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決戦前夜

 手合わせを終えたベクトルは俺たちと別行動をすることになった。どうやらレックスたちと具体的なヒュドラへの作戦を立てるらしい。別に俺たちも参加してもよかったが、絶対に揉めることが予想されたので参加は認められなかった。


 対して、俺たちは護衛についての作戦会議をした。とはいえ、そんなに細かい作戦会議をすることはない。本当に刺客が現れるかどうかもわからないからな。なので、最終的にはお嬢から簡単な指示をもらうだけで終わった。


 そうして、俺とフィオは組合の厩舎に戻った。厩舎に戻ると言っても特にやることはない。そこで、俺たちはいつもその日の出来事を話して夜の時間を潰す。しかし、今日はどちらとも中々話をする気になれなかった。


「なにかとついて回るな」

「なにが?」


 しまったな。気まずさに耐えかねてなんとなく喋ってみたが、変な切り出し方をしてしまった。こんなことになるなら、もう少しマシな掴みを用意すべきだったな。


 しかし、なにがって……。流石にわかってるだろ。


「初代英雄とか」

「未還の魔術とか?」

「そっちもな」


 そっちもあったな。


 初代英雄の話もそうだが未還の魔術の話もあったか。まぁ、どっちも同じような話だったけどさ。結局は済んだ話だ。今の俺たちにはあまり関係ない。


 関係があるとするなら、ベクトルの装備を一新したことの方がまだ関係があるだろう。今となってはひどく懐かしい感じるが、あれって今日の出来事なんだよな。


「でもまあ、仕方ないよね。場所が場所だし」

「まぁ、そうなんだけどな」


 教皇様に呼び出されたりしたのも、それが主な原因だもんな。全てはこのヒリングサッツ教国で起きたこと。なら、今日みたいなことも仕方ないとは思う。


 とはいえ、いきなり教皇様に会わせるのはやめてほしいけど。


「こういうのにも、慣れつつはあるけど頻繁なのはちょっとな」

「慣れたの?」

「ああ、少しつづだけどな」

「そっか」


 未還の魔術やらなんやらは切っても切り離せない類のものだ。ならば、慣れてしまった方が楽だ。いつまでも気にしていても解決するわけじゃない。割り切ってそういうものだと思う方が諦めもつく。


 それにこれからもこういうことはついて回ることだろう。今日もよくわからない傭兵に根掘り葉掘り聞かれた。となると他のやつにも聞かれるだろう。それこそどこかの国のお偉方に俺たちのことがバレたら、説明くらいは求められるはずだ。まぁ、その辺りのことはお嬢が上手いことしてくれるだろうが、どうにもならない場合は未還の魔術の説明をするしかない。


 とまぁ、少し考えただけでこんなことになるのだ。もう慣れてしまった方が絶対に楽だ。


「私はまだ無理かな」

「……」


 しかし、フィオはまだ割り切って考えることはできないらしい。


「まだ顔も名前もはっきり覚えてるから」

「そうか」


 それもそうか。


 俺はこちらの世界の何を見ても昔のことを思い出すことはまずない。どこを見てもまるでおとぎ話のように思えるからだ。


 しかし、フィオは違う。どれだけ時間が経っていてもフィオにとってはつい最近のことなのだ。それに自分が何を思い出すにしても『過去の出来事』として突きつけられる。


「昨日とまでは言わないけど、私にとってはつい最近のことだからねぇ」

「そうだなぁ」

「旅をしている間は割り切って考えられたんだけど、ここだと色々思い出しちゃうんだよね」

「そうか」


 ここはヒリングサッツ教国なのだからそれも仕方ないことではある。昔のことを思い出す切っ掛けは沢山あるだろう。それに初代英雄もフィオにとっては親しい人物なのだ。それが今では過去の人物として扱われ崇め奉られている。また当時の仲間も同様の扱い。


 俺にフィオの気持ちを理解することはできないが、少なくとも容易に受け入れられるものではないということぐらいはわかる。


「もう少しで慣れると思うんだけどね」

「……」


 そう言ったフィオの声はとても明るくいつもと同じものだった。しかし、俺にはそれがとても悲痛な声に聞こえてしまった。


 だからといってはなんだが、つい無駄なことを言ってしまった。


「別に慣れる必要はないだろ」

「そうかな?」

「……さぁ」

「さぁって」


 特に何も考えもせずに言ってしまったからこうなる。いい加減なことをそれっぽく言ってしまった。だから、聞き返されると詰まってしまうんだ。みっともないことこの上ない。それにレックスの見切り発車をもう注意できない。


 おそらく悲痛な声に聞こえたのも気のせいだ。話の流れで辛気臭い雰囲気になってしまったが、別にフィオは悲しそうな顔をしているわけでもない。至って普通だ。なんなら機嫌が良さそうにも見える。


 俺の勘違い以外のなにものでもなかった。


「じゃあ、このままでもいいのかな」

「たぶんな」

「そっか」

「ああ」


 そう言って、フィオはこの話を切り上げた。俺もこれ幸いとその流れに従い先程のいい加減な言葉をなかったことにしようと努める。


 そうして、俺たちはいつも通りの夜を過ごした。


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