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選抜戦

 翌朝、昨夜仕上げた領有(アセット)魔法具(アーティファクト)をバックパックに詰めて早朝のランニングに向かう。

 念の為、作ったブレスレットもつける。魔石(セービングボックス)を8個も使ったのでこれ一つでだいたい魔力炉(パワーバンク)クラスの魔力(マナ)がある。

 これだけあればガーランドの速攻魔術(インスタント)は数十発発動できる。

 ガーランドはかなり魔力(マナ)を効率良く使う。他の賢者たちの話を聞いているとこのサイズなら速攻魔術(インスタント)8発分程度だ。

 まだ街中で設置していない場所、職人街の外れの方へ向かう。ついでに銀球と銅板も発注しておく。

 うちは基本的に放置されていた分、お小遣いというやつが他の奴らよりも多かった。

 今まではほとんど使うことがなかったからまだまだ余裕がある。

 グルッと回り終えてそろそろ帰ろうかと思ったところで、ソフィアに出会った。

「……何してるのよ、出がらし」

「お前と違ってこっちは肉体系だからな。鍛えているんだよ」

「無駄なことを」

「無駄かどうかはお前が決めることじゃない」

 俺の言葉にソフィアはムッとした表情を浮かべた。反抗されるとは思っていなかったんだろう。

 今までは力関係もあるが基本面倒くさいから言うことを聞いていたが、よくよく考えてみればバカにしてくる相手に付き合う必要などないということに気がついた。

 これから帰るとおそらく一緒に行くことになる。それは面倒くさいのでもう少し走ることにした。

「ちょっと無視しないでよ!」

「あ? これ以上何を話すことがある? エリートのお嬢様」

 ソフィアはそこで一旦うつむき、潤んだ目で俺を見る

「そっちにはなくてもこっちにはあるのよ。ちょっとは付き合いなさいよ」

 涙浮かべられると弱い。だからダメなんだよ俺。


「あーあ、なんで私の誕生日、この時期なんだろ」

「は?」

「選抜戦前後なんだもん。いっつも祝勝会と一緒にされちゃう」

「知らねーよそんなの。親を恨め親を」

 誕生日ならおれもほぼ同じだ。ソフィアとは一日違いで俺のほうが後。だが俺はもう5年は祝われていない。第二とは勝ったり負けたりだが、第二に勝っても最後は必ず第一に負ける。

 そうなれば、どうなるか。

 まあ期待されない出がらしの扱いとしては妥当だろう。

「卒業したらさ、マリウスはどうするの?」

「どこかの地方の武官にでもなるんだろ、たぶん」

「漠然としてるのねえ」

「お前らと違ってこっちは第三学院、夢も希望もないわけだよ」

「そんなの! コンラートおじさんだって第三から中央に」

 またその話か。手を出して話を遮る。

「親父はな。時代がよかった。魔王なんていう大災厄に対抗できる『魂砕き』に選ばれた英雄。そして実際魔王を倒したという実績。時代と、そして『選ばれた』人間。すべてが噛み合った結果だよ」

 平和な時代。強敵を倒すために人々が団結する必要もない。それどころか各国が徐々にギスギスしてきている。

 優秀な兄がいて、かつての勇者パーティのもう一つの家庭には優秀な姉弟。絵に描いたような幸せがそこにある。

 俺を除けば。

「どうしてあなたはいつもそうなの。ひねくれて、ひがんで。それでどうにかなるの⁉」

 いつからこいつもこうなったんだろう。

 カイが第一に受かってからだっけか。

 いや、俺が第一、第二に落ちたあとからか。

 いつだってそうだ。

 世界を救った英雄の息子なのに。

 ああ、世界を救った英雄の息子はオスカーのほうか。お前は出がらしだものな。

「精一杯やれば、ちゃんとみんなは見てくれるわよ! だから大丈夫、ね?」

 ソフィアの声が遠くなる。

 いつだって精一杯やったさ。

 だから第三学院で主席にもなった。

 体格は恵まれている方じゃない。

 俺よりずっとデカい奴らはいくらでもいて。

「うちもそうだけど……は忙し……つも……いけど」

 自分に合わないグレートソードを使うのも、親の、世間の期待に沿うためだった。

 『魂砕き』に選ばれた英雄の子は、グレートソードを使い『魂砕き』を引き継ぐものだと。

 オスカーが早々に魔術の才能を開花させ賢者になってしまった以上、戦士としてそれが期待されていた。

 おれはその期待に答えるためにどれだけ苦労をしていたか。

「たまに……コンラー……リウスのことを……のよ」

 選抜戦で格上と言われる第二学院とも互角以上にやっている。

 それでも。

『ああ、やっぱり第一には勝てないんだ。出がらしだものな』

 ふざけるな! くそったれ!

「ちょっと! マリウス! 聞いてるの⁉」

「うるせえ!」

 両肩を掴んでいたソフィアの手を乱暴に払う。

「え……?」

「黙って聞いていればグダグダと! ひねくれるな、ひがむな、だと? 俺の立場になってお前はまっすぐ生きていけるっていうのか! やれるものならやってみやがれ」

「え……その……」

 困惑するソフィアの顔を見て、爆発していた感情が一瞬にして冷えた。

 ああ、こいつもやはりあっち側だったんだ、と理解した。

 昔の思い出が壊れていく。

 学院なんてものが俺たちに現れるよりも前。兄さんと、ソフィアと、カイと。毎日遊んでいた日々。

 それは遠い思い出として色あせ、消えていく。

「……出がらしだからな、俺は。俺に期待するな、関わるな」

「え……あ……」

 逃げるように立ち去った。


 変わらない設置と訓練の日々を過ごし、対抗戦当日を迎える。

 強化(リインフォース)はレベル10程度の強化まで制御できるようになった。

 蓄えた魔石(セービングボックス)はすべてベルトポーチに詰め、魔力炉(パワーバンク)はバックパックに詰めて会場入り。不格好だがバックパックは背負ったまま戦うことになるだろう。

 装備はブロードソードにヒーターシールド、チェインメイルの上から胸と肩へのプレート、バシネット。若干重装よりの軽戦士装備。

〈デビュー戦ですね。ドキドキします〉

「……心臓もないのにか?」

〈ふふ、上出来です。さあ、行きましょう〉

 闘技場に入る。

 第三学院のメンバーは俺と、重戦士のジェラルド・ヴィンケル、軽戦士クラウディア・トラウトナー。どちらも男爵家で、ジェラルドは四男、クラウディアは上に五人の兄がいる末っ子長女。

 ジェラルドはフルプレートにタワーシールド、腰にはメイスとブロードソード。アーメットのバイザーを上げて顔を出した状態でいた。

 クラウディアは蝋で煮て硬化させた革鎧(ハードレザー)にバックラー、レイピア。兜なし。速度重視だが、プレートには無力だ。

「ごきげんよう、出がらしさん、調子はどうかしら?」

「まあまあだ。そちらはどうですかな、お嬢様」

「わたくしはいつでも絶好調ですわよ」

「なるほど、それは重畳(ちょうじょう)。ジェラルドはどうだ?」

 寡黙なジェラルドはただ頷く。

「第二学院戦だが、今回は賢者がいる。なので俺はまっすぐ賢者に突っ込む。前衛の二人をどうにか抑えてくれ」

「出がらしさんがなんの権限があって命令するんですか」

 面倒くさい。員数外にしてしまっても多分問題はない。

「わかった。お前は後ろでブルブル震えていろ。戦力として数えない代わりに、受けた栄誉は虚ろなものと思え。臆病者め」

「聞き捨てなりませんわ!」

「なら戦え。以上だ」


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