閉幕
突然執務室に現れたベクトルに各々が驚いている中、とりあえず最低限必要な確認をすべきだな。
「もう終わったのか?」
「はい、トカゲは始末しました」
いろいろと気になるところはあるが、ひとまず流石と言っておこう。ベクトルにいちいちツッコんでいたら日が暮れるからな。それは寿命のない俺からしても遠慮したいくらいだ。
「兄ちゃん、ヒュドラを殺したのか?」
「僕一人でやったわけではないですがね」
「兄ちゃんヤバいな」
いや、本当にそれは凄いと思う。少し感覚が麻痺しつつある俺たちは流石だなと思うくらいだが、普通に考えたら確かにヤバい。はじめて傭兵に感謝したいと思った。普通の感覚をありがとう。
しかし、ヒュドラになにしたんだ?
お嬢と何かしていたらしいが詳しく聞いてないから凄く気になる。流石に今は聞けないから後で教えてもらうとしよう。
今は目の前の傭兵に集中すべきだよな。
「ベクトル、こいつは死ぬこと込みで計画を立ててるらしい」
「なるほど、生け捕りですか」
「そういうこと」
やはり恐ろしく察しがいい。さっきまでヒュドラと切った張ったしていたのにもう切れ変えができている。できる男という言葉が置いてけぼりになりそうな勢いだ。
これであの変態性がなければ完璧だと思うんだが……それは贅沢か。それにそれはお嬢が決めることだしな。俺が決めることでもない。
「もう諦めろよ」
「……」
ベクトルが加わったことによって状況はよりこちらに有利になった。数的にも質的にもこちらが圧倒的に勝っている。
ただ一つ気になるところがあるとすれば生け捕りという一点のみだ。子供の方は既に生け捕りにしているが、傭兵の方はまだピンピンしている。最初は子供を人質にして傭兵を無傷で捕らえてみようかと思ったが、どうやら効果はなさそうだからしていない。あいつ子供を捕まえた時も無反応だったからな。
なので、今一番注意するべき点は自死だ。これは相手がピンピンしている分対処が難しい。弱っていたら下を噛むとか服毒とかに手段は限られるのに。
もう黙って膝でもついてくれれば楽なんだが、そうはいかないらしい。まだ得物を下ろしてくれてない。
「圧倒的に不利だぞ」
「だからこそできることもある」
傭兵は突風を発生させたまま今度は俺の方に向かって突撃して来た。突風を発生させたままということは俺の体で自死することもできない。なら、他に狙いがあるということになるのだが、それが俺にはわからない。
「どういうつもりだ?」
「こうするんだよ」
すると傭兵は突然突風を消して俺に突っ込んできた。そうなると俺は傭兵に引き寄せられる。先程まで突風に抵抗していた俺は突然突風がなくなると傭兵に近づいてしまう。それで傭兵は自死しようとしたのかと思いきや狙いは別にあった。
なんと俺が傭兵を躱すこと込みで自死を狙っていた。俺が傭兵を躱しきる前に俺の中で自らの得物を使って自死しようとしたのだ。そうすることでベクトルは俺に阻まれて傭兵に近づけなくなる。更に俺も傭兵を躱すことに意識を持っていかれてた。今更傭兵の首にかかる得物を削り使用不可な状態にすることはできない。その状態で傭兵は誰にも邪魔されずに自死しようとする。
完全にしてやられた。少なくとも俺は。
「こらこら」
しかし、フィオには俺は効かない。フィオは俺を突き抜けて傭兵の得物を奪い取った。そして、俺が躱しきったことを確認してから傭兵を床に叩きつけて取り押さえた。
「貴方には別に酷いこともするからね」
「ちっ」
「君も大人しくしてください」
「……」
フィオがさっきまで取り押さえていた子供が今度は自死しようとしたらしい。しかし、今はベクトルがそれを阻止していた。
「やっぱり詰んでたな」
「ああ」
ああ、やっと終わった。最後はかなり焦ったがフィオのおかけで無事に生け捕りに成功した。文句なしの結果と言っていいだろう。
「ポルター、貴方なにもしてないわね」
「仕方ないだろ」
それは言ってくれるな。俺もわかってる。
「下手に重傷とか負わせられないだろう?」
「今ならルーフェさんがこちらに向かっているので大丈夫だと思いますよ」
「なんだよ、今からこいつに穴でも空けろってか?」
やるぞ? 生きていくうえで全く必要としない穴増やすぞ?
「別にそんなこと言ってないわよ」
「じゃあ、どうすればよかっただよ?」
是非ともその完璧な解決策をお聞かせ願いたい。さぞかし誰もが納得するような美しい解決策なんだろう。楽しみだね。
そうじゃなければ文句言ってやる。
「ポルターが教皇様を守って私がその人を倒せばよかったのよ」
「終始紅茶飲んでたやつがなにを言うか!」
できるなら言えよ! というか、紅茶飲んでる暇があるならその指示くれよ! お前の従魔はその間も頑張ってましたよ! ご主人様なら指示してくれ!




