負担
「うん? レックス?」
解決策がレックスってどういうことだ?
答えを教えてもらったはずなのに全く理解できない。
「レックスはヒュドラを撃退するので限界なんじゃないのか?」
「いえ、レックスがヒュドラを討伐することは可能です」
「でも……」
いや、できてないだろ。
確かに今日は無傷だったが、いつもはギリギリだと言っていた。だから、俺たちに焦って協力を求めて来たんだ。
それはお嬢だって知っているはずだ。それなのにどうしてレックスがヒュドラを討伐できるということになるんだよ。レックスがヒュドラを討伐できない以上それは解決策とは呼べない。
「本来なら可能という話ですよね」
「ああ、その通りだ……」
そうお嬢が確認するように尋ねると、ケラーデさんは悔しさを滲ませて肯定した。
そして、ケラーデさんは拳を強く握りしめて少しずつその言葉の意味を説明してくれた。
「レックスにはヒュドラを討伐するだけの実力は確かにある。そのことについては、レックスの剣の指導をしてきた私が保証する」
「しかし、彼は今その実力を出せていないんですね」
「ああ……」
なんだ? 体調不良か?
「昨日話した通りレックスはヒュドラが現れた時このサンセンタにはいなかった。そしてそのことをレックスは今だに深く悔やんでいるんだ……」
「でもそれはなにか事情があったんだろう?」
「ああ。私たちはヒュドラが現れた時サンセンタの周辺にすらいなかった。その時は丁度組合の依頼を受けていたからな」
「確か護衛の依頼を受けて南へ行っていたはずでしたね?」
「はい」
「それは、仕方ないだろう」
話を聞いた感じからして仕方ないとしか思えない。護衛の依頼を受けてサンセンタにいなかったのなら、どう頑張ったって駆けつけようがない。
それにレックスたちだって別に遊んでたわけじゃない。たとえ遊んでたとしても、こればかり正直どうしょうもない。ヒュドラがいつ現れるかなんて予想できるわけがないのだから。
「その通りです。私たちもそう考えています」
「それなら、レックスにそう伝えればいいんじゃない?」
そうだな。フィオの言う通りだ。間違った考えで悩んでいるのなら、その間違いを正してやればいい。こんな状況下で自分で気づいてほしいなんて悠長なことは言ってられないだろうからな。
「そうなのですが……」
「わかってはいるんだ。レックスも」
……わかってはいるのか。
そりゃ、そうだよな。わざわざ言われなくても、そんな簡単なことはわかるよな。だからこそ、悔やんでるんだろう。
負う必要のない責任だとわかってはいても無視できないのかもしれない。それがどんなに傲慢なことだとしても、事実なのだとしたら目の背けようがない。
なにせレックスが唯一の解決策なのだから。
「理屈じゃないのよ」
「そうみたいだな……」
これは体調不良なんて生やさしいもんじゃなかった。精神の不調が体にきている。
「今のところ被害は最小限に留められています。なので、今までヒュドラへの対策はレックスに一任していました」
「けど、それじゃあ保たないよな?」
「はい」
サンセンタという都市も保たないだろうが、おそらくレックスが先に限界を迎える。
正直よくもっているなと思う。精神的に限界まで追い詰められているのに、あのヒュドラと何度も戦ってるのだ。普通なら無理だろう。
にもかかわらずそんな無茶なことを続けていたら、確実にレックスの方が都市よりも早く限界を迎える。それこそ倒れるだけならまだマシだろう。最悪のパターンはレックスがヒュドラとの戦闘中に殺されることだ。そうなった場合、レックスという人命だけでなく、国民の残り僅かな余裕もなくなる。そして、唯一の解決策もなくなってしまう。
「そこで、今日の討伐が失敗した場合、レックスにある話をするつもりでした」
「なんの話だ?」
あまりいい話ではなさそうだ。
「総力戦です」
「それって」
総力戦ってことはつまり、レックスたち以外の人間も戦うってことだよな。
今まではレックスたちだけが戦うことによって、ヒュドラによる人的被害を最小限に留めていた。しかし、総力戦をするとなるとそうはいかないはずだ。被害は、あまり考えたくない。
「レックスは反対するだろうな」
「そうでしょうね」
総力戦をした場合、戦闘中でのレックスの負担は大幅に軽減されるだらう。しかし、そのぶん人的被害は甚大なものになる。今までレックスに向いていた攻撃が他の者に移り確実に命を奪うことになるのだから。
そして、おそらくレックスはそのことについても思い悩むことになるのだろう。昨日会ったばかりの俺ですらわかってしまう。長い時間を共に過ごしたであろうケラーデさんや教皇様なら、もはや考えるまでもないことだろう。
レックスの精神が完全に潰れてしまう。
「しかし、状況は変わった」
「……」
「君たちが現れた」
なんともまあタイミングの良いことで。




