてマギアウストは振り向き、攻撃をしようとして。
「遅いっ! ザンバーショット!!」
零距離で連射されるソレによって破壊される。
「ええいっ! 潰せ潰せ! 奴は一人、合体すらできんアレではギガントアークには勝てん!!」
指揮官の女もギガントアークに乗り込んではゴウザンバーへの攻撃支持を続ける。しかしそれを嗤うようにゴウザンバーの動きは止まらない。
「ザンバーマシンガンッ!!」
町から飛び出した武装の一つを手に取り、ギガントアークに向けては乱射。秒間百八十発の弾丸が叩き込まれて行く。致命的なダメージとなることはない。だがしかし、それでも相手への精神的影響は無視できないほどの成果を出す。
「こんな豆鉄砲いくら撃ったところで!!」
ある者は挑発と受け取り怒りを爆発させ精細さを欠いていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ! 撃たれたっ!?」
またある者は初めての戦場故に恐怖にのまれる。
戦場を知らないがゆえに、強大な力を活かすことができないでいた。
「マギアルリカリルリズプム! 光よ我に答えよ!」
だからこそ、この言葉が響いた時戦況が変わると誰しもが理解した。
「遅いぞっ!」
その声の方向に向かって指揮官は怒鳴りつけ、視線の先にいる少女を見る。
「夜空の星の煌めく世界! ピュアグリッター!!」
高らかに名乗りを上げる彼女の姿を見ては勝利を確信する。前回もゴウザンバーに勝利した彼女を。それをまるで意に介さぬようにピュアグリッターは呪文を唱える。
「ピピレホズレリマリハータ! 邪悪と戦う力を私に!」
それとともに現れるピンクの巨人、グリティアン。それに吸い込まれた彼女はゴウザンバーに向かっていく。
「奴を倒せっ!!」
指揮官はそう命令し、ゴウザンバーのすぐ近くに立てば。
「前はごめん、ゴウザンバー!」
そのまま彼女は頭を下げる。そしてそれを見ている人々は何が起きているのか理解ができず動きが止まる。ただただ呆然と見つめることしかできず。
「あぁ、かまわないさ」
それに対してゴウザンバーは手を差し伸べ、グリティアンも応じるようにがっしりと強く手を握り締める。
「さぁ、それじゃ一緒に行きましょ!」
二体の巨人が皇国軍に対して構えを取る。
「ふふっ、ピュアグリッターは正義のスーパーヒロインって奴だもんな! お供するぜ!!」
そして並んで駆け出していくのだ。
【町に隠されていた武装】
クレアーツィが事前に仕込んでいたもの。
敵が集まり、人々への威圧などを目的とした行動がとられるのを知り、最高のタイミングで暴れるために用意していた。
従来の武装と比べても見劣りしない程度の性能は有している。実は量産型ザンバーの装備品候補としての実験も兼ねていたりする。




