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手合わせ

「では、勝敗は気にせず適当なところで切り上げましょう」

「ああ」


 所変わって俺たちは冒険者組合の訓練場に来ていた。そこで、ベクトルとレックスの二人は向かい合っている。


 というのも、お嬢の手合わせの案が採用されたのだ。やはり実際に目にしてみないとよくわからないという部分もあったし、なにより手合わせした方が手っ取り早く実力の確認ができるという話になったのだ。


 これは当然お嬢のせっかちが原因だったりするのだが、実害がないので言いっこなしだ。


「両者ともわかっているとは思うが、怪我には気をつけてくれ」

「はい」

「もちろんだ」


 そうこうしているうちに手合わせの準備は整っていた。ベクトルとレックスは一定の距離を空けてお互いを見つめている。またその中央にケラーデさんが立っている。念の為、ケラーデさんには審判的なことをしてまらうのだ。


「負傷した場合は遠慮なく私に言ってください」

「はい」

「ありがとう」


 そして、三人から距離を空けてルーフェちゃんが控えている。ないとは思うがもしもベクトルかレックスが怪我をした場合は、聖女として責任をもって怪我を治療してくれるそうだ。そのためにルーフェちゃんは今も気を引き締めた顔をしている。


「こういうの見るのは初めてだ」

「良かったね」


 そして、最後に俺たち従魔組とお嬢とエンリちゃんは手合わせがよく見える距離で突っ立ってる。訓練場に椅子とかはないらしい。


 因みにエンリちゃんは今も尚しっかり不機嫌だったりする。原因は自分だけ役割がないからなのか、俺たちが側にいるかはわからない。というか、興味ない。


「開始の合図はどうする?」

「ケラーデに任せる」

「なんでも構いませんよ」

「では、私が始めと言うからそれを合図にする」


 それを聞いた二人は静かに頷く。


 そして、少しの間静寂が続いた。しかし、その静寂にもすぐに終わりが訪れた。


「始めっ!」


 ケラーデさんの合図をきっかけに二人は剣を抜き放つ。まず、レックスはベクトルに突っ込む。しかし、ベクトルは動じることなくレックスを待ち構える。そこにレックスは躊躇することなく刃引きされた剣をベクトルに叩きつけようとする。対してベクトルは少しだけ身を引いてそれを躱した。そして、剣を振り下ろした姿勢のレックスの首めがけて剣を振り抜いた。しかし、レックスは振り下ろした剣をすぐに引き上げベクトルの剣を受け止める。


「迫力あるなぁ」

「そう?」

「素人目にはそう見えるんだよ」

「そっか」


 俺みたいなド素人は手合わせなんて見たことないんだ。しかも実力のある者同士の手合わせなんてそうそう見れない。一応戦闘経験はあるにはあるが大体一瞬で終わってしまうからな。地味に先日のヒュドラ戦が最長だったりするくらいだ。そう考えるとこの手合わせは貴重な機会と言える。


 こうやってのんびり話してる間にも二人の攻防は繰り広げられている。たまに剣と剣がぶつかり合う音が響きわたる。


「互角っぽいな」

「まぁ、手合わせだからねぇ」


 実力を確認できればいいだけだから、どっちが強いとかは別に関係ないか。そうなると勝ち負けも当然ないわけだ。お互いに納得するまで手合わせを続けて十分だと判断したらそこで終わるのだろう。


 そうして、二人の手合わせはしばらく続いた。しかし、終わりは二人が決めるのではなくケラーデさんが決めた。


「もういいだろう」

「わかりました」

「はあ、はあ、はあ」


 ベクトルとレックスはケラーデさんの声を聞き手合わせは終えた。お互いに怪我はないようだが、少し汗を滲ませているだけのベクトルに対してレックスは息が上がっている。


「本当に不調みたいね」

「そうだね」


 素人の俺でも理解できるくらいレックスは不調のようだ。手合わせの最中はそこまででもなかったが、今は膝をついてしまっている。駆け寄ってきたルーフェちゃんの様子から問題ないのはわかる。しかし、だからといって安心できるものではない。レックスはどうやら限界らしい。


「それで、貴方は満足できたかしら?」

「一番反対してたもんね」

「……問題ないでしょう」


 一応、エンリちゃんもベクトルの協力に不機嫌ながらも納得してくれたようだ。これでヒュドラの討伐に関する問題はひとまず片付いた。あとは実行するのみといったところだ。


 とはいえ、レックスの不調具合を目の当たりにすると、どうしても不安は拭えない。これで準備は万端と言えるような雰囲気じゃないからな。レックスがあの状態ではせっかくのベクトルの協力も効果があるのか心配になってしまう。まぁ、信じるしかないんだけどさ。


「お兄様の実力はあんなものでは……」


 最後にエンリちゃんはレックスの方を見つめながら小さな声で確かにそう言った。そして、その声はとても悲しい声だった。


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