強制終了
俺がエンリちゃんの神経を逆なですると室内は一気に騒がしくなった。
エンリちゃんにはやれ従魔風情がとか人でもない貴方たちにとか色々まくしたてられた。しかし、俺も黙っちゃいない。お兄様ってなんだよとかどういう経緯で今のポジションにいるのかとか関係のないことを聞いてやった。
そうなると当然エンリちゃんはヒートアップした。もう凄い声量で怒鳴ってくる。こちらがエンリちゃんの血管を心配するほどに。
そこで、フィオがこの不毛なる喧嘩に乱入してきた。そして、更に場は荒れた。フィオのお誕生日と好物は何ですかという場違い極まりない質問がエンリちゃんの逆鱗に触れたのだ。
するとエンリちゃんのマシンガントークならぬマシンガン叱責が始まった。それはもうもの凄い勢いでエンリちゃんの息が上がるまで続いた。
一方、俺たちのくだらない言い争いを見ていたレックスたちは何度も止めようといていた。しかし、それも最初だけで途中から完全にフリーズしていた。それはまさに理解不能といった様子だった。
対するお嬢とベクトルは割れ感せずの姿勢を貫いていた。お嬢は爪の伸び具合を確認したり、ベクトルはお嬢鑑賞タイムに入っていた。ゴーイングマイウェイとはこのことだ。
そうして、混沌たる時間を各々ですごしていると、エンリちゃんの肺活量に限界がおとずれた。完全に息が上がっている。
そこでようやくお嬢が声を上げる。
「話にならないわね」
「はぁ、はぁ…………貴方たちがいい加減なことばかり言うからでしょう!」
まぁ、そうなんだけどさ。
俺としては軽いストレス発散のつもりだったんだ。それがここまでキレるとは思ってなかったんだよ。あとエンリちゃんにとってもちょっとしたガス抜きになればなと思っていたが、まさか活火山の噴火になるとは思ってなかったんです。はい。
それにしてもキレすぎだと思うけどな。
「エンリちゃんが怒るからじゃない?」
「俺もそう思う」
「人のせいにしないで!」
このままだとマジで血管切れるぞ。
落ち着きたまえ。鎮たまえ。矛を収めたまえ。
「貴方たちも煽らないで」
「「はーい」」
別にそんなつもりなかったけどな。
エンリちゃんのクールダウンを狙ってただけであって煽ってはない。手段こそ間違えたが悪意はないんです。
「エンリも落ち着くんだ」
「しかし、あちらが巫山戯たことを言い出したからで!」
「だとしてもだ。それに言いすぎだ」
「…………わかりました」
声ちっさ。それに間も長い。これは絶対に納得していないな。お兄様に直接注意されたから渋々といった感じだろう。あとは地味に疲れているのも原因だろうな。あれだけ怒鳴り続けたら疲れもする。これでエンリちゃんがしばらく静かになるなら、あの混沌たる時間も無縦はなかったと思える。
「話を戻そう。ベクトルさんの実力は確かなんだね?」
「はい。自分でも問題なく対処できると思っています」
「根拠はありますか?」
「ありません」
まぁ、そんなわかりやすい指標とかないしな。
現実はゲームのようにステータスが確認できるわけじゃない。なので、ベクトルがヒュドラを相手取るに相応しい実力があるとは証明できない。それこそ過去にヒュドラの討伐経験があるなら話は別だが、言わないということはないということだ。
「とはいえ、このままでは埒が明きませんよね。なので、僕は一つ宣言したいと思います。僕はヒュドラの頭を四つ落とします。また、それだけの自信はあります」
「四つも……」
それは凄いことなのか?
確かヒュドラの頭は十個あったはずだ。そのうちの四つを落とすということは残りは六つ。半分にもとどいていない。
「できなければディジーさんと別れます」
「は?」
おお!
これは大きく出たな! ヒュドラ終わったな!
「ベクトルがそこまで言うか!」
「これは絶対の自信だねぇ」
「いい加減にしてください!」
「いやいや、大真面目だって」
「ベクトルがここまで言うのは中々ないよ」
ベクトルはお嬢至上主義だからな。そのベクトルがあそこまで言ったのだ。これはもう既にヒュドラの首は四つなくなっていると言っても過言ではない。哀れなヒュドラだよ。戦う前から首を四つもなくしているとは。しかもそれにヒュドラは気づいていないんだ。実に哀れなヒュドラだ。
「そうなのか……僕には理解できないよ……」
「そうですか」
まぁ、普通は理解できないよな。
別に俺たちだって完全に理解してるわけじゃない。けど、こういうのは理屈じゃないんだよ。慣れと諦めとノリが大切なんだ。すると世界は一変する。ベクトルという名の概念を受け入れることができる。
つまり、理解しようとするだけ無駄なんだよ。最終的にはお嬢の話だけを聞いていれば問題ない。そういうものだ。
「なら、こうしましょう」
「お嬢、なにか良い案でもあるのか?」
「ええ、手合わせすればいいのよ」
「手合わせ?」




