第13話 断てブレイドザンバー! ダブルザンバー勝利の時!
【ザンバーソード】
ブレイドザンバーの基本装備である剣。
刀身が液体金属でできており、魔導力を流すことでその場その場に応じた刀身に変化するという機構が採用されている。
これにより、その場その場に応じた剣になるという効果とともに、刃こぼれなどが発生しないという便利な仕様になっている。
「何が成敗してやるだ!」
その言葉とともにゴウザンバーを蹴り飛ばし、マギアウストがどこからでもかかってこいとばかりに両手を広げ隙だらけな姿を晒す。
当然ながらこのマギアウストへの攻撃は捕えられている人々を殺すことにつながる。下手な行動はそれだけで罪無き民を見殺しにした非道な存在へと変わってしまうのだ。
(……あいつが、ザンバーを頼むなんて言うから持ち出したけど、どうすれば打開できるの)
エストはどうにかしなければならないと思考を開始する。目の前の敵を倒したうえで人々を救う。どちらもできなければならないのが騎士団長たる自分の立場なのだからと。
(……ゴウザンバーよりも高機動型、さらに手持ちの剣の分近接戦のリーチは広い。私も魔導石の適性は速度系に斬撃系、後は氷とか水なんかなのよね)
コックピットの中で剣を構えながら、考えに考え抜きたどり着いた結論。それは至極シンプルなもので。
(一定以上の衝撃でカプセルが破壊され中の人々は死ぬ、一定以上の温度になればそれもまた同様――)
「だったらできるのはこれだけっ!」
その言葉とともに剣を前に突き出したかと思えばそのまま高速で回転させる。それとともに氷の魔導石と速の魔導石に魔導力を注ぎ込む。それによって発生するのはシンプルなそれで。
「ザンバァ! ブリザード!!」
超スピードで振り回される剣によって生じる暴風、それとともに氷の魔導力が混じり合い目の前のマギアウストに浴びせられる。
「はっ、ただ剣を振り回しただけでできるような風がマギアウストに通用するものか!」
けらけらと煽るように、暴虐を為している男が口にする。カプセルにも影響がないことからも、この程度では衝撃とは認識されないとばかりに見せつけている。
「むしろ、これで衝撃認定されてたら私も困るわよっ!」
その言葉とともにブレイドザンバーが勢いよくマギアウスト目掛けて跳んで行く。それとともに身の丈ほどもあった大剣が、瞬時に細身のレイピアに近いタイプの剣に変化していく。
「ファネッリ流剣術、スピンタ・コンティニューア!」
その変化が完了するとともに超スピードでの連続突きがマギアウストに炸裂していく。
「ふははははっ、バカめ! お前はこいつらを見捨てたのだっ!」
その叫びは衝撃を与えたことによるカプセルの破壊を示す。すなわち中にいる無辜の民の死、人々を守る正義の味方を装うものたちの敗北。そしてその言葉とともに――。
「……なぜカプセルが一つも壊れないっ!?」
カプセルに影響が出ないことにようやく気が付いた。確かに衝撃は発生したはずだ、そのことへの困惑を隠せないまま、なぜだと繰り返し続ける。
「あら、気が付かない?」
その姿を見てはにやにやと馬鹿にし返すように、エストが笑みを浮かべながら問いかける。これを狙っていたとばかりに胸を張ってはポーズまで決めているわけで。
「そのカプセル破壊のための魔導力の通るラインを破壊したのよ」
「なっ、そんなことができるわけがっ!?」
「ふっ、エストを舐めるなよ、この俺との付き合いが世界一長い女だ! 魔導具の効率の良い魔導力ラインなど否が応でも体に染みついている!」
「まぁ、ある程度の予測は立てられるわよ。もちろん無駄に非効率的なら話は変わるけど、そのレベルのことが許されるほどそのタイプの魔導具の技術は成熟してない、でしょ?
スピンタ・コンティニューアによって魔導力のラインを断ち切り、カプセルを破壊するための魔導力が辿り着かないようにする。すさまじいほどに技量がなければできない高度な技術と知識、もしくは直感が必要な方法で人々を救ったのだ。
「だったらっ! お前たちが攻撃すればそのたびにこっちの意思でこいつらを殺すっ!」
それでもまだ人質がいる、そう示すようにしながら空いている手を使っては人々を殺さんと行動を開始しようとして。
「ところで、よくも俺とゴウザンバーを一方的にぶん殴ってくれたな?」
その腕をしっかりとゴウザンバーが掴んでは睨みつけて行く。
「それに、その人たちを怖い目に合わせたってのも重罪よね」
その様を見てはブレイドザンバ―が剣を構える。さらに変化した剣はダガーと呼べるタイプの剣に変化していて。
「ファネッリ流剣術、スクアリチーオ・アルマトゥーラ!!」
そしてそのダガーの連続攻撃により、マギアウストに取り付けられていたカプセルを全て切り離し、キャッチしていく。
「な、おっ、俺の鎧がぁ!?」
「お前の鎧じゃねぇ、生きてる人間だっ!」
その言葉とともにマギアウストを投げ飛ばすゴウザンバー。地面にたたきつけられたマギアウストは逃げ出そうと立ち上がるもののその先には当然の様に――。
「あんたみたいな外道を逃がすと思ってるの?」
大剣を構えるブレイドザンバーの姿がそこに在るわけで。ダブルザンバーに挟まれるマギアウストはどうにか逃れようと思考を開始する。
「おせぇ! エスト、行くぞっ!」
「分かってるわっ!」
その会話と共にブレイドザンバーがその場で回転を開始する。まさしくその光景は斬撃の竜巻と化し。
「ザンバァァァ! バスタァァァァァァっ!」
逃れる隙を与えんと正面からゴウザンバーの破壊熱線がマギアウストに叩きつけられる。
「ザンバァァァ! トルネェェェェドッ!!」
そして当然の様に斬撃の竜巻の渦にマギアウストは叩きこまれて行く。
もはや最後の言葉すら発する暇もなく、ただただ地獄行きという刑罰がダブルザンバーによって叩きつけられたマギアウストとその搭乗者。その最後は天高く打ち上げられ大爆発という花火で締めくくられることとなった。
【ファネッリ流剣術】
ファネッリ家に代々伝わる剣術。
代々ファネッリ家の当主が伝承者となる剣術である。実はその投手の得意とする形の剣による使い方という形でバリエーションが存在しており、当主は(一応レベルでいいとはいえ)そのすべてを習得しておかなければならない。とは言え実戦で使い分けるものなど、複数の剣を使い分けるなどあまりしないわけでいなかった。
だがブレイドザンバーのザンバーソードの仕様により、すべてを身に着けているということに無駄がなくなったという事実がそこにはあった。