第27話 ゴウザンバー出撃不能!? 迫るマギアウスト軍団!
【雷槍のエポン】
エポンがネルトゥアーレ皇国軍で歩兵をしていた時の異名。
彼女の持つ雷の魔導石への並外れた適正、そして雷の如き速さから名付けられた。
また、皇国軍時代に使っていた魔導具の槍からは雷を飛ばすことも可能だった。なおその槍は現存していないとのこと。
どたばたと駆け回る音がマルチドラゴネットの内部に響く。クレアーツィが突如として倒れた、などというのは実はよくあることであり。ただ単に寝不足という話になるのだ。しかし今回の場合は特殊な事態である、彼が声をかけるように告げたのだ。すなわちそれは通常のそれとは違うということ。
「……やっぱり毒、それも即効性ではなく遅効性のモノ……、やっぱり単独行動何てさせるべきじゃなかったわね」
故に何が起きたのかを理解するのも時間はかからなかった。
クレアーツィに毒が盛られた、となれば考えられるのは単独で食事をしているタイミング。なにせ他に被害者がいなかったのだから。
「とは言え、お店で食べたのですわよね?」
「となるとその店がグル?」
「クレアーツィが目の前で何か仕込まれるなーんてのを見逃すほど馬鹿じゃないのよねぇ」
目の前で何かされて気が付かないほどこの男は愚かではない、というのは大なり小なりそれなりにかかわりのあるエストらの共通の見解であった。故に犯人は店の側ではないかとの推測をしたものの。
「分かったところで操作をする権限はない、内政干渉になりかねないわ」
「センタウルの騎士団に報告だけして、調べてもらうのが正解ですわね」
彼女らがどうこうする力はない、専門の仕事をしている人間に任せて自分たちがすべきことをするべきだと思考を切り替える。
「えっと、お医者さんに見せたほうが」
と竜希が至極常識的な判断をしたのをエストが制止する。
「そのお医者様が私たちの敵でないという証拠はないわ」
「で、でもそうだしても――」
「大丈夫、こいつはある意味バカだけど、無駄なことをわざわざするタイプじゃないわ」
などと信頼を込めた声色でエストは語る、確かに彼女は理解しているのだ。クレアーツィという男がどういう男なのかを。
「……それよりも、竜希……マルチドラゴネットを浮上させなさい、私とアーロはそれぞれザンバーで待機、エポンは……他の人たちと一緒に待機してなさい」
だからこそ自分たちのすべきことをする、エストはエストの仕事を。
「あ、あのエストさんどうしたんですかっ!?」
「……あー、なるほど、敵襲ですわね」
その言葉とともにどこか遠くで、だけどもそれが確かに聞こえるほどの大きさで爆発音が鳴り響いた。それはアーロの言葉が確かに正しかったことを証明していたのだ。
「ふふっ、さーてアレがつぶれたなら確かにゴウザンバーは出てこれない」
などとにやにや笑いながら楽しげにそう宣言する、扇情的な衣服を身にまとった女が一人。
「はっ、ザンバーとやらもマギアウストと同じ魔導具、それ故に本来の搭乗者がいなくなった段階でよっぽどのことがない限りパイロットの乗り換えなどは不可能です」
「つまりはもうアレは出てこないし、トリニティなんてデタラメも現れない!」
「はっ、その通りであります」
一人勝ち誇る彼女こそネルトゥアーレ皇国の三大将軍の一人。
「ふふっ、おっと戻しておかないとね」
彼女がそう口にするとともに指を鳴らしては魔導具を一つ始動させる。それによって長いロングの銀髪は、淡い桃色のソレに変わり。褐色だった肌もむしろ純白とでもいうべきそれに変化していく。
「ふふっ、さぁ美麗騎衆の皆ぁ、この私を称えなさい!」
「さすがですダーミラ将軍!」
その発言に続いてその場の面々全員がダーミラに称賛の言葉を捧げ続ける。そして見てみればこの場にいるのは一人の例外もなく美男子である。というのもこのダーミラの指揮する軍団、実は彼女の目に留まる美男子だけを配属させている部隊なのである。もともとプロパガンダ用の偶像のようなものであり、実態としてはお飾りのそれで在る。なぜそれを彼女が指揮をしているのかというと、ギガントアークの出陣の際に出撃していたフォスト近辺に隠れていたマギアウストの大半が彼女の指揮下にあるものだったからである。
彼女の得意とするのは搦め手や暗殺などで、正面からの戦いではなく頭を使っての戦術を得意としていた。もともと皇国からも最前線からも離れた場所であるフォストにマギアウストが隠れ潜んでいたのも彼女の策略によるものだったのである。
それが他所の横槍による指示によって大きな被害を受けていたため、仕方なくこのお飾りを動かさざるを得なかったのである。
「さて、それでは総員出撃、ここで活躍すれば……いい夢見れるかもねぇ」
彼女は理解している、この場にいる多くの兵が間違いなく死ぬことを。ゴウザンバーがいなくとも敵の機体の性能はこちらを圧倒しているのだと。
(ギガントアークの修復は完了、座標は示してるしアレがどれだけ早く来られるかよねぇ)
出撃するマギアウストの総数五十八機。それがスキータに迫ろうとしていた。
(ま、ここで勝っても負けても私の作戦がここで終わったと思ってもらえるのが一番なのだけれど)
それすらも真の切り札を隠すための動きであることを彼女以外誰も知らないままで。
「エストさん、彼のことが心配なのではありませんの?」
「アーロ、その話今必要?」
「えぇ、今だから必要なのですわ」
私に向かって彼女はそう問いかける、確かに今日はごたごたが多すぎる。しかもその発端はあいつが知らない女と食事をとって、そこで毒を盛られたこと。あいつとは何度も何度もいろんなことをしてきた長いつながりがある。だけども――。
「ぜーんぜん心配してないわ」
だからこそ私は心配していない、あいつはちょっとしたミスでどうしようもないことをすることもある。やりたいことのために馬鹿みたいに無茶をすることもある。だけど、いやだからこそ。
「あいつは自分の手で挽回できないミスはしないのよ」
あいつは世話をしてくれた人たちから怒られることはあまりなかった、何かやらかしても自分でそれを即座に挽回することで被害を補填なりしたし、むしろ元よりもいいようにして見せたからだ。
まぁ、心配されて叱られるようなことは多々あったがそれはこの件とは関係ない話だ。あいつが元気になったなら思いっきり叱ってやろうとは思うが。
「だから、絶対に大丈夫、あいつは自分がヘマしたことが分かっているなら、即座にそれを改善し、修正する」
「ふふっ、あらあらさすがですわね」
「あいつのモットー、改善できるものは改善せよ、修正できるものは修正せよってね」
最近はあまり言わないけど、それでもずっと前からあいつはそういう奴なのだ。
「だからあいつは今の状態を改善し、修正するわ」
「気を失っていても?」
「気を失っていても」
だから、私たちがしなければならないことはただ一つ。
「あの数だけ多い雑兵に被害を出させない事!」
「分かりましたわっ!」
だから私たちは、二台のザンバーで敵陣目掛けて突撃するのだ。あいつが返ってこられる場所を残すために。
【ダーミラ将軍】
強力な魔導力を操る魔導士であるとともに皇国軍の三大将軍の一人でもある女性。
その魔導力を直接的な戦闘ではなく搦め手で扱うことに長けており、戦術も正面からの戦闘よりも搦め手を重視するタイプである。
なお、その露出の多い衣装だが、これは彼女の趣味とのこと。何らかの魔導具による影響などでもなければ、何らかの真っ当な理由もない、ただ着たいから着ているだけなのだ。




