第12話 非道な策略! 悪夢のマギアウスト!!
【黒沢庄司】
ネルトゥアーレ皇国でめきめきと力を発揮している男。
その正体は竜希同様に転生者、その転生チートは今はまだ不明だが、すさまじい力を発揮するものと思われる。
「どれほど卑劣な手を使っても勝てば正義で主人公」を座右の銘としており、手段を択ばないという点が最も恐ろしいと皇国内でも言われている。
クレアーツィたちが開始した行方不明事件の捜査はまるで進展していなかった。それどころかいまだに行方不明者の増加は止まらない、フォストの騎士団も調査をしているようだが同様の結果であった。
「止まらない行方不明、もうこれ奴隷商とかに声をかけてみたほうがいいんじゃねぇか」
「それがそっちに聞いても新しい入荷なんてほとんどないーって話だって、だから奴隷商に売られた可能性もほとんどないわよ」
そんな二人の会話を聞いて、この大陸の常識を持たない竜希は首をかしげて問いかける。奴隷商とかいるのかと。
「っても、奴隷にもいろいろあるからなぁ」
「それこそお金をもらって仕事をすることそのものを卑下する国とかあるのよね、そう言う国では労働者は全員奴隷という呼称使ってるし」
「少なくともリューションとフォストの奴隷商は実質無料で使える職業紹介所になってるな」
「文化が違う……」
と、二人の説明によって文化や常識の違いというものを嫌でも理解させられる竜希。さらにクレアーツィたちは続けていくわけで。
「まぁ、基本真面な統治が行われている国の奴隷商は変な事やってると国に潰されるからな」
「逆に言えば奴隷商をやれてるということは、ちゃんとした連中、もしくは――」
「裏の非合法な連中の二択よね」
とはいえ裏の非合法の者たちが街中で商売をしている可能性は限りなく低い、定期的な巡回も行われていることが多く、見つかれば投獄は当然であり、場合によっては処刑も普通にあり得るのだ。目立たないような場所で行うことに決まっている。
「で、町の中から連れ出せるタイミングはろくにない以上は、その非合法な連中もかなり難しいのよね」
すなわち思い当たる節の類はもうろくに無いという結論。無論人を隠すなら人の中という理屈で堂々としている可能性もあるのだが、それならそれで目撃証言が残らないという点で違和感が残るわけだ。
故に想定できる回答はない、なんならその行方不明者が何らかの理由でかくれんぼでもしているという回答がリアリティを持ってしまっているのだ。
「アホどもの悪ふざけだった場合笑えねぇぞこれ」
「まぁ、時間も有限だしそろそろ此処の騎士団に任せて出発する?」
「あぁ、そうするた――」
エストの提案にクレアーツィも肯定の言葉を返そうとした、その瞬間である。
「ふははははっ、クレアーツィ・プリーマ、ネルトゥアーレ皇国に逆らう愚かな男とその仲間たちよ!」
突如として街のど真ん中から巨人が出現した、それは鋼でできたモノ。即ちマギアウストである。
「うわっ、ガチャガチャのカプセルみたいなの一杯全身に付けてる」
竜希の言葉通りのそれ。人型で全身に丸いカプセルを付けた異形のそれ。
「ちっ、連中が出てきたなら出発は後だ、奴を叩く!!」
そう口にしてはクレアーツィはゴウザンバーに乗り込み出撃、ハジの街の人々をマルチドラゴネットに乗せて避難させる。
「やいやい、誰が愚かな男だっ!」
「ふっ、出てきたなゴウザンバー! 今日こそは貴様の命日となるのだっ!!」
新たなるマギアウストとゴウザンバーがにらみ合い双方駆け出していき――。
ゴウザンバーが途中で動きを止め殴り飛ばされた。
「ちょっ、クレアーツィ、あんた何してんのよ!?」
と、理解のできない行動をしたゴウザンバーの姿を見てエストは困惑を隠せず非難の言葉をぶつける。それに対してクレアーツィはこう返事をするのであった。
「馬鹿野郎、あのマギアウストは殴れねぇ!」
敵であるマギアウストを殴れない、その発言に困惑を隠せないエスト。しかし竜希はマギアウストの姿を見て顔色を変えていった。
「カプセルが大量についたマギアウスト、行方不明者の続出……もしかしてカプセルの中に!?」
「あぁ、あの中に大量に人がいるっ!!」
その言葉を聞き、エストも理解をする。行方不明事件の犯人はこの街に紛れ込んでいた皇国の人間で、行方不明者たちはマギアウストに捕らわれているのだと。
だからこそゴウザンバーは下手に攻撃できない、間違ってカプセルを破壊してしまうかもしれないから、カプセルの中にいる人々を殺してしまうかもしれないから。
「ふはははっ、どうだこの完全新型マギアウストの力はっ!」
下手に抵抗しようとすれば人々を殺しかねないこの状況故、ゴンザンバーは一方的にいたぶられる形になってしまう。
「あぁ、カプセルの隙間と隙間を叩けば問題ないなどとかんがえているな、クレアーツィ!」
「どうせ違うんだろ、陰険野郎」
「ふっ、その程度の頭はあるか、一定以上の衝撃、もしくは熱が加えられればランダムにカプセルは爆破するようにしてある」
故にカプセルを破壊しないように攻撃することすら不可能、そう突き付けられたクレアーツィはただただ相棒と共にいたぶられ続ける。
「っ、ザンバーをっ……頼むっ!」
その通信を最後にゴウザンバーからの通信が途絶、見たところ無事なようなので通信を止めているといった方が正確だろう。
「ザンバーを頼むって、どういう……あぁ、なるほど竜希ちゃん、マルチドラゴネットは任せていいわよね? 距離はこのままを維持、武装の射出はこっちで指示を出すから」
「は、はい、大丈夫です!」
そう告げるとともに、エストは駆け出す。クレアーツィの研究室、そしてそこから向かうことができる格納庫へ。
「……竜希ちゃん、カタパルトオープンっ!」
「わかりましたっ!」
その言葉とともに竜希はボタンを押し、マルチドラゴネットのカタパルトを展開、そこには青き鋼の巨人が立っている。
「ブレイドザンバー!」
それこそがこの巨人の名。
「フリーズシュート!」
その叫びと共に新たなるザンバーが射出される。仲間を救うために空を飛ぶ。
(あいつが苦しむところなんて見たくないのよ、私はっ!)
一人の女騎士が、幼馴染の横に降り立ち威圧する。
「さぁ、皇国の小悪党っ! リューションのファネッリ騎士団騎士団長!」
ブレイドザンバーの手に握られている剣を構えるとともに、それはブレイドザンバーの全長に匹敵する巨大な大剣へと変化する。
「エスト・ファネッリと、このブレイドザンバーが成敗してやるっ!!」
【ブレイドザンバー】
新たに登場した新ザンバー、搭乗者はエスト・ファネッリ。
その名の通り剣を手に取り戦う騎士型のザンバー。ゴウザンバーと比べてどこか細身で女性的な雰囲気を醸し出しているが、それはエストが乗ることを前提としたクレアーツィの趣味である。
なお、搭載されている魔導石もエストに適性がない魔導石は全て適性のあるタイプの魔導石に変えられている。これによって、得意分野ではゴウザンバーを上回る性能を有していると思われる。