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決闘

 決闘日程は当日放課後にあっさり決まった。そりゃこの時期暇だからな。

 闘技場は第一~第三で共同利用している。なので普段はなかなか空きがない。

 なんで共同利用かというとかなり金をかけて安全性を確保しているからだ。

 ようは三つ作るだけのカネがない。

 まず結界。そう簡単に外部に魔術のダメージが出ない。

 次に強化。物理的、魔術的な破壊はまず無理だろうと言われている。

 最後に致命傷回避。致死判定とされた場合、自動で場外に飛ばされる。

 この辺は母さんとクリスティーナおばさ……お姉様の二人による魔術が使われている。

 英雄パーティは人間じゃないって言われるのはこういうところだ。


 立ち会い人は剣術科の主任教師アルベルト・ヴィレフト。グレートソードマスターで、かつての俺なら五分五分くらい。今の俺なら圧倒できる、と思う。多分。

 とりあえずターゲットシールドと、ブロードソード、チェインメイルの上から胸と肩にプレート、バシネットのいわゆる「冒険者の戦士」装備で闘技場に入る。

 ジェイミーはグレートソードにフルプレート

 みんな暇なのか観客席にはそこそこの人がいる。

 小さくガーランドに告げる。

「第六種戦闘」

〈イエス、マスター……って本気ですか?〉

 ガーランドの抗議の声を無視。

 観客席を見回す。ソフィアとカイがいた。わざわざ見に来るとは暇なことだ。

「双方抜剣!」

 ヴィレフト先生の号令に合わせて剣を抜く。

 ジェイミーは肩の上にグレートソードを担いで立つ。縦の振り下ろしはリスクが高いが、当たればデカい。

「では、始め!」

 ジリジリと間合いを詰める。

〈何を考えているんですか!〉

「ぬぉりゃああ!」

 ジェイミーが雄叫びを上げ、グレートソードを叩きつけてきた。

 ターゲットで左へ受け流す。うまく受け流しできた。結果やつは姿勢を大きく崩している。

 いいところにジェイミーの頭が降りてきたのでブロードソードの柄で閉兜(アーメット)の横っ面を引っ叩く。ターゲットを捨てる。

 轟音と振動で朦朧としていたからか、ジェイミーは左側頭部を左手で確認してしまう。馬鹿め。

 やつのの右手首を左で取る。締めると篭手が潰れる感覚。グレートソードが落ちる。

 そのまま巻き込んで、投げ落とす。

 ジェイミーは地面に背中を叩きつけられ、息を詰まらせる。

「そこまで!」

 ヴィレフト先生の割り込み。

「勝者、マリウス・ベルゲン」

「まだやれるぞおれは」

 か細いながらも抗議の声を上げるジェイミー。

「そこいらで止めておけ。マリウス、おまええげつないな」

「はい?」

「左手首を潰しただけじゃなくて、投げながら肘こじっただろう」

 さすが剣術科主任。見えてたか。

「偶然です。たまたま巻き込んで力で投げたらああなっちゃって」

「……なるほどね。ま、そういうことにしておこうか」

 ヴィレフト先生は肩をすくめてため息をついた。落ちていたターゲットシールドを拾い上げようとしたときに、ついでにジェイミーに耳打ちする。

「まあまあ、楽しかったよ。またな」

 震えるジェイミーをそのままにして、ターゲットシールドを拾い上げる。

「じゃ、これで」

「マリウス!」

 闘技場を出ようとしたときにカイ・スヴェートベルが俺の背中に呼びかけてくる。

 右手を上げて振り返らずにそのまま闘技場を出る。

〈呼ばれてましたよ?〉

「いいんだよ、面倒くさい。どうせ『そんな弱いのと戦っても無意味だから、俺とやれ』ってケンカふっかけてきて俺でストレス発散するつもりだったんだろ」

〈なんですかそれ……〉

「カイは学年筆頭ではあるんだが……俺が言うのもなんなんだが(ソフィア)に比べるとだいぶ小粒って評価らしくてな。筆頭を維持するのが結構ギリギリでストレスフルな生活らしいぞ」

