不毛な議論
「しかし、どうやって殺すか……」
「わからないなら諦めろよ」
傭兵は得物を構えたまま静かにそう呟く。おそらく傭兵も予め用意していた計画はあったのだろう。しかし、いざ教皇様の目の前に来てみれば化け物二匹に魔術師一人。これは流石に予想外だったに違いない。先程からこちらの様子をずっと伺っている。
まぁ、何をどうしようと教皇様を殺させるつもりはないがね。
「少し気になったんだけど、いい?」
「俺か? まぁ、別に構わねえよ」
「貴方が死んだら貴方は戦争できないよね?」
「確かにそうなんだが、独り占めするつもりもないからな」
狂った優しさ振りまくな。お前のその優しさはどれだけ迷惑なもんだと思ってんだ。というか、そんなお裾分けはいらねぇよ。お裾分けする暇あるなら一人で将棋でもしてろ。あれも立派な戦争だ。
「じゃあ、しょうがないね」
「ぐっ!」
そこでフィオが子供の首を掴んで壁に貼り付ける。目にも止まらぬ早業だ。間違いなく世界新。レコード書き換えちまったな。
「大丈夫なんだよな?」
「当たり前じゃん。子供に酷いことはしないよ」
結構衝撃的な絵面ではあるが、押さえつけてるだけで力は入れてないらしい。力加減も大丈夫そうだ。
ただ子供がじたばた藻掻いているのが少し気になる。いや、少しじゃない。結構気になる。なんだか可哀想に気になってくる。まぁ、子供の方もフィオを殴ったり蹴ったりしているのであまり考えないようにしよう。
あ、顔にパンチ入ってる。
「じゃあ、俺も働くか」
「あんたも首狙いか?」
「生首はもういらん」
生首なんてもう二度とごめんだ。ここに来るまでに既に経験済なんだよ。あれはただただ気持ち悪い。しかもここは執務室なんだぞ。お前の血の雨なんぞで汚すわけにはいかない。比較的汚れは小規模が目標なんでな。
「まずはあそこからかな」
「まぁ、そう来るよな」
「なっ!?」
俺はローブから抜け出して傭兵のアキレス腱目掛けて攻撃をした。しかし、それは突然室内に発生した突風によって阻まれた。
「買っておいて正解だったな」
「昨日のか……」
なんと傭兵の手には昨日道具屋で購入していた突風を発生させる道具が握られていた。どうやらあの道具のせいで俺は軽く吹き飛ばされたらしい。
完全に油断していた。もう執務室は滅茶苦茶だ。教皇様がさっきまで書いていた書類もどこかに飛んで行ってしまった。
「あんた軽そうだから使ってみたが、上手くいってよかったわ」
「面倒臭いことしやがって」
本当に面倒臭い。部屋が散らかったとかは置いておいて護衛的な観点でだ。あの道具があると突風で上手く攻撃できない。
お嬢から事前に刺客が来た場合の指示はうけている。まず逃さないこと。そして、殺さないこと。この二つだ。
どちらの理由も確か後で話を聞くためとかだったはず。初めから殺す予定はなかった。しかしまぁ、理由は今となってはどうでもいい。どっちみち殺してはいけないからな。生きたまま捕まえて南とやらに戦争をさせない口実を押し付ければいい。方法は知らない。落ち着いたら教皇様がどうにか上手くするだろう。
「ポルター、ちゃんとしなさい」
「いやいや、優雅に紅茶を飲んでる人に言われてもな」
いくらご主人様だからって、この緊急事態にティータイムしている奴に言われたくない。ちゃんとってなんだよ。
というか、俺が一番生け捕りに向いてない知ってるくせにっ。
「お譲ちゃんは随分余裕だな」
「そうね」
「俺と遊んでくれよ」
「遠慮しておくわ」
「そう言うなよっ!」
傭兵はその言葉を合図に突風を発生させながらお譲に突撃した。しかし、その突撃は透明な壁に阻まれる。
「……なんだよ、これ」
「名前なんてないけれど、強いて言うなら廃館の結界かしら」
どうやらその見えない壁は廃館を包み込んでいた結界と同じものらしい。いつの間にか教皇様を守る形で展開していたようだ。
流石はお嬢といったところか。抜け目がない。しかし、今も紅茶を楽しているのでいまいちしまらない。
「どうやったんだ?」
「よくある防壁の魔術の裏に貴方たちと同じ魔術を付与したらできたわ」
また保存の魔術か。保存の魔術は無限の可能性でも秘めてんのかよ。ちょっと汎用性高すぎやしないか?
「それはどうやっても壊れないぞ」
「……」
まぁ、俺なら壊せるけど教える必要などない。突風で飛ばされて結界を破壊したら一大事だからな。それこそお嬢にしこたま怒られること間違いなしだ。
そうして、俺たちがちょっとした膠着状態に陥っていると信じられない人物が現れて傭兵の首に剣を添える。
「すみません、流石に疲れてるのでさっさと諦めてください」
そう言って、ベクトルは傭兵に降伏を促す。少し呼吸が荒い様子からヒュドラを討伐してすぐにこちらへ向かったことがわかる。流石はできる男と言ってやりたいところなんだが、理解が追いつかない。
……ベクトル、いろいろと速すぎないか?




