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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第1章 憑かれてますよ
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私が就職できなかった理由

「……つまり私は龍に取り憑かれていて、それが不幸の元になっていると?」


 龍のモノマネをドン引きしながら5分ほど眺めた後、私がそう訊くと怪しい人はうーんと首を捻った。


「龍なんて神々しいもんですから、悪いことはしてないんですけどねえ」

「でも肩凝りにずっと悩まされてるのって、取り憑かれてるからじゃないんですか?!」

「あ、それは龍があなたに巻き付いてるからです」

「は?」

「こう、ぐるぐるぐるっと。そして肩のとこで2周ぐるっと巻いて頭に顎を置いてるので、そのせいかと」


 私は思わず見回した。肩に乗ってるって何。めっちゃ至近距離なんですけど。

 そーっと手で肩の辺りを払ってみたけど、当然何もない。


「じゃあ、頭痛は?」

「たまに甘噛みしてますね。デンタルガム的な感じで」


 かみかみしているらしい。


「家の電球とか鏡が壊れたのは」

「ながーい尻尾振ってるんで、機嫌良すぎてぶん回した結果当たったのでは」


 ぶんぶんしているらしい。


「会社クビになったのは」

「うーん。見た感じあなたを守ろうとしてるみたいなので、よくない会社だったんじゃ?」

「そんなことないです!! 社長も上司もかなりカリスマ性ある人だったし! 残業だって月80時間しかなかったし!」

「うん、その情報だけでもブラックってわかるレベルですよー」

「転職も上手くいかなくてバイトもどこも受からないから、もう風俗で働こうと思っても採用された翌日に断られるし」

「おーい、自分を大事にしてー。じゃないとその龍が相手方に色々しちゃうからー。ヘタしたらブラックな職場軒並み潰れちゃうからー」


 私が就職できなかった理由は、龍が阻止していたかららしい。

 怪しい人いわく、その取り憑いている龍とやらは私を守ろうとしているようだ。ただ、龍の力が強過ぎるので、悪いものを遠ざけようとすると会社が潰れたり面接に辿り着けなかったり採用係の夢に出てきて脅したりと過激な手法になってしまうとか。


「悪霊じゃないですか!」

「悪霊ではないですね。どっちかというと神に近いというか」

「就職できないんですよ! 神としても貧乏神じゃないですか!」

「それはあなたの状況を見ていると否定できないかもしれないですね……」


 つまり、私はこの先、取り憑いている龍が満足するようなホワイト職場を見つけ出さない限り就職できないということでは。

 仮に待遇のいい会社が見つかったとして、学歴も職歴もしょぼくれている私が採用される確率はどれくらいなのだろうか。就職するより先に貯金残高の底をつく確率の方が高い気がする。


「……お祓いしてくれるんですよね?」

「えっ?」

「あなた、お祓いしてる人なんですよね。じゃあこの龍も取ってくれるんですよね?!」

「イヤです!!!」


 向かいのソファで飲むヨーグルトを飲んでいた怪しい人は、大声で拒否しながら機敏な動きでソファの背を超えて後ずさった。なんで。


「取り憑いてる龍取ってくれようと話しかけてきたんじゃないんですか?! お金なら払いますから! 貯金全部渡しますし足りなかったら就職後に全額払いますから!」

「違う! やめて! 龍がすごい目でこっち見てる! デストロイされてしまう!」

「お願いします! 助けてください!」

「むしろこっちを助けてください!! 諦めて! 俺の命が終わっちゃうから!!」


 逃げられても私は自分の身の方が大事だ。頼み込みながら追いかけると、男の人はソファーを回り込んで逃げる。部屋をグルグルと周回しながら祓ってくれやめてくれと叫び合う。応酬はお互いに息切れして終わった。


「その、龍祓おうとか思わない方がいいですよ。あなたから離れる気はさらさらないみたいなので、お祓いした側に確実に不幸が訪れます。そこそこの確率で死にます」

「そんな……じゃあ、私に犠牲になれっていうんですか」


 お祓いを頼めば相手が死に、お祓いしなければ私が路頭に迷う。

 どっちに転んでも不幸しかないなんて、流石に未来が絶望的に思えてくる。


「安心してください。お祓いは絶対にしませんが、あなたを救えるかもしれません」

「え」

「お祓いは絶対にしませんが、あなたがちゃんと暮らせるようにお手伝いしましょう」

「本当ですか?」


 息を整えた怪しい人が、右手を差し出してきた。

 ちゃんと暮らす。普通に仕事をしてお金を貯めて、普通の暮らしができるかもしれない。そしてその手伝いをしてくれると言ってくれた。

 怪しい人が、急に頼もしい人に見えてきた。私は覚悟を決めて、差し出された手を握る。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ。困っているところを見捨てられませんから。絶対にお祓いはしませんけどね」


 まっすぐに私を見て頷いてくれたその人は、すぐに視線をちょっと斜め上にずらして「本当にお祓いとか一切しませんから」と強調したのだった。






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