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魔鎧戦記ゴウザンバー  作者: 藍戸優紀
第一章 ギガントアーク編
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第1話 魔鎧戦記の始まり

 皇国歴九十八年、とある世界のとある惑星において、最も力を持つ国であるネルトゥアーレ皇国が、建国されてから使われている年号でそう表記された年。

 前皇帝である、ベステ・ネルトゥアーレ帝が亡くなられた。かの皇帝は良き指導者であり、皇国だけでなく隣国の発展にも力を注がれた人物であった。

 さて、そのベステ帝が亡くなると共に、次の皇帝が指導者の座に立った。その人物の名はビートゥ・ネルトゥアーレ帝。彼の行動により、ネルトゥアーレ大陸は戦乱の世に変わることとなった。



 彼は従来の共存共栄の道ではなく、近隣の国家へと攻めこみ、力で全てを支配することを選んだのである。

 当然のことではあるが他の国々もただではやられないとばかりに、騎士団や魔導士達が皇国軍と激突することとなった。いかにネルトゥアーレ皇国軍が強大であろうとも、国々の連合軍のほうが数で勝る。その人数比は皇国軍を一とした場合、連合軍は三十の比となる。

「これで勝てねば無能だ」と連合軍のある将軍は口にした、などと噂になるほどであり、各国の国民もいかに相手が大陸最強のネルトゥアーレ皇国軍であったとしても大丈夫だと考えていた。



「なっ、なんだアレは!?」


「ふっ、ふざけるな! あんなものただの見掛け倒しだ!」


 騎士たちの前に立ちはだかったのは皇国軍が持ち出した新兵器、その威容は鋼の巨人や巨獣というべきもので、小さなものでも成人男性の3倍以上の大きさ。大きなものに至っては10倍以上の巨体を持つ魔導具。


 騎士の剣は弾かれ、魔導士の魔法もまるで意に介さず突き進むそれによって、一方的に叩き伏せられていったのである。


 その兵器群の名をマギアウスト、中に人が乗り込みその搭乗者の魔導力をエネルギーとして駆動、かつ増幅して力とする新時代の騎士や魔導士の姿である。


 結論だけ言えば連合軍の完全敗北である。完膚なきまでに連合軍の騎士団や魔導士たちは蹂躙されることとなった。




「パクられたぁ!!」


 そんな悲劇が巻き起こっているのと同じころ、ネルトゥアーレ大陸でもっとも皇国から遠い国、リューションのちょっとした豪邸で、大陸で起きている事件について聞いた者がいた。

 一人の燃える炎のような赤い髪の体格のいい男。男は身なりのいい格好を着崩しつつ、青ざめた表情を浮かべていた。


 まるでこの世の終わりを告げられたかのような、いやむしろ当人にとってはその方がましだったのかもしれないと思わせるほどの様子を見せている。


「数カ月前に空き巣が入ったと思ったら皇国の奴らかぁ!!」


 男の名はクレアーツィ・プリーマ、大陸でも名の知られた若き天才機械技師であると共に、それなりに名の通った騎士の家系というちょっとした有名人だ。そんな彼の手には、皇国軍のマギアウストの姿が映し出された魔導具があった。


 マギアウストの姿を見ている彼の両腕はわなわなと震えている。


「しかも兵器にして人類に向けるとか、マジかよ……」


 映像を見終われば天を仰ぎ、クレアーツィは嘆き苦しむ。彼が作り出した魔導具そのものとしか思えないソレが、本来の使い方ではない使用法で人々を殺している。彼にとっては最悪の事態が起きているといっても過言ではない。


 彼自身は人を傷つけることをできれば避けたいと考える程度には良識のある人物であった。


「アレは元々救助作業だとか工事用のモノだぞ……」


 そこからもぶつぶつと不満を口にし続けながら、立つこともしんどいとばかりに部屋の隅っこで体育座りをしながら虚空を見つめ続ける。クレアーツィは自分の作ったものが誤った使い方をされることを最も苦しむ男である。はっきりと言ってそれなら殺された方がましだと言いだしかねない程度には変にこだわりが強い男であった。




