内容確認
「では、依頼内容は強行派からの護衛でよろしいですね」
「はい」
お嬢が最終的な依頼の確認を行うと教皇様ははっきり答える。
具体的な護衛手段や非常時の対応をおおよそ詰めた後は何も起きなかった場合の報酬の取り決めをした。また守秘義務の確認をして、俺たちは教皇様からの依頼を正式に受けることになった。
「何度も同じことを聞いて申し訳ありませんが、報酬は馬と馬車ということで問題ないですね?」
「はい」
教皇様としてはこちらが提示した報酬が腑に落ちないようだ。
確かに馬と馬車は簡単に手に入るものではないが、手に入れることがそう難しいものというわけでもない。それもお嬢のような二級冒険者ともなれば金さえあれば手に入るらしい。にもかかわらず、この大きな依頼で求める報酬が馬と馬車というのは教皇様からしてみると不釣り合いに思えるそうだ。
しかし、俺たちは馬と馬車を求めている。しかもその求めている馬は俺とフィオを見てもビビらない馬だ。
要は軍馬だ。軍馬なら俺とフィオを見ても取り乱すことはないだろうし報酬としても申し分ない。なぜなら、軍馬は超高いから。お嬢から教えてもらったから知っているが軍馬は超高い。なにせこの時代の軍馬はほぼ兵器だからな。騎兵やらなんやらで軍馬は大人気だ。そんな軍馬を報酬として要求しているだからこちらとしてはなんの不満もない。
それでも教皇様が腑に落ちないようなら長い説明をしなげればならないが、渋々とはいえ納得してくれた。後は言いっこなしだ。
そうして、お嬢と教皇様は依頼の最終確認を終える。
「では依頼書は組合に出していただくかたちでお願いします」
「わかりました」
俺たちは席を立ち部屋を出て行こうとする。
呼ばれて来たとはいえ、かなり長い間教皇様の時間を奪ってしまった。本来なら少し話をして解散するはずだったのかもしれない。そこを俺がヒュドラのことを尋ねたばかりに伸びてしまった。また教皇様としてはこの依頼も話がその方向に向かわなければ頼むつもりはなかったはずだ。そういう考え方をする人だというのはこの短い時間で理解させられたからな。
しかし、まだ納得できていない人間がいたみたいだ。
「ちょっと待ってくれ」
そう言ってケラーデさんはいきなり俺たちを止めた。
「どうした?」
「……」
どうしたのかと思いケラーデさんに声をかけてみても反応はない。というよりは思わず咄嗟に声を出してしまったようだ。それでもケラーデさんはその行動に驚きを覚えつつも落ち着こうとしている。そして、次の言葉を発するべきかどうか葛藤していた。
その様子を教皇様も黙って見ている。
「君たちのどちらかだけでも」
「ケラーデ」
しかし、教皇様はケラーデさんが最後まで発言することを許さず遮った。
教皇様は穏やかな声色を変えることなくケラーデさんを静止した。だが、ケラーデさんの名を呼ぶその声ははっきりと力が込められていた。
ケラーデさんもその声に思わず発言を辞めてしまった。しかし、ケラーデさんを突き動かす何かは止まることを許さなかった。
「教皇様のお考えも理解しています。国の支えであるレックスがヒュドラを討伐できなければ強行派はますます勢いづくことでしょう。しかしっ」
「ヒュドラを討伐できなければ意味がないですもんね」
お嬢が引き継くと場は少し落ち着きを取り戻した。
やはりケラーデさんはヒュドラ討伐にも俺たちの力を借りたいらしい。一度は教皇様の考えに従い納得しようとしたが無理だったようだ。そして、俺たちが帰ってしまう直前に我慢の限界を迎えたんだろう。
とはいえ、もうちょっと早く言ってくれてもよかったんだぞ?
「しかし、皆様にこれ以上は……」
教皇様はまた気を使う。しかし、迷いはあるようだ。ケラーデさんの言い分もわかってはいるらしい。そして、俺たちへの申し訳なさがヒュドラ討伐への協力を邪魔しているんだろう。
「さっきの話だと俺たちは行けないな」
「そうだね」
教皇様の申し訳なさは主に俺とフィオに対するものだ。なので、俺たちはヒュドラに手を出し辛い。そこはケラーデさんもわかってはいる。だから、無理を承知でどちらかと言ったのだろう。
「私も行けませんね」
お嬢もヒュドラ討伐に協力できない。俺とフィオは教皇様の護衛につく。そうなるとお嬢もこちらだ。いくら従魔とはいえ主は近くにいないといけない。
「なら、僕ですかね?」
そうベクトルが周りを見て確認する。
「そうなるな」
「だね」
「そうね」
まぁ、他に選択肢がないからな。
「大丈夫なのですか?」
教皇様は俺たちがトントン拍子に話を進めることに心配みたいだな。
でも、そんな心配は必要ない。
「大丈夫だろ」
「たぶん大丈夫だよね」
「問題ないわよね?」
「全く問題ありません」
お嬢の質問にベクトルははっきりと言い切る。
「なにせ?」
「ベクトルは?」
「ディジーさんの未来の夫ですから」
「……」
はい、魔法の言葉いただきました。




