正式依頼
俺たちは教皇様からの護衛依頼を受けることになった。一応、お嬢が依頼書を書かなくていいのか聞いてみると組合には後で報告するとのことらしい。
流石は国家権力といったところか。口約束を正式な依頼として通すつもりらしい。これを聞いたサンセンタの組合長はどんな顔するのやら。
「それで俺たちはなにから教皇様を護ればいいんだ?」
「護衛って言うからには、そのあたりの情報は知っておきたいよね」
教皇様を護衛するのはわかった。しかし、なにから教皇様を護ればいいのかはまだわからない。流石にヒュドラから護ってくれとは言わないだろうが、別の魔物に狙われていると言われるかもしれない。もしくは、人間とかな。
まあなんにしても、心当たりはあるはずだ。そこんところサクッと教えてくれ。
「そうですね。一言で説明をするなら身内からですかね」
「身内?」
ご親族の方か?
そうなってくるとドロッとした依頼になりそうだぞ。なんかこう一昔前のお昼のドラマみたいな展開になったりするかもしれない。俺的にはあまり馴染みのないドラマだったから細かいことはわからないが、きっと作中には複雑な人間関係があったはず。そんな複雑な人間関係に教皇様も巻き込まれたのか?
「はい……同じ教国民からです」
「ややこしそうだね」
教国民ということからご親戚の線は薄くなったな。しかし、教皇様の表情は依然として暗い。これはまだまだドロドロしてそうだな。
「では、まず皆様にヒリングサッツ教国の現状について簡単な説明をさせていただきます。このヒリングサッツ教国はいくつかの教区に別れて成り立っています。そして、その教区が協力し合い教国を支えていました。しかし、情けのないことですが現在教国は大まかに三つの派閥に別れています」
「ほう」
「今の在り方を尊重する穏健派。より強い国にしようとする強行派。そのどちらでもない中立派の三つです」
「はあ」
「穏健派は今の平和を保ち教国民を護ることを第一に考えています。対して強行派は国力を増強して未知なる脅威から教国民を護るべきだと考えています」
「どっちも別に間違ってるとかはなさそうだな」
少し聞いた感じからするとどっちも大事だと思う。まぁ、素人の考えだからどうせ間違っているんだろうけどさ。
「はい。そして中立派はポルターさんのような考え方ですね」
なるほど。間違ってはいなかったが、よくいるどっちつかずの考えだったらしい。
「そして強行派は今の状況で勢いづいています」
「ヒュドラのせいですね」
強行派からしてみると、ほれみたことかって感じだろうな。きっと強行派の言い分は穏健派のような弱腰でいるからこんなことになるのだってとこだろう。そりゃ勢いもつく。
「更に私の身になにかあれば強行派の勢いは止まることはないでしょう」
「こんな状況なのに?」
「ええ」
理屈としては理解できる。ヒュドラに襲われるのも教皇様の身に何かあったのも全ては力不足だったから、という暴論が通るだろうからな。しかし、それを自作自演するのはやりすぎだ。ましてや教皇様に刃を向けるなんてあきらかに間違っている。
とはいえ、俺でもなんとなく護衛の意味が理解できてきた。
「強行派の理屈としては、この機に乗じて私を教皇の座から引きずり下ろすか亡き者にすれば国のためになるといったものでしょう。私の代わりは幾らでもいますからね。また、それを機に国力の増強を唄えば反発は少ないはずだと考えているのでしょうね」
「では、強行派からの刺客が送られて来ると考えてよろしいですね?」
「はい」
だから、身内なんだな。しかも相手は正義感を振りかざすタイプらしい。別に正義感を持つのは構わないが、それを大義名分にして暴れられてはいい迷惑だ。それに何が一番まずいって教皇様に手を出しちゃまずい。例え強行派の目論見通り国力の増強の方にことが進んだとしても、そのあとこの国は大混乱するに決まっている。
というか、まだヒュドラは解決してないんだぞ。どうするつもりなんだ。もしかして、総力戦で手早く済まそうとしてるんじゃないよな? そんなことしたら色々と終わるぞ?
「教皇様も大変だな」
「お見苦しい限りです」
そう言って、教皇様は苦々しい表情を浮かべる。
ヒュドラで手一杯だってのに派閥争いまで強いられるとか最悪だろうな。俺だったらすぐに投げ出している。まぁ、教皇様でも何でもないんだけど。
「今までもきっと刺客が送られていたんだよね?」
「そうですね」
「どれくらいだ?」
言われてみれば今回が初めてってわけじゃないよな。話に聞く強行派なら教皇様に何度か刺客を送っていてもおかしくない。
「どうでしたかね……」
「忘れちゃったの?」
「いえ、多すぎて」
「マジか」
そんなに送られてるのかよ……。




