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だとしても

 思い悩む教皇様を前に俺たちはどう言葉をかけていいかわからずにいた。なにか言葉をかけようとしても、それは気休めにしかならず教皇様の助けにはならない。それどころか教皇様は俺たちに気を使って自分を押さえ込んでしまうかもしれないと思ったのだ。


 しかし、一人だけ例外がいた。その例外とはフィオだった。フィオだけは教皇様の言葉に不満気な表情をしていたのだ。そして、フィオは教皇様の考えを穏やかに否定する。


「そんなふうに考えないでほしいな」

「どういうことですか?」

「どうもこうもないよ。それじゃあ、まるでカオルが嫌々生きてたみたいに聞こえるから」


 初代英雄と親しい関係だったフィオからすると教皇様の考えは納得できないもののようだ。初代英雄の想いを知っているフィオからしてみれば教皇様の考えは全く見当違いらしい。


「初代様はこの世界に嫌気がさして自害したはずでは?」

「自害云々はわからないよ。その時私はたぶん死んでたし。けど、カオルはこの世界が好きだったと思う」

「そうなのか」


 初代英雄はこの世界が好きだったのか。


 誘拐紛いなことをされて戦いまで強要されたのにもかかわらずそう思えたのか。これはお人好しなんてレベルじゃない。俺には全く理解できない考えだ。見ず知らずの人間のためにそこまでできるのか。偉大な人だったんな。


 俺はどうなんだろう。そこまでできるだろうか。見ず知らずの人間のために体を張り続けることができるだろうか。今の体ならおそらく不可能ではない。だが精神的なことを考えると無理だろう。とてもそんな気持ちにはなれない。そう思うと初代英雄の偉大さがよくわかる。よほどこの世界が好きだっただな。


「うん。いつも言ってたから『面白い』って」

「面白い、ですか?」

「なにか問題に巻き込まれたりする度に言ってた。『また大変なことが起きているみたいだ。やっぱりここは面白い』って。不謹慎だって怒られもしてたけど」

「そら怒られる」


 なにか事件が起きているのに面白いなんて言って良いわけがない。それでは不謹慎と言われても仕方ない。初代英雄からすれば巻き込まれただけかもしれないが当事者は大変だからな。まぁ、その都度事件を解決していたんだろうからいいけども。


「だから、この国が大変な目にあう度に心配してたもん。『僕の後を継ぐ人がいないとすぐにこの国は終わりそうだ。流石にそれは惜しい』って」

「結構なこと言うな」

「そうだね。でも、そのぶんちゃんと問題も解決してたし」

「そうか」


 やっぱりな。じゃないと後世に伝えられるはずがない。まだ初代英雄の話を詳しく聞いたことがないからはっきりとしたことは言えないが、相当に癖のある人だったらしい。


 とはいえ、しっかり後世のことを考えている辺りに好感が持てる。きっとこういうところが初代英雄を英雄たらしめる要因なんだろう。


「えっと、それでなんの話だったかな」

「英雄のあり方とか誓いは正しいかったのか、だな」

「そうだったそうだった。もちろん、正解はわからないけど、カオルが心配してた後継はちゃんといる。それに今までそれなりに上手くやってこれたんでしょう? なら、誓いも無駄じゃなかったってことにならない?」

「そうなるのでしょうか……」


 フィオの言葉を聞いて教皇様の表情も少しだけ柔らかくなった。やはり当時のことを知っている人物から話を聞けたのは大きかったらしい。更に少なくとも間違ってはなかったと言ってもらえたのだ。こんなに安心できる太鼓判はそうそうない。


 しかし、教皇様はまだ完全には吹っ切れてはないようだ。まだ少し暗い。


「だいたい英雄のあり方なんてなった本人にしかわからないよ」

「レックスはどうなんだよ」


 フィオのいう通りだな。ここは本人に聞くしかあるまい。英雄のことは英雄に聞くしかない。


 急に話を振られたレックスはかなり驚いていたがすぐに落ち着きを取り戻し考えていた答えを俺たちに話してくれた。


「俺は……酷いことをされているなんて思ったことはありません。それに責任の重さこそ感じても辞めたいなどと考えたことは一度もありません」

「だってさ」

「そうですか」


 このレックスの言葉を聞いて教皇様の悩みはようやく一段落ついたようだ。先日までの穏やかな表情に戻っている。初めからこうして当人と話し合っていれば良かったんだよ。そうすれば悩まずに済んだ。


「俺もこっちに来て面白いとは思ってるしな」

「それは、なによりです」


 好きかどうかはまだわからないが俺も面白いとは思っている。この先も面白くあってほしい。


「昔のことを一番知ってる私が言うんだから間違いないよ」

「そうですね」

「どうせ悩んだって答えなんて出ないだろうしな」

「考えすぎだね」

「わかりました」

「わかってもらえてなによりだ」


 そうして、教皇様は心からの笑顔を俺たちに見せてくれた。


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