第3話 ゴウザンバー! バーンドアップ!
「貴様の開発したモノに殺される、それも機械技師冥利に尽きるのではないかなっ!」
男の叫びと共にマギアウストがプリーマ邸を破壊せんとばかりに歩みを始める。その機体は鋼の猛牛といったところか。それの角から放たれる魔導砲は辺り一面を火の海に変えながら、あえて恐怖をあおるようにゆっくりと歩いていくのだ。
「アレは……ムッカシュティーアか」
その様子を見てクレアーツィは自身の記憶にある、設計図のソレを思い出す。もともとは輸送用であり、特徴としてはスピードよりもパワーを重視し、できるだけ一度に多くのモノを運ぶために開発したものだ。デザインとして角はあったが、アレが魔導砲として使う設計にはしていない以上改造は行われているらしい。
「ま、皇国の機械技師のプライドが他人が作ったのそのままとか許せなかったんだろうなぁ」
などと軽い感じでクレアーツィが呟く。どこか自分でも似たようなことしただろうなぁなんて、改造したであろう相手の立場になっているあたり、機械技師としての彼にとっては当たり前の改造ではあったのだろう。
「あんたはこんな状況で、何冷静にどうでもいいこと気にしてんのよ!?」
だがしかし彼の反応を見てはエストが困惑の叫びをあげる。至極まっとうな話だ、前線で多くの被害を出した超兵器が、こちらに向かって来ている。絶体絶命のピンチ以外の何物でもない。
クレアーツィを信頼はしているがそれはそれでこれはこれ。怖いものは怖いし、この状況で冷静さを保つクレアーツィについては理解できないし、したくもなかった。
「ゴウザンバーの初陣だ、ワクワクしてるのさ」
悪戯が成功しそうな少年の顔がそこに在った。男は確実に勝てると判断していた、だからもう彼にとって恐怖を感じる場面ではない、どれだけ派手に勝つかだけを考えればいいのだと。
「エスト、応援頼むぞっ!」
そう口にすると共にクレアーツィは、そしてゴウザンバーが立つ大地が天高く浮上していく。暴虐をせんとする巨獣へと立ち向かうために。そしてそのための言葉こそ――。
「ゴウザンバー! バーンドアップ!」
「な、なんだ!? 大地に大穴だと!?」
地上で暴れる鋼の猛牛の目前に突如として大きな穴が開く。歩みを進めていたマギアウストを急停止させソレは考える。いったい何が起きようとしているのか、クレアーツィという男が何をたくらんでいるのか。
「こんな古典的な罠でマギアウストを倒せるとでも思っていたか、クレアーツィ!!」
考えた結果出た結論はただの落とし穴、事実このまま突き進んでいれば落下は間違いなく、底の見えない大穴に落ちれば大ダメージは免れないだろう。だがだとしても、このような原始的な罠だと認識したが故に自身とその機体を馬鹿にされていると認識し、怒りを込めて叫びをあげる。
だが、その叫びに返答が帰ってくる。
「罠じゃない、入場ゲートってなぁ!!」
その言葉とともに赤き巨神が、大穴から浮上してくる。
その巨大さ、マギアウストと比較しても見劣りせず、背後にあるプリーマ邸が真紅の戦士の足首ほどの位置にしかならない辺り、現れたそれの巨大さが一目でわかる。
「な、なんだそのマギアウストはっ!」
「へっ、マギアウスト? 違うね、こいつは俺の開発していたザンバーの一つ!」
「ザンバー!?」
ザンバー、それはネルトゥアーレ大陸の言葉で参る者という意味を持つ。クレアーツィは困った人々の前に参り力を貸すための機械として、今はマギアウストと名付けられた機械たちの総称としてザンバーと名付けたのだ。
「そう、そしてこれは強きザンバ―! 合なるザンバー! そしてこれより始まる魔鎧戦記にて大暴れする者! ゴウザンバー!!」
