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 それからも俺たちは廊下を進みながら他愛もない雑談をしていた。


 埃っぽいなとか誰もいないなとか、その程度のくだらない話をしていた。


 というか、今も。


「それにしても広いな」

「確かなことはわからないけど、領主の館かな?」


 領主ね。


 市長か知事っぽい役職かね。


 それならこの広さも頷ける。


「確かに埃っぽいけど高そうなランタンみたいな灯りが壁にあるし、廊下も長いからそうかもな」

「廊下の長さはあんまり関係ないと思うけどね」


 そういうもんなのか。


 お金持ちの家は廊下が長いイメージがあるんだけどな。偏見だとしたら申し訳ないが、イメージってそういうもんだ。


 とはいえ、おかしなところもある。


「窓がないな」

「そうだね」


 窓がないからランタンを掛けてあるのは理解できる。


 でも、ランタンをかけなくても窓をつければ、明るさは確保できると思うけどな。


「ここは館の内側なのかもね」

「なるほど」


 そうか。


 そりゃ、内側なら窓はないよな。素人がいい加減な推理したみたいだ。


 口に出さなくて正解だった。


「そうなってくると、やっぱりかなり広いんだろうな」

「かもね」


 内側があるってことは外側があるってことだからな。


 相当な広さとみた。


 まぁ、根拠はないしただの想像だけど。


 高そうな赤くて長いカーペットはさっきからずっと見えてるが、流石にそれだけで館の広さを予想なんてできない。


 せいぜい掃除が大変そうなことしかわからない。


「走り回っても大丈夫そうなくらいだね」

「確かにな」


 俺が子供だったら大声で騒ぎながら走っていること間違いなし。


 走り回るという発想にいたったフィオも大概だけどな。


 しかしだ。


「一回走ってみようかな」

「ポルターは子供だね」


 お前が言い出したんだろうが。


 というか腹立つ顔だな。いい大人がなにはしゃいでるのって顔だ。もうそれ以外のあらわし方がないってくらい相手を馬鹿にする顔だ。


 別にはしゃいでるわけじゃなくて、実験だ。


「走ったことないから試すんだよ。あとその腹立つ顔やめろ」

「そういうことね」


 今度は納得顔か。本当に忙しいやつだな。


 しかしまぁ、良いことだとは思う。


 リアクションがあった方が喋りがいがある。


「どれくらい速いか見ててくれ」

「わかった」


 流石に自分で速いかどうかの判断は難しい。客観的に見てもらった方がわかりやすい。


 とにかく俺は速さを意識して移動してみた。これといって速く移動する方法は知らないが、いつもより体を深く傾けることを意識して移動してみた。


 すると確かにいつもより速く移動している気がする。うん、速いな。


 とりあえず速さを実感できたのでフィオのいる位置に戻った。


「速かったか?」

「……普通かな」


 そうか、普通か。


「なんていうか。普通の人が一生懸命に走ってる姿を想像してみて」

「した」

「その速さ」

「……普通だな」


 いや、遅いわけじゃない。それにこれから競うわけでもない。だから、いいんだ。


 しかし、なんていうか普通ってさ。残念な気分になる。


 まぁ、仕方ない。うん。


「フィオも走ってみたらどうだ?」

「私は速いよ?」


 それはなんとなくわかってるけど、『私は』の部分を強調するな。


「さっきのドアノブ潰したみたいに、なにか発見があるかもしれないだろう?」

「言い方が気になるけど、確かにそうだね」


 お返しだ。怪力め。


 フィオは見かけと違ってかなりの怪力だ。まさに人間離れした力だ。ならば握力だけではなく脚力も凄まじいことになっているはずだ。


 今のうちに知っておくべきだろう。なにより練習に丁度いい長い廊下まであるんだ。もし力加減を間違えても廊下の突き当りはまだまだ先だから、壁に埋まるなんてことにはならない。完璧に近い環境だと思う。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 フィオは靴を床に軽く打ちつけて具合を確かめた。そして、ほんの少し体の重心を低くしてから足を前に出した。


 直後に床が砕ける音を残して、フィオは廊下の突き当りまで走り抜けていた。


 速すぎるだろ……。


 あと高そうなカーペットがくちゃくちゃになっている。しかも、一歩目の跡らしきところはカーペットに穴が空いている上に床が割れている。


 こっちではこれが当たり前なのか?


 そんなことないと思いたいが、当たり前だとしたらカルチャーショックだ。


「速すぎるだろ……」


 突き当りの壁に手をついてしばらく固まっていたフィオだったが、急いでこちらに振り返ってなにか言っている。


「なんか言ってるけど、遠すぎて聞こえないな」


 身振り手振りで伝えようと頑張っているが、全然わからん。


 いや、戻ってきなさい。別に俺は耳が良くなったわけじゃないんだから。


 その思いが伝わったのか、フィオはかなりの速さで戻って来た。今度はカーペットはくちゃくちゃにならなかった。


「凄くない?」

「凄いな」


 それからフィオは凄い早口で感想を言った。それはもう凄い量の。


 やれ力の入り方が綺麗だの理想的な動きができただの疲労が感じないだの。一気に捲し立てる。因みにカーペットの穴や床のひび割れは力加減の間違いで、カーペットの皺は力加減に戸惑って足を滑らせかけたらしい。戻って来る時は流石に力加減を間違えなかったそうだ。


 かなり興奮してる。


 フィオの様子からして、こっちの世界でもあの速さは当たり前じゃないらしい。


 安心した。あの速さが一般的なものなら俺はついていけない。


 それになにより。


「凄いけど、風で俺が飛ばされそうになる」

「そこは……耐えて」

「……努力はしてみる」


 直近の課題だな。


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