ヨコセヨコセ6
昔々、あるところに、鬼が住み着いた。鬼は近くの村に降りては人を攫って食うので、人々は困り果てていた。
そこで一計を案じ、人々は酒樽に着物を着せ粘土で人の形を作った。村の外に置かれていたそれを食べた鬼が酔っ払って眠った。人々は鍬や鋤を手に鬼を退治した。
しかし、鬼は強く死ななかった。怪我を負ったものの、相変わらず人を攫おうとする鬼に人々が困っていると、そこに旅人が通りがかった。旅人は事情を知ると、鬼を誘い出し、村のお堂へと封じた。しかし鬼の力が強かったので、完全に封じることはやはり不可能だった。
旅人は村に残り、鬼の見張りを引き受けたので、人々は平和に暮らせるようになったのだった。
以来、神無月には鬼の力が高まり、お堂から手を伸ばしては人を攫おうとするので、村の人々はお堂へ近付かないようになったのだった。
「……で、その封じられた鬼さんがこの方だと」
「そうそう。そっちじゃなくてこっちにいるけどね」
鬼が座ってそうな場所を指したら、勅使河原さんに訂正された。鬼は今、どうやら勅使河原さんの隣に座っているようだ。
「じゃあ、人を攫って食べる鬼さんを、勅使河原さんが毎回警戒しに来てるわけですか」
「正確にいうと、人を攫うのは食べたいからじゃないらしいよ。ひとりでいるのが寂しいから、そばに置いておこうと思うんだって。で、攫って一緒にいるうちにお腹が空いてきてしまって泣く泣く食べるらしいよ」
「結局食べてるじゃないですか」
泣く泣くだろうが嬉々としてだろうが、食べられることに変わりはなかった。むしろ寂しいからとそばにおいていた人を食べるほうがサイコパスっぽさが上だ。
「俺のご先祖がここに住んでたらしくてね。その縁で昔遊びに来たんだけど、そのときに鬼に攫われてね。復讐としてバット持ってお参りに来るうちになんか気に入られたらしくてさー。年イチで遊びにくる代わりに人を攫うのをやめろって約束したんだよー」
「今まで聞いた勅使河原さんのエピソードの中でも飛び抜けてぶっ飛んだお話ですね……」
鬼が尋常じゃなく怯えていたのは、金属バットで痛い目に遭ったせいなのだろうか。それでも会いたいと思うなんて、鬼はどれだけ寂しいのだろう。人を食べる鬼じゃなければ同情してしまうところだ。
「それで、このゲームは?」
「そうそう、これね、最初に攫われたときに持ってたの。退屈してたら蔵にゲームあるからやっていいよって言われてさー」
「ああ、だから年代ものなんですね」
「テレビは後から持ち込んだ。やっぱ液晶がいいよねー」
勅使河原さんは年に1回、ここに遊びに来ては鬼と一緒に古いゲームをしているらしい。ほんわかしたお仕事である。
「ゲームしながら愚痴聞いて、人攫わないように念押して、終わり。ここは時間の流れがちょっと変だから、一晩遊んだ体感で戻ると現実では大体1時間過ぎてるだけかな」
「お得ですね」
「というわけでちょっと遊んでから帰るけど大丈夫?」
「はい。帰れるならよかったです」
「よかったー。早乙女さんもゲームする? 龍がやりたそうだし」
「いえ、私は見てるだけで」
テレビのスピーカーから電子音が鳴り、ゲームが始まった。
勅使河原さんが隣にコントローラーを渡すと、そのコントローラーが私には見えなくなる。画面では鬼が操作しているらしい主人公が最初の穴に落ちて豪快に死んでいた。
長年やっていても、鬼はあまりゲームは得意ではないようだ。勅使河原さんがしょうがないなあと言いながら代わりに先に進めてあげている。
半分見えないけれど、ほのぼのした光景が繰り広げられているようだ。勅使河原さんもなんだかんだ言って楽しそうにしている。その姿を眺めていると、なんだかホッとした。忘れていた眠気がやってきて、私はちゃぶ台に頬杖をついて重いまぶたと戦う。
「ん? ほんとだ。早乙女さーん、眠いなら横になりなよー。ほら、鬼が座布団並べたから」
「ありがとうございます。すみません、ちょっと寝ます」
「おやすみー」
ふかふかした大きな座布団が、いつのまにかすぐ近くに並べて置かれていた。そこに倒れ込むともう目を開けられなくなる。勅使河原さんが羽織を掛けてくれた感覚がして、少し温かくなった。それでさらに心地良くなる。
ゲームの音を聞きながら、私はそのまま眠気に身を任せた。