 さて、クレアーツィがこの体育座りを始めてからどれほどの時間が経過しただろうか、天高く昇っていた太陽も既に傾いて夕暮れになろうとしている。それでもなおぶつぶつと言っている彼がいる部屋の扉がものすごい音と共に開かれる。


「クレアーツィ、いる?」


 扉の先にいたのは長い金色の髪、さらに豊満な胸をした少女であった。恥じらいのかけらもない様子で片足を伸ばしている姿から扉を蹴りで開けたことが見て取れる。全体的に青いドレス姿でじっと視線の先にいるクレアーツィの下へと歩いて行く。


「……エストか」


 クレアーツィは入ってくる彼女、エスト・ファネッリへとそう声をかけ。


「えぇ、貴方の幼馴染でついさっきこの国の騎士団長になったエスト・ファネッリよ、死にそうな顔のクレアーツィ」


 エストも返事をしながら、じーっとその姿を見つめる。彼女の視線の先にあったクレアーツィの姿。それはまるでつい最近恋人が殺されたかのような、もしくは親を殺された子どものような表情。顔色も死体の方が健康的に見えるありさま。だとしても―。


「ついさっき……、そういうことか」


 彼は何が起きたのかを簡単に理解する、彼女は優秀かも知りないが率いる側に回るのはまだまだ時期尚早、学ぶべきことは多く信頼は薄い。


「えぇ、お父様が亡くなったらしいわ」


 少し暗い声色で語る彼女を見て、男はゆっくりと立ち上がる。自分だけが辛いのではない、ならばここでうじうじしていてもしょうがないではないか。そうと決まれば決心が早いのがこの男のいいところで。


「それで騎士団長、俺に用があって来たんだろうが、どっちの俺だ」

「まずは大陸一の機械技師のあなたによ」


 先ほどまでとはまるで違う、生気に満ち満ちた顔でメラメラと闘志を燃え上がらせる。


 頼まれるというのであれば自分のできる全てをかけてことを為す、意思を示しながら笑みを向け安心させようとしているのがエストにも理解できた。


 彼はいつになっても変わらないのだと。


「皇国のマギアウストに対抗できる兵器は作れるかしら」


 若き騎士団長は問いかける、このままやられっぱなしでいいはずがない。だからこそ立ち向かえる方法は存在しないか? 正直なところ彼女が頼れる存在は大陸一の機械技師だけ。ここでできないと言われてしまえば希望のきの字もありはしない。だからこそ―。


「冗談きついぜ」


 呆れたように男は返答する。絶対的な自信。それが彼から溢れ出している。


「その程度できて当然、勝つモノを作ってやる」


 あまりにも軽い調子で、しかし確かな自信をもって告げる彼の言葉に一瞬エストは拍子抜けしてしまう。だが彼はもともとそういう奴なのだとエストも理解している。


 問いかけに対してにやりと笑みを浮かべながら大陸一の機械技師は瞳に炎を宿す。むしろそんな彼の様子を見れば言葉に嘘は全くなく、子どもの時から変わらない彼の在り方を理解する。エストも笑みを浮かべ、彼に声をかけたことが正解だったと理解する。


「ふふっ、さすがは私の知ってる中で一番の機械技師のクレアーツィね……とは言え時間もかかるでしょうし、こっちで時間を稼ぐわよ」


 と自分に出来ることをするために彼女は問いかけるのだが―。


「いらん、もう出来てる」

「は?」


 エストの困惑の声を背に受けながら、彼はその場で指を鳴らす。音が部屋に響けばなんと屋敷の床が大きな音をたてながら開いて行くではないか。


「皇国の奴らは知らなかったようだな」


 出来た大穴の中には階段が見える。まるで奈落の底へ繋がる様な底の見えない大穴。そこに向かってついて来いとクレアーツィは手を動かしてエストを誘う。それはまるで地獄への旅路への付き添いかのようにも思えた。


「クレアーツィ、こんなの作って知らない間に何をしてたのよ!?」

「まぁ、いろいろと研究してたんだけど」

「いや、わざわざこんな風に地下に作る理由は!?」

「格好いいからな」


 彼の言葉を聞いて、子どものころから変わっていないのだなと、改めてエストは理解し呆れ果てながらもついて行った。

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