問い掛け
「じゃあ、話はこんなもんか?」
もう結構話したからな。時計なんてないからはっきりしたことはわからないが、体感としては二時間ぐらい話していた気がする。
「そうですね。今回は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました」
「これくらいならお安い御用だよ」
そうだな。これくらいならあと三時間はいける。
それに最初こそ緊張して大変だったが、いざ話してみると全く問題なかった。話しやすさが半端じゃない。流石は教皇様といったところだ。
立場上機会は多くないんだろうけど、もしかしたら信者さんたちの話を聞く時もこんな感じなのかもしれないな。こちらこそ貴重な体験をさせてもらった。
「長い間話し込んじまったけど、教皇様ってことは仕事も沢山あるだろ?」
「ええ、国民の皆様の生活を護ることが私の仕事ですからね。あまりゆっくりもしていられません」
そりゃ、そうだよな。
具体的になにをしているかなんて想像もつかないが、きっと書類仕事とか沢山あるだろう。この辺は世界共通のことだと思う。下には下の苦労があって、上には上の苦労がある。たぶん。
それは教皇様も一緒のはずだ。だからこそ、今ここで聞いてみたいことがある。
「当たり前か。教皇様なんだから忙しいに決まってるよな。……なら、当然なにか考えはあるか。うん。この際だからはっきり聞くけど、ヒュドラはどうするつもりなんだ?」
部外者だから聞きにくいと思っていたが、やはりヒュドラのことは気になる。
別に教皇様のことを信頼してないわけじゃない。きっとなにか考えがあるんだろうなという期待を込めて聞いてみた。
「もちろん、早期解決を目指してはいます」
「だろうな」
「……しかし、結果はご覧の通りです。現状はヒュドラを撃退することで手一杯」
「レックスたちしか対処できてないもんな」
言い方から教皇様としても早急に解決したい問題ではあるらしい。しかし、結果は伴わず今の状況が続いている。
ずっと教皇様の側で控えていたケラーデさんも暗い顔だし、教皇様も不甲斐ないといった様子だ。
レックスたちはあんな感じだったが、きっと教皇様たち上層部は大丈夫なんだろうなと思っていた。だが、この感じだとそうでもなかったようだ。
「レックスたちに申し訳ないと思っています。教皇だなんだと言われていても、私にできることは限られています。私にできることといえば、命を懸けてヒュドラを撃退した彼らに安心して体を休める場所を提供することくらいですから」
「教皇様、我々にはそのお気持ちだけで十分です」
「ありがとうございます……」
ヒュドラと正面切って戦うレックスたちも大変そうだが、見送ることしかできない方も辛いんだろう。
なんというか、いつも鉄砲玉のように扱われる身としては正直よくわからない辛さだな。
「では、具体的な解決策はないということですか?」
「いえ、解決策はあります」
「なら、なぜその解決策を実行しないのですか?」
切り込むねぇお嬢。
でもまあ、確かに気になる。具体的な解決策があるにもかかわらず、それを実行してないんだから。もはや状況的に余裕はないはず。さっさと行動にうつすべきだろう。
「それは……」
「教皇様、お気遣いありがとうございます。しかし、ご遠慮なさらずはっきり仰ってください」
「……わかりました」
お気遣い? どういうことだ?
ヒュドラと戦ってるのはレックスたちとここにいるケラーデさんだ。だから、レックスたちのためにいち早く解決策を実行して楽にしてやることが気遣いだと思っていた。しかし、実際はその逆で解決策を実行しないことが気遣いになるらしい。
その解決策ってのはレックスたちを貶めるようなことなのか?
「解決策はあります。また既に実行にもうつっています」
「でも、解決してないよな?」
「はい」
もはや実行するしないの問題ではなかったのか。俺たちが勘違いしていただけで教皇様たちはもう動いていた。
でも、解決策を実行しているのに解決してないぞ。意味がわからない。
「じゃあ、効果が出るまで時間がかかるの?」
「いえ、そんなことはありません」
どういうことだ。もうわけがわからない。
解決策があって実行もしているのに解決に至っていないというのはあきらかに矛盾している。
「まさか……」
「ええ、そのまさかです」
どうやらお嬢はなにかに気づいたみたいだ。
俺にはさっぱりわからないが、教皇様の言い方からお嬢は正解に辿り着いたらしい。
「はっきり言ってくれよ」
「失礼しました」
別にクイズをしているわけじゃないんだから、流石にもうそろそろ教えてほしい。気になって仕方ない。
しかし、それでも教皇様は一瞬だけ躊躇し言葉を詰まらせた。それだけ言いにくいことなのか。とはいえ、いつまでも黙っているわけにもいかないと思ったのか一言謝罪を入れて答えを教えてくれた。
「解決策はレックス。彼自身です」