その叫びと共にゴウザンバーは目の前の巨獣に徒手空拳で構えを取る。そしてゴウザンバーの中でクレアーツィも同じように構えを取っている。ゴウザンバーとクレアーツィは一心同体、人機一体で動かすシステムでこの機体は動いている。
そのシステムチェックとばかりに軽く動かしていけば、まるで挑発するように指をクイクイと動かしては、再び構えを取る。
「何がゴウザンバ―だっ! こっちはマギアウスト! ムッカシュティーアと皇国軍のケサーマ様だ!!」
さて、これまで無敵の存在であったマギアウストを前に調子に乗った姿を見せるクレアーツィとゴウザンバーの姿を見てケサーマが冷静でいられるかと言えば断じて否。
相手のことを格下だと認識し、簡単な仕事だと認識していた彼にとって、突如現れたよく分からない何かが調子に乗って煽ってきたのである。それも絶対的な力の差があるはずだと認識している状態で。
故に怒りで我を忘れ、ムッカシュティーアに魔導力の全てを流し込む。確実に目の前の存在を鉄くずに変えてしまうために。
鋼の巨獣が怒りを込めてこれまでとは違う速さで突撃を始める。さらに当然の様に角から強力な魔導砲をゴウザンバーに向けて放ち続ける。ただただ目の前の敵を穿たんとして――。
「ザンバープロテクトっ!!」
ゴウザンバーに搭載されている魔導石の一つ、防ぐことに特化している魔導石へと全ての出力を回して障壁を展開する。
放たれる砲撃の全てをザンバープロテクトによって無力化、その程度の攻撃ではゴウザンバーにダメージはおろか届かせることはできないとばかりに、挑発する余裕すら見せつける。
「そんな薄い障壁でムッカシュティーアの突撃を防げると思うか!」
「さすがにそれは無理っ!」
だがしかしその魔導障壁などものともせずムッカシュティーアは突撃を続ける。
ムッカシュティーアは猛牛のパワーをイメージとして創り出されたマギアウスト、それ故に並大抵の防御では防ぐことはできない、故にこそ防御という選択肢をクレアーツィは破棄する。
そんな攻撃がゴウザンバーにあと一歩進むだけで直撃する、その瞬間。
「だからこそっ!」
天高く赤き魔鎧は跳びあがり、猛牛の頭を上から踏みつけその背後を取る。
「貴様ぁ!」
突如として加えられた下への衝撃によってムッカシュティーアの突撃は止まり地に伏せさせられる。立ち上がりなおそうとしたその時に――。
「魔導力フルチャージ」
ゴウザンバーの胸部装甲に魔導力が集っていく、それは誰もが見ただけで分かる必殺の体勢。猛牛をこの場で確実に討つと、そう宣言するかのように睨みつけている。
「お、俺はマギアウストを授かったのだぞっ! こんな場所で終わってたまるかっ!」
それでもと抗わんとムッカシュティーアは再びゴウザンバーに突撃を始め――。
「ザンバァァァァ! バスタァァァァァァ!!」
叫びと共に放たれる熱線によって一秒も経たないうちに蒸発を始めていく。鉄が溶けるどころではない一撃を受けては多くの人々を殺してきた殺戮兵器であったとしてもひとたまりもない。
それだけの一撃の中でも猛牛は一歩一歩確かに歩みを続ける、もはや執念かそれともまだ自分の敗北を認められない愚かさ故か。
どちらにせよ、かの猛牛の突進も角が届くことはなく消滅した。
「すまない、ムッカシュティーア……お前はこんな風に使われ消えるべきザンバーではなかったというのに」
どこか悲しそうな表情で、クレアーツィは自身が設計した正しくない使われ方をして、自分自身で破壊したそれへと謝罪の言葉を述べる。
謝罪の言葉は決意の言葉、自身の作品たちが苦しめてしまう人々を一人でも減らすために命を賭けることへの。
そして一人の勇者が誕生することを示す言葉であった。
次話から、前書き、後書き部分に設定などを書いていく予定です。