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全ての生に祝福を、全ての死に感謝を

「はあ、はあ、はあ」


 ヒュドラの首があと二つというところで状況は膠着していた。レックスくんの体力の限界が来てしまったのだ。


 対するヒュドラも余裕がある状況ではない。十個あった頭を二つに減らし醜い姿を晒している。ここまで頭が減ってしまっては逃走も難しいようだ。再生のためなのか執拗に落ちた首を狙ってくる。


 ……膠着状態の今のうちにお互いの状況確認をするべきか。


「エンリさん、あと何発撃てますか?」

「一発です」


 思っていた以上に後がない。出だしが順調だっただけに油断していた。


「ルーフェさん」

「私はまだ大丈夫です」


 まだ誰も重傷を負っていないので間違いないだろう。というより、ルーフェさんが遠隔で瞬時に怪我の治療をしているのが大きい。


 決して口には出さないが、ルーフェさんの方がヒュドラよりよほど反則じみている。


「レックスくんとケラーデさんは……聞くまでもないな」


 レックスくんは明らかに限界が近い。今にも膝をついてしまいそうだ。しかし、それでも諦める様子はなく懸命に剣を構えている。


 ケラーデさんはそんなレックスくんを庇う動きをしていたのでふらふらだ。もちろん、レックスくんよりはケラーデさんの方が動けてはいるが、それもマシという程度だ。


「ヒュドラの方も限界が近そうですね」

「そうですね。それにここまで追い詰めたのは初めてです」


 それは良かった。確実にヒュドラを追い詰めているらしい。ヒュドラ討伐まであと少しといったところか。


 それにヒュドラは八つの首を失ったままなのでかなり手数が減った。その代わりに、そのぶんヒュドラの動きは素早くなってしまった。分散していた意識が残っている頭に集約したせいか、はたまた死にたくないと必死に足掻いているせいなのかはわからない。


「あなたはどうなんですか」

「僕は前衛の二人に比べればまだまだ余裕がありますね」

「なら、早く援護に」

「そうしたいのですが、剣がね」


 そう、僕はまだまだ余裕がある。


 しかし、剣はもう限界だ。保存の魔術が効いてない。それどころか刃のほとんどが錆びてしまっていて今にも折れてしまいそうだ。これではまともに使うことなどできそうにない。


 保存の魔術を無理に使おうとするとこうなるのか。これはあとでディジーさんに報告だな。


「この剣だとかえって足手まといになりますからね」

「では……」


 失敗の文字が頭をよぎったのかルーフェさんの表情が曇る。気持ちはわかる。ここでヒュドラが引けばいつもと同じ結果になってしまう。そして、次は総力戦。被害は計り知れないだろう。


「なので、エンリさん。この剣に保存の魔術を付与てしください」

「保存の魔術?」


 予想外の言葉に頭が追いついてこないのか、気の抜けた声で聞き返されてしまった。しかし、詳しく説明をしている時間はない。


「早く」

「……わかりました」


 エンリさんはまだ納得していないようだが、ひとまず無事に付与してくれた。貴重な一発分だ。無駄にはできない。


「それで初めの切れ味が?」

「いえ、流石にそこまでは」

「そうですか……」


 正直なところ気休め程度の意味しかない。ディジーさんが施してくださった保存の魔術は特別なものだ。それこそポルターさんやフィオさんに付与されているものに近いもの。対して今付与されたものは普通の保存の魔術。本当に保存の意味でしかない。今にも朽ち果てしまいそうなこの剣を維持する程度が精一杯。切れ味も今にもなくなりそうだ。


 だが、引くわけにもいかない。勝利以外はあり得ないのだから。


「では、行ってきます」


 そう言って、僕は持ち場を離れてヒュドラに突っ込む。するとヒュドラは一目散にこちらに攻撃を仕掛けてきた。僕はそれを躱す。しかし、ヒュドラの狙いは僕ではなく転がっている首だった。当然といえば当然だろう。


「ふん!」


 それをすぐに理解した僕はヒュドラの伸びきった首に剣を叩きつける。しかし、ヒュドラの首を両断するまで剣は保ってくれなかった。首の半ばで止まってしまう。


「はあぁぁぁぁああああ!」


 そこでケラーデさんが追撃する。ケラーデさんの剣が僕がつくった切り口を引き継ぐように振り下ろされた。そうしてヒュドラの首はなんとか両断することができた。


 しかし、ヒュドラの首はまだ一つ残っている。ヒュドラはこの隙を逃すものかと襲いかかってくる。狙いはケラーデさん。剣が折れてしまった僕は眼中にないらしい。ケラーデさんも攻撃を躱すほどの余裕はない。だが、問題ない。


「とどめは英雄のものですからね」


 レックスくんは声を上げることもなく、ただ静かにヒュドラの首に跳びかかる。振り上げた剣が太陽の光を反射し眩しく輝く。そして、レックスくんは渾身の振り下ろしをもってヒュドラの最後の首を叩ききった。


「……」

「……」

「……」

「……」

「全ての生に祝福を、全ての死に感謝を」


 そして、レックスくんは律儀に祈りの言葉を呟いてから倒れた。


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