第十七話 夏のある日に#C
「ふぁー! ただいまー!」
「お疲れ様です」
夕陽が差し込む頃、芽衣と皐月は寮へと帰ってきていた。買い込んだ服をどうにか収納し、外出の予定に合わせて洗濯するという形に決めたことで、今日はもう何もしなくて済む。
持ち帰った荷物のほとんどは芽衣のものだったこともあり、彼女の部屋で麦茶を飲んで体を休めているところだ。
「なんか、結局付き合わせちゃったね」
「いいんです。あなたと私の仲でしょう?」
「っはは、殺し文句じゃーん」
軽い受け答えと共にコップを口に運ぶ芽衣を見て、皐月の心に、刺すような痛みが走る。
今だけではない。自分が何か恐ろしい目に遭い、舞華たちに救われてからというもの、芽衣のことを考えるたびに針で刺したような不可思議な感覚が皐月の心を襲うのだ。
それはきっと、あの時に再確認してしまった事実。
「……芽衣は」
「んー?」
「将来の夢など……ありますか?」
思わぬ質問に、芽衣は口を開けたまま固まる。親の決めた人生を歩むことに悩んでいた皐月には辛いだろうと、今まで話題に出すことを避けていた。それを今、皐月から自分に向けて聞かれたのだ。
胃が引き締まるような感覚。また何か悩んでいるのだろうかと幾つもの憶測が脳裏をよぎる。
「なに……辛いこととか、あった?」
「いいえ。ただ、今まで聞いたことがなかったので」
「そう……いや、あたしもそんな真面目に考えてこなかったし……すぐには言えない、かな」
一転して表情を曇らせる芽衣を見て、皐月はどこか安堵に近い息をつく。自分でもそれが何かはわからないものの、溜飲が下がり気持ちが落ち着いた。
身を乗り出し、芽衣の頭に手を置く。まだ愁眉の解けないその顔を、自分の胸元へと抱き寄せた。
「でしたら、一緒に考えていきましょう。これからどうするか、二人で」
「……うん」
「大丈夫。芽衣なら、きっと」
皐月には、自分の抱く感情が何であるのかわからなかった。芽衣には、皐月が何を思ってこんなことを言うのかわからなかった。
ただ二人で、霧のように掴めない感情の中。守るように身を寄せ合っていた。
☆
その夜。舞華たち三人は美空の指導で自分にあった体の鍛え方を覚え、疲れた体を浴場で癒し終えたところだった。
「いやー、体動かすと気持ちいいね!」
「ですね」
「……疲れただけでしょ……」
言葉を交わしながら二階への階段へ向かう途中、ふと舞華が足を止め振り返る。
すれ違った上級生―――黒い短髪の暗い顔をした生徒に、見覚えがあった。
「どうかしました?」
「え、あ……今の人、どこかで見たような……ねえ律軌ちゃん」
「見ていなかったけど」
「えーちょっとー」




