価値観の違い
男は尚も楽しそうに話しかけてくる。
「しかし、外にはヒュドラで中にはあんたらか」
「……刺激的で悪いな」
何だこいつ、距離感バグってるのか?
初対面する話し方じゃないだろ。
「別に責めてるわけじゃねえよ。ちょっとばかし驚いただけだ」
「そうか」
なら、いいんだけどさ。
まぁ、驚くのは無理もない。その点に関してはこっちも多少は悪いと思っているからな。
にしても、なんだかよくわからないがえらく友好的だな。もう少し俺たちを警戒してもいいと思うんですがね。
逆にこっちが警戒してしまう。
改めてよく見ると男は白髪で少し肌が黒い。また服装も特徴的だ。基本装備は一般的な革鎧だが、その下が砂色の衣服で統一されている。また連れの子供も同じようなものだ。ただし、子供の方は髪がくすんだ金色なので全身砂色に見える。そして、顔立ちは中性的で男の子か女の子か一目見ただけではよくわからない。男の方は強面でわかりやすいんだけどな。
しかし、整理するとすげえ目立つ見た目してるな。
「従魔ってことは魔物なんだよな?」
「一応な」
本当に一応な。
こんな亡霊のような見た目ではあるが正確にはゴーレムらしいし。フィオもほとんど人間だがしっかりゴーレムだ。
ゴーレムを魔物に入れていいのか最初は気になったが、お嬢に『魔物じゃないと従魔として扱われない』と聞いたのでそれ以降考えてない。
俺たちの旅の目的を揺るがすからな。
「興味本位の質問なんだが、同じ魔物としてヒュドラはどう見えるんだ?」
この強面はさっきからなにが聞きたいんだ?
ヒュドラがどう見えるか聞いてどうするんだよ。興味本位だとしても、もうちょっと面白みのあることを聞けばいいのによぉ。
「どうって言われてもな」
「倒すのは大変そうだね、とか?」
「へえ、大したことないって感じだな」
まぁ、こっちは死なないからな。
流石に初対面のこいつに俺たちが不死身であるとかは教えない。プライベートなことだからな。それにわざわざ自分から言うことでもない。
大したことないかどうかはあながち間違いではないが、自慢してるみたいだから言わない。トカゲに勝てるからと言って嬉しくもなんともないからな。
「俺は物騒だから早くいなくなればいいな、とは思ってる」
「そうだね」
「なるほどなぁ」
実際、早く始末しようとしているしな。だから、こうやって道具を見に来ているわけだし。
とはいえ、ここでそれを言うつもりはない。倒せるならと気軽にあっちこっちから依頼されたら困ったことになる。あいにくと先約があるもんでね。
「俺は物騒なのも嫌いじゃないんだけどな」
「あっそう」
ヤバい人かな?
何気なく商品を物色しながら物騒なこと言ってるよ。
普通に怖いんだけど。
「俺たちみたいな傭兵は物騒じゃなきゃ仕事にありつけないからな」
「へえ」
なるほど、傭兵なのか。
傭兵とは初めて会ったからなんとも言えない。しかし、そういうことならさっきの発言も理解はできる。共感はできないけど。
「まぁ、それはあんたら冒険者も一緒か」
「どうだろうな」
一緒にされても困る。
俺たちはヒュドラを討伐しようとしてるんだ。この町の有り様を長引かせる気はない。
あとしれっと冒険者だと特定された。別に間違ってないし隠してないが気持ち悪いな。
というか、さっきから俺しか相手してないぞ。
お嬢は背を向けて商品を物色し続けてるし、ベクトルもそれに合わせて背を向けている。フィオに関してはもっとたちが悪い。ニコニコ顔で話を聞いてるくせに返事をする気が全くないらしい。話しかけられる度に俺を見て会話の主導権を押し付けてくる。
誰か代わってくれませんかねぇ。面倒だから嫌なのはよくわかるが、一人に押し付けるのはよくないぞぉ。
「だから、ここの住人には悪いがもう少しこの物騒な感じが続いてほしいと思ってる」
「さいですか」
よくもまあそんなことが言えるもんだ。
全く共感できないし、ここで揉めても仕方ないから黙っておくが。
別にこの強面と仲良くなろうなんて、少したりとも思わないから余計に面倒臭くなってきた。
「あんたはそう思わねえか?」
どういうパスだよ。さっき早くいなくなればいいと思うって言ったよな?
「思わねえな」
「そうか、それは残念だ」
はいはい、そういう考えの人間もいるわな。
勝手にしてくれ。
「しかし、あんたも子供を連れてるなら、物騒なのはできるだけ避けた方がいいんじゃないか?」
そのことはさっきから地味に気になっていた。
お前たちがどういう関係かは知らないが、あまり子供に聞かせるような話とも思えないからな。
「うん? ああ、こいつのことか」
「他にいないだろ」
「確かにな。けど、それは俺が決めることじゃねえ。こいつが決めることだ」
「まぁ、そうだな」
急にまともなことを言いよって。調子が狂う。
「で、お前はどう思うんだよ?」
「……どっちでもいい」
「だそうだ」
「そうですか」
聞かれた子供の方は面倒臭そうにそう言い捨てた。
そして、男もそう答えるとわかっていたようで肩をすくめるだけだった。
俺も面倒臭くなってきた……。