 それに今カイとやりあえばソフィアに手の内を晒すことになる。それは得策ではない。

〈随分と小者ですね〉

「第一学院ってのは心身ともに立派な人物が通うところってことになっている。まあそのうち化けの皮がはがれるだろう」

〈いつも思うんですけどね、マスター〉

「なんだ?」

〈年寄りくさい喋り方ですね〉

「……うるさい、自覚はしているんだ」

 両親はクソ忙しい。今となってはエマがいるが、昔はじぃちゃんとばぁちゃんに育てられてた。家にはじぃちゃんとばぁちゃんの友達がいっぱい来てた。

 あの頃は、よかったなあ。


 帰宅。少し疲れた、とエマに告げて部屋に戻り、ベッドに横になる。

 ガーランドを見ながら考え込む。

 ジェイミーは司祭によって治療されるも、ランクを落として卒業が確定。ランクは前述通り就職に影響しないが、心証は悪くなっただろう。

 赴任地は一つ遠い地方になるか、あるいは最前線の可能性もある。

 いやむしろ最前線がありそうだ。少なくとも第三学院で長く4位を張っていたわけで。

 ま、欲をかいた結果だから知らん。

 魔王は居なくなったものの、逆に居なくなったことでこっちの結束はゆるくなった。結果国境付近が不安定になる。

 その状況において決まった土地を持たぬ行商人を中心に商人たちは少しでも稼げる国へってことで活発に移動している。というかエディルナに向かって流れ込んでいる。

 災害などで土地を失った農民たちも流れてくる。

 エディルナには英雄たちが住んでいる。そのため国内はもとより隣接国との関係も今のところは安定している。

 そしてこれが重要なのだがエディルナはまだ土地の余裕があり受け入れキャパがある。結果人口が増え、栄える。

 エディルナ皇帝ラファエル・ファン・エディルナに侵略意図がないとしても、周囲の国力を結果的に削っており少しずつ不満を集めている。それは親父の視察先が暗示している。

〈黙って私を見て、何を考えているんです?〉

「今日のこと、これからのこと」

〈そうですか。どんな感じに?〉

「ジェイミーは前線送りだろうな。まあ自業自得だ。そこから国境がヤバそうだなって考えにおちた」

 ガーランドは手の甲のガラスを薄ぼんやりと赤く光らせ、ゆっくりと光を消していく。

〈ところで、学院対抗戦では第六種戦闘なんてバカなことしないでくださいね〉

「ああ。第三学院は第二学院とまず戦い、その勝者が第一とやり合うから……そうだな、第二とは第五種戦闘を使う」

〈余裕を見せていると負けますよ?〉

「そりゃないだろ。もともといい勝負だったが、ガーランド(おまえ)の協力があってかなり体が鍛えられた。そのうえで強化(リインフォース)がかかるんだぞ。第二相手なら負けない」

 賢者は第一に集中している。数段落ちるのが第二。第三にはほぼ賢者はいない。結果第三学院のチームは戦士三人ってのが通例だ。今年もそうだ。

 学院のランクは攻撃力に偏重しているので司祭でランクインしてくることはない。だが司祭は司祭で別のランクがあるとは聞いている。まあ関係ないから俺は詳しくない。

 で、だ。第二は一人賢者がいることもある。一昨年はいたが、去年はいなかった。

 対戦相手に賢者がいると実に面倒くさい。

 前に出る二人を抜かないと後ろに当てられないが、抜くまでの間に出足の早い速攻魔術(インスタント)でガシガシ削られる。

 一昨年はそれで前衛が一人潰され、どうにもならなくなったところでデカい妖術(ソーサリー)撃たれて終わり。

 あれにどうやって勝とうか悩んで去年出たら、賢者がいなくてあっさり勝ち抜けたんだよな……。

 今年は賢者がいたとして、強化(リインフォース)さえあれば突破は可能だろう。そうしたら賢者をタコ殴りにした後、戦士二人を削ればいい。

 賢者二人、戦士一人なら突破はより簡単。一発速攻魔術(インスタント)はもらうだろうが、その程度では倒れないし戦士一人で二人の戦士を止めるのは無理だ。なら簡単にツブせるだろう。

 賢者三人なら別に何も悩まなくてもいい。俺の一撃が先に入る。その後は数で押せる。問題ない。

 逆に戦士三人なら普通にタコ殴りでいける。

「ま、第二とは勝てるだろ。問題は第一だ。何か考えておくよ」

 ガーランドはやはりガラスを薄ぼんやりと赤く光らせ、そしてゆっくりと光を消す。

〈第二種戦闘、限定解除などがおすすめですよ〉

「……考えておくよ」


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