第14話 目指せフォストの王都!
【ザンバーブリザード】
ブレイドザンバーに搭載されている武装……ではない。
エストがその場で咄嗟に行ったそれらしい何か。もともとエストには風の魔導石の適性がないため、そもそも風が攻撃の要になるような武装が搭載されるわけがない。
ただただ剣を振るうことで発生した風に乗せて氷の魔導力を展開。これによって温度の差により視界をつぶすために行われた行動であった。
「はい、という訳でこのあたりの行方不明者が全員救出できたわけだが」
朗報であるその話を、しかしどこか暗い声色で口にするクレアーツィ。しかしながらそれもまた当然である。なにせこの事態は最悪の可能性を提示するものなのだから。
「ま、人質取るのがすこぶる有効だって言うのはこれで皇国軍にはバレバレの可能性高いわよねぇ」
「すこぶる有効ってことは、当然の様にそれをしてくるってことですよね」
「まぁ、間違いなくな」
人質を取られると抵抗できずにいたぶられる結果となる。ブレイドザンバ―という隠し玉、そしてその隠し玉で救出を可能とするほどの搭乗者がそこにいるという点が唯一の現状の救いであった。
しかしながら隠し玉はすでに隠されていない、すでに場に出されたカードである以上はいずれ対策を立てられることになるだろう。
「という訳で新型ザンバ―の開発と、各機体のメンテナンスとかはしないとだめだからなぁ」
などと口にしつつも、新型ザンバ―の開発には時間がかかるだろうし、メンテナンスも一人で全部面倒を見るなどというのは今後のことを考えれば困難としか言いようがない。
「もう、この戦いになった時に立ち上げたザンバー軍団計画のことを考えると、機械技師としての弟子を取らないといけないからなぁ」
なんて苦笑いを浮かべつつも野望としてのソレを考える。あくまでも個人的な目的でしかない故にできないならばできないで構わない話ではあるのだが。自身の開発したザンバーがずらっと並ぶところが見たいとかそんな、はっきりと言えばくだらないソレを夢想し、そのためにも自分以外にもメンテナンスができる人間を用意したいと考えていた。
とは言えそう簡単に解決する問題ではないのが現実である。そもそもザンバーとは大陸一の機械技師であるクレアーツィ・プリーマがメンテナンスのことなど全く考えずに作った、兵器としてみれば明確な欠陥品。機体性能のために、整備性と量産性を完全に捨て去った道楽の品である。そんなもので軍団を作るなどと言いだすのは狂気の沙汰であり、詳しいまともな人間が一人でもいれば全力でぶん殴って止める案件である。
実際の所同様の開発経緯で誕生しているマギアウストは、皇国の機械技師が性能を多少落としてでも量産と整備の方を多少なりとでも改善したからこそ、兵器として成立しているのである。この辺り、皇国を代表する機械技師、グリモワ・ズィープトの既存のモノを改良するということの才能がありありと見えている。
「で、あんたモノを教えるのってできるの?」
「分からん」
そもそもの話、クレアーツィは元々は機械技師の弟子を作る気などさらさらなかったのだ。プリーマ家は別に機械技師の家系でもないし、彼が機械技師になったのはなんとなくやりたくなったから、などという空気並みに軽い理由にすぎない。困っている誰かのためにしたかった、世の中を便利にしたい、などというそれらしい理由など元々欠片も持っていなかったのだ。ただ趣味でやってたことの延長線にしかいなかった彼が、それらしい機械技師のプライドなどというものを持ったのも少し前の話であり、そんな彼が後継者をなどという考えもなかったのもある意味自然な話である。
「今までやったことがないから、やってみないと分からない」
「だからこそやってみる、ってことね」
だからこそ彼は容易く挑戦することができる。クレアーツィは本質的には軽い男だ、故に新しいことにすぐに挑戦できる。例えるのならば風船のような男なのだ。
「とはいえ、志願者が現れればの話だけどな」
まぁ、それはそれとしてできることならば早く弟子が欲しい、しかも即戦力のなどとかんがえているのは、師匠になりたいなどということでは断じてない。このまま戦争が続けば睡眠時間が削られるのが目に見えているからである。何せザンバ―の整備ができるのはクレアーツィだけなのだ、その癖ザンバーの数を増やそうというのである。寝る時間が無くなるのは火を見るよりも明らか、あくまでもやりたいことではあるが、それもちゃんと生きていける環境が整っているのが前提である。寿命を縮めてまで趣味に生きるほどの覚悟は決まってないのだ。
「っつーわけだ、エストはマルチドラゴネットのルートの調整頼む、メンテしたら寝るから俺」
戦いが終わってから半日も経っていない状態での行動、故に疲労も相応に溜まっているのだがそれでもすぐにメンテナンスをしなければならない。またいつ皇国のマギアウストが攻め込んでくるのか分からないのだから。
常に万全に近づけておく必要がある、それができていなければ戦いの土俵に立つことすらできない可能性が出てくる。皇国が卑劣な手段を取ってくるのもわかった以上、できることは必ずしていかねばならない。それがクレアーツィの戦いであり、マギアウストという邪悪な魔導具がこの大陸に誕生させてしまう要因となってしまった責任なのだから。
【ザンバートルネード】
ブレイドザンバーに搭載されている武装……ではない。
エストが即興で行った連続攻撃であり、どちらかというとエストの技といった方が正確である。
超スピードでコマのように回転を行い、連続での回転斬りを浴びせる技。あまりの高速回転に竜巻のような現象が発生するが、魔導力の影響では断じてない。