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第三話 彼女は雄弁を夢見た#A

 ―――舞華が天祥学園に入学し、謎の少年ロザリオと出会い、魔法少女となって一週間が過ぎた。

 ここ一週間で律軌やロザリオから様々な話を聞いたもの、悪魔に生徒が襲われるといったことはない。

 早足かつ濃密な授業にも慣れ始めたが、数人の生徒には別の不安要素があった。


「姫音さん、昨日はありがとね」

「いいよいいよ! 基本は教えられたし、あとは一人でもできるはず!」

「……まいちゃん、毎日大変じゃないですか?」


 一限と二限の間の休み時間。舞華は複数人の生徒から声をかけられる。

 姫音舞華は料理上手。その噂は瞬く間に広がり、舞華の部屋には毎晩違う生徒が教えを乞いに押しかけていた。

 ただ一緒に料理をするだけならば問題はないが、知識も腕も様々な生徒達に教えるとなれば話は変わってくる。相手に合わせて教え方や献立を工夫するなど、舞華にかかる負担は大きい。

 それを案じてか優乃も最近は一人で夕食をとっており、放課後はあまり会話できていない。


「そりゃ大変だけど……最低限自分の力で料理できないと困るだろうしね」

「それはそうですが……詰めすぎるのもよくないと思います」

「えっ」


 二人の会話が聞こえたのか、そばにいた生徒が声を上げる。堀内美南(ほりうちみなみ)。舞華と同じ列の一番後ろに座る生徒だ。目元にかかる前髪が特徴的な、物静かで気弱な少女。それが、舞華から見た現時点での美南の印象だった。

 今日、舞華は彼女に料理を教える予定だったのだが、美南は小さな声でぶつぶつと話し出す。


「あ、あの……姫音さん、忙しかったら、今日は……」

「え、あ、美南ちゃん、私は大丈夫だから!」

「でも……私、迷惑をかけるわけにはいかないし……」


 目をそらして、小さな声で約束を断ろうとする美南に、舞華は慌ててフォローを入れる。

 しかし、舞華の性格を見れば無理を顧みないことは容易に想像できる。他人のために働きすぎて、自分の首を締めさせるわけにはいかないと、優乃は落ち着いた声色で切り返した。


「まいちゃん、たまには休まないと。もう五日連続ですよ?」

「か、歌原さんの言うとおりだと、思います……私は後日でもいいし、教えてもらえなくても……」

「そんなこと言わなくても――― ……?」


 ふと、舞華は美南に異変を感じる。

 一見して何も変わりのない彼女だが、その胸の内に黒い渦のようなものが見えた気がした。瞬きをすると見えなくなるが、張り付いたような不安感は消えない。

 その違和感は、どこかアンドラスと対峙した時を思わせる邪悪なものだった。


「……? あの、私、何か迷惑なことを……」

「ああ言ってない言ってない! とにかく、乗りかかった船! 責任持ってやるからさ」

「う……その、いつ断ってもいいんで……」


 今にも泣き出しそうな声で、美南は顔を逸らす。これは難しいぞ、と舞華は気合を入れ直した。

 その直後、舞華の頭の中に律軌の声が響いてきた。


『姫音舞華』

『うわっ! あ、え、なに?』

『あなたにも見えたでしょう。堀内美南から悪魔の気配がする』

『悪魔の……? ってことは』

『ええ。近いうちに……それこそ今夜にでも、彼女は悪魔に操られて儀式を始めるはずよ』


 美南を取り巻く違和感。その正体が悪魔の気配だという。

 突然のことに驚きながらも舞華は一度深呼吸し、この一週間でロザリオたちから教えられたことを反芻する。


 悪魔が生徒を操り、儀式を始める。それまでのプロセスを舞華たちが妨害する方法は存在せず、儀式の下準備が始まるまでは何もできないらしい。

 重要なのは儀式の形をよく見て、どのような法則でそれが成り立っているかを調べることだという。

 儀式さえ破壊してしまえば悪魔は実体を失い、それに伴って力の大半を失う。生徒の命を救うためにも、儀式の分析と破壊が最優先となる。


 見渡すと、教室入口から律軌がこちらを―――美南を見つめている。

 今、自分にできることはない。舞華ははやる気持ちを押さえ込むように、もう一度深呼吸する。

 だが、もどかしくて仕方がなかった。美南が目の前で悪魔に憑かれているというのに、事が起きるまで何もできない。その事実が、重く心にのしかかる。

 予鈴の鐘が響く中で、舞華は強く拳を握り締めた。

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