第10話 旅路の始まり! ザンバ―戦線今始動!!
【クレアーツィ・プリーマ】
この物語の主人公にして、作中の舞台ネルトゥアーレ大陸一の機械技師。
赤い炎のような髪の青年、一応は騎士であるためしっかりと鍛えられた体をしている。
顔立ちは決して悪いわけではなくむしろ整っている類、しかしモノをよく見ようとする癖から目を細めることがあり初対面の人間には怖めに映ることも多い。
自分の興味がある物事などを前にすると周りの目をまるで気にせずに暴走する癖がある。
なお、彼の家系であるプリーマ家はリューションでもそれなりに有力な家系であるのだが、クレアーツィが子どものころに両親が事故で他界、それ以降はクレアーツィの機械技師としての腕で立場を維持している。
二大マギアウストとの激闘から数日が経過した。戦禍に見舞われた町だがクレアーツィとエストの指示により復興が進んでいた。
「重たいものはこっちに任せろ、ゴウザンバーは本来このために作ったものだからな」
「はい、炊き出しはみんなの分あるから押さない押さない!」
もともとこの二人はこのリューションという小国の中ではそれなり以上の有力者、彼らの指示を町の人々も素直に聞いて行動していた。
「あんなことがあったばかりなのに凄いですね」
「まぁ、ちょっとでも悪さしたら簡単に殺されるっていう力関係は分かってるからなぁ」
なんて苦笑いをしながら、クレアーツィは竜希の称賛の言葉に返事をする。推測しているのだ、彼らが素直に言われた通りにしているのは、ゴウザンバーという絶対的な力による恐怖が影響しているのだろうと。人々が何もできずに殺されるだけだったマギアウストが、しかも二機でも打倒したゴウザンバ―の強さを理解しているのだと。
「ま、恐怖だったとしてもこういう時ちゃんと話聞いてくれるのはデカいよ」
そう口にすると疲れたといった様子で椅子にもたれかかり、呆けた様子を見せる。竜希には外向けの姿をさらさなくても問題ない、そう判断したといったところだろうか。
「もう身内認定ってことかあ……気やすすぎるって言うか、軽いって言うか……まぁ、いいか」
竜希もその姿を見ては出会って数日の自分相手にこうも気を抜いているクレアーツィの姿を見ては笑みを向けていた。
「はい、という訳で想定よりも時間がかからないままに出発の予定です」
クレアーツィはエストや竜希を含むマルチドラゴネットの搭乗者たち、自身を含めて合計六人をしっかりと確認する。
当初の予定ではこの十数倍の人数を集める予定であったが竜希の非常識な魔導力量のおかけで素早く発信することができた。そのため予定よりも早く活動を開始したわけである。とは言えそれゆえに発生した問題が一つあって。
「えー、当初の予定では届けられる予定だった資材や食料が全て積載できていません」
「ま、届く前に出発したわけだしね」
「なのでまず第一目的地ですが、こちらへの輸送を行っている輸送隊が休息している場所まで向かいます」
積載途中のモノをこちらから迎えに行く、それが第一の目的地ということになった。
「じゃ、エスト指揮よろしくー、俺は新型ザンバーの開発に入るからさ」
そう告げてはマルチドラゴネット内にある研究室にクレアーツィは向かっていく。今の段階で自分ができることをするために。
「はい、という訳でこれから向かうのはリューションとフォストの国境の辺り、あと数日であの辺りに輸送隊が到着する予定なのよ」
フォスト、国土の大半が森林という自然あふれた国。国民は大自然とともに生きる森の民と呼ばれている。
「ま、クレアーツィ曰くフォストの国民で射撃系の魔導石の高い適性持ちをスカウトしたいなんて言ってるんだけど」
フォストでは実際射撃系魔導石の高い適性持ちが多く生まれやすいのだとか、故にクレアーツィもそこで優秀なパイロット候補を探すつもりなのだという。
「いくらいい機体を作っても動かす奴がダメだったら意味がないってさ」
面々を解散させればそのままエストは竜希に向けて笑いながら告げていく。
「エストさん、クレアーツィさんのこと好きなんですね」
「んー、まぁ好きよあいつのこと」
さらっとエストはそう口にする。その発言を受けて竜希は顔を赤らめて行き、その様子を見てエストは首をかしげる。
「えっ、お二人そういう関係なんですか!?」
「そんな関係……って、そんなわけないでしょ!?」
ようやくどういう意図でとられていたのかを理解した様子で、顔を真っ赤にしながらそう返事をする彼女の姿はどこか照れくさそうにしていて。
「いや、あいつは悪い奴じゃないけどさ……あいつ、多分真面目に女に興味ないわよ」
「あー、そういう」
と苦笑いしながら竜希の様子を見てはエストが訂正する。今の彼にはそういうものに気持ちを向けられるほどの余裕がないのだと。
「あいつ、多分ものすっごい責任感じてるのよね、今のこの大陸の惨状に」
「責任ですか?」
「うん、あいつが作った設計図が盗まれて、それを利用された結果多くの人が死んだ、それも一方的にね」
なんて口にすれば苦笑いを浮かべたままエストは続けていく。
「結局は道具なんだからその道具を使ったやつが悪いのにね」
「使ったやつが悪い、ですか」
「例えばだけど一つの街の人全員切り殺した奴がいるとするわよ」
「は、はい」
「だけどさ、そいつが使った剣を作った奴がそれで悪事を犯したことには絶対にならないでしょ?」
どこまで言っても道具は道具、それを作った人間が罰せられるなどあってはならない。それで悪いことをした奴が悪いのだから。そうエストが締めくくる。
「だけど、クレアーツィさんはそれでも納得できない、ですよね」
「なのよねぇ、あいつはあいつで独自の美学って言うのかしら」
なんてエストは頭を抱えつつ口にしていく。
「道具の正しい使い方を教えられなかった俺も悪いのだなーんて言うのよねぇ」
どこか自分の技術の追求にすべてをかけているようで、実は使う側のことも一応は考えている。それが大陸一の機械技師の在り方なのだ。
それが彼をずっと近くで見ていた少女の評価であった。
「さてと、これで……後は実際に動かすだけだな」
研究室で笑みを浮かべるクレアーツィ、その先には深き海のような青き鋼の巨人がそこに在った。
「頼むぞ、ブレイドザンバー」
そう呟くクレアーツィをブレイドザンバーは見つめているようであった。
【エスト・ファネッリ】
クレアーツィの幼馴染であり、リューションの現騎士団長。
長い金髪の女性で、剣を使った戦闘ではクレアーツィの知る限り最も強い人とのこと。
全体的に女性としては長身であり、その事を女性向けの鎧だとサイズを合わせるのか難しいことを気にしている。ついでに言えばある部位が大きくなりだしてさらに合わせにくくなったせいでお金がかかることを気にしている。
ファネッリ家はリューションで代々騎士団長を務める家系であり、先代騎士団長であるエストの父が亡くなった結果、彼女が騎士団長の座を引き継ぐこととなった。のだが、彼女は騎士団長としての教育をあまり受けておらず、その点ではまだまだ未熟。さらに言えばリューションの防衛のためにもと、リューションの騎士団の大半をリューションに置いていたりする。