昔
「いやぁ、悪い。初代さんがどこの出身の人か考えてた」
教皇様さんの話をほとんど無視して考え込んでしまった。
目の前の話し相手を無視して、一人思考の海へダイビングするとはなんたる失礼を。やはり人の話はしっかり聞くべきだな。うん。
「それでどこの人かわかったの?」
「いや、さっぱりわからなかった」
「そんなことだろうと思ったよ」
まぁ、そこまで真剣に考えてなかったからな。それに名前を聞いただけで出身地がわかれば世話ない。俺は名探偵でもなければ警察でもない。超絶一般的な頭脳の持ち主ですとも。ええ。
だから、そんなに呆れてくれるな。
「初代英雄様は黒髪に黒い瞳の青年と伝えられていますね」
「確かにカオルはそうだったね」
「ますますわからないな」
正直よくいる顔だ。日本だけじゃなく世界中にいると言っても過言ではない。
そんなありふれた特徴の人間を特定しようとは無謀なことをするもんだ。
なぁ? 過去の俺。
「かく言う俺も生前は同じだったしな」
「そうなのですか」
「今も真っ黒だからあんまり変わらないね」
「いや、変わるわ」
生前からこんな不定形の体してない。もっと中肉中背の人らしい姿してたわ。なんなら、最近お腹にお肉ついてきたなぁとか考えてたわ。
絶妙にみみっちいこと思い出させよって。
「フィオも生前は真っ白じゃなかっただろ? それとも生まれた時からそんな真っ白だったか? 違うだろう?」
「そうだけど」
下手ないじり方しやがって。
見ろ。教皇様もちょっと困ってるじゃねえか。
まぁ、困ってると同時に若干楽しそうなのが唯一の救いではあるが。
「因みにフィオはなんて伝えられてるんだ?」
「フィオ様は活発な方と伝えられていますね」
「後世に気を使わせたな」
「失礼な。みんなの中で一番明るかったってことだから良いの」
別に悪いとは言ってない。フィオのポジティブな性格に、なにひとつとして文句はない。むしろ見習うべき長所だと思う。
が、言い伝えるには少々威厳が足りなかったというだけ話だ。
だってそうだろう。活発な方って小学生の通知表みたいな伝えられ方してるんだぞ。三百年前のフィオはそこら中駆け回っていたのか? だったら、納得するけどさ。
「ポルター様もフィオ様に負けず劣らず活発な方ですね」
「主に口がね」
「口なんてないけどな」
「そうですね」
教皇様が楽しそうでなによりだよ。
まさか教皇様の前で漫才みたいなことをするとは思わなかったからな。お嬢とベクトルはいつものことだから慣れた様子だが、教皇様の後ろに控えているケラーデさんなんて『こいつら何言ってんの?』みたいな顔だ。これでスベっていたら目も当てられなかった。
「あと、今更だけど私たちに様はいらないよ」
「確かにな」
「よろしいのですか?」
よろしいもなにも。別にそんなに驚くほどのことじゃないだろ。
「俺たちは生前の記憶こそ待ってはいるが、正確には生後一年も経ってないゴーレムだからな」
「もう産まれたてほやほやだから」
人生のベテランで初心者という面倒くさい俺たちだ。
そんな俺たちに様なんて大層なものはつけなくていい。それこそ本当に産まれたてほやほやなんだから、くんとかちゃんでも構わない。
まぁ、実際呼ばれたら引くけど。
「そうですか。では、ポルターさんとフィオさんと呼ばせていただきますね」
「ああ」
「うん」
そうしてくれ。
真面目な話、俺はフィオと違って敬われるようなやつじゃない。なにか成し遂げたわけでもなければ、人間のためになにか力を尽くしたわけでもない。
俺がやったことは従魔になってお嬢の指示に大人しく従うようになったぐらいだ。俺はまだ良くも悪くも評価されるようなことはしていない。だから、様なんてつける必要はこれっぽっちもない。
とはいえ、ずっとそうであるつもりもない。俺の評価はこれからだ。俺がこれからの長い時間の中で評価されるようになったら、その時は様でもなんでもつけてくれ。ふんぞり返ってやるよ。
「もう少しお二人のお話を聞かせていただいても、よろしいですか?」
「もちのろん」
そうして、俺たちはしばらく他愛ない話を続けることにした。
俺とフィオがどうやって出会ったか、どうして従魔になることを選んだのか。廃館での出来事やお嬢との出会い。俺たちの正体やベクトルとの癖の強い顔合わせ。サンドの組合長との愉快な会話。そして、廃館の地下にいた元凶との邂逅と処分。
話すことなど幾らでもあった。教皇様も興味深そうに話を聞いてくれるので、俺たちは少しの間時間を忘れて話し込んでしまうことになった。
尚、ほとんどの話を俺がしていたことはご愛嬌といったところだ。




