出がらし
かつて、世界は魔王と対峙していた。
だが英雄パーティによる魔王討伐により、世界は平和になった。
剣聖コンラート・ベルゲン。
聖女マリア・フェルモ。
勇者アルヴィン・スヴェードベル。
賢者クリスティーナ・スネルテク。
この4人がその偉業を達成した者たちで、コンラートとマリア、アルヴィンとクリスティーナはそれぞれ結婚し、光の帝国「エディルナ」に隣り合わせで居を構えた。
やがてベルゲン家にはオスカーという男の子が生まれた。三年後にはマリウスという男の子が生まれた。
スヴェートベル家にはマリウスと同じ年にソフィアという女の子が生まれ、二年後にカイという男の子が生まれた。
四人は仲良く遊ぶ幼馴染だった。
学院に進むまでは。
エディルナには幹部育成のための学院が三校存在する。
学院は本人の資質と選択で自由にカリキュラムを選択し学習していくシステムを取っている。通学期間は満9歳になる春から6年間。この間に習得した単位に応じて就職先が斡旋されるシステムになっている。
卒業生の殆どは帝国騎士か、司祭か、あるいは賢者として地方の治安、祝福、政治に尽力することになる。
オスカー、ソフィア、カイは第一学院に進学した。最高峰の幹部の育成を主目的とした教育機関で卒業生の殆どは地方勤務を数年こなし、中央に戻り王宮勤務になる。
いわゆるエリート養成校というものだ。
マリウスは残念ながら第三学院だった。地方の中堅幹部を育成する教育機関であり、一般人からすれば十分なエリートであるが、世界を救った英雄の息子として考えるとかなりランクが落ちる。
マリウスが第一学院、第二学院に落ちたとき、コンラートはその肩をそっと叩いた。
「大丈夫だマリウス。お前は大器晩成だと父さんは思う」
だがその二年後、カイ・スヴェートベルが第一学院に合格したあたりからだんだんと雲行きが怪しくなっていく。
そのカイに模擬戦で勝てないマリウス。
父コンラートと同じ両手剣を構えるマリウスは、アルヴィンと同じ片手剣と盾のカイに一方的に攻め込まれてしまう。
11歳の少年が9歳の少年に勝てないという状況は、大器晩成としてもかなり厳しい。
その頃からマリウスは「出がらし」と呼ばれるようになった。