客
俺たちが目をつけた店は店内に木製の台を並べ、その上に商品を陳列していた。なので、店内の見晴らしもよく外からでも多くの商品が確認できた。
とはいえ、ここからではどれが掘り出し物なのかは全くわからない。
ほとんどゴミに見えるんだが……。
「店主の方はいますか?」
「えっ、あ、はい……」
そう言って店から出て来た店主は俺とフィオを見て固まってしまった。かろうじてお嬢の問いかけに返事をしてていたが、最後の方の声などほぼ聞こえていない。
一瞬で顔が真っ青になったぞ。大丈夫か?
「私たちは冒険者で彼らは私の従魔です。危険はありません。なので、入ってもいいですか? それとも外で待たせましょうか?」
「ちゃんと名札もあるよ?」
「あと話も通じる」
お嬢の説明にフィオが続けて説明をする。そして、俺が会話ができることを付け加えて説明した。これで俺たちに危険はないことを証明したつもりだが、どう受け取るかは店主次第だ。
店主はかなり驚いたのか今だに固まっている。
しかし、鯉のようにに口をパクパクさせているので、返事をする気はあるらしい。
まぁ、落ち着け。説明の通り安全だ。別にとって食ったりしやしない。
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
「お邪魔しまーす」
「まーす」
どうにか声を絞り出した店主は俺たちを客として認めてくれたようだ。優しい人で良かったよ。
ずっと冷や汗をかいているので心配には変わらないが、返事ができるくらいまでには回復したみたいだ。
とはいえ、店主としては追い返すこともできた。それに入店を拒み外で待たせることもできた。にもかかわらず、俺とフィオの入店を許可してくれた。
心の器が大きいね。まぁ、単にビビってるだけかもしれないが。
「うろうろしないでよ」
「もちのろん」
そうして俺たちは店内に入った。外から見た通りやはり店内は見晴らしがいい。理由は棚ではなく大きめの台に道具が雑多に並べられているからだろう。もしかするとこれは万引き防止のためなのかもしれない。
俺としてはそのおかげで安心して過ごすことができる。視界が限られると不意に人とぶつかって怪我をさせてしまうかもしれないからな。この見晴らしの良さならそれもなさそうだ。
「いろいろあるな」
「そうですね」
俺たちはお嬢を先頭に店の奥へ少しづつ進んで行く。そして、各々で商品の道具を物色しながらゆっくり移動する。もちろん、俺は触れられないが見ることはできる。まぁ、何が何なのかさっぱりわからないので触れられても意味がないので一緒なのだが。
因みに道具は道具でも魔力を使って動かす物と物理的な仕掛けのみで動かす物があるらしい。しかし、それらに明確な区別はなく全てまとめて道具と呼ぶらしい。
別ければいいのにな。
「これってなにかな?」
そう言ってフィオは一つの道具を手にとった。
その道具はフィオの手の中に収まる大きさで幾何学的な彫りこみが施された物だった。しかし、それ以外の特徴はなく特別目を引くような物ではない。
「そ、それは風を発生させる道具です」
「風?」
「はい、魔力を注ぎ込むと風が発生するそうです」
フィオの質問に店主は恐る恐る答えてくれた。
しかし、その説明では正直よくわからない。魔力を注ぎ込むと風を発生するというが、全くイメージができない。この野球ボールのような物が扇風機の代わりになるということか?
「試すことは可能ですか?」
「そ、それは困ります。店内が荒れてしまうので」
「なるほど、わかりました」
店内が荒れる程の風って凄いな。
扇風機どころの話じゃなかった。というか、あんな変哲もない物がそんな強風を生み出すのか。相変わらず、全く想像できないが俺が思っていた以上に道具という物は凄い物らしい。
これならなにかしらヒュドラに効果的な物があるかもしれない。
「入ってもいいか?」
「あっ、はい!」
どうやら普通の客が来たみたいだ。
そして、そのことに気づいた店主は勢い良く返事をした。俺たちの相手をするより気楽なのはわかるが、態度が分り易すぎる。まるで救世主が現れたかのような顔だった。
でも、普通とはいえその客だいぶ強面の男だぞ。感覚麻痺してないか?
それに装いから荒事を生業としていることがわかる。もしかすると同業者かも。
しかし、その客は珍しいことに子供を連れていた。子供の装いも男と似たようなものなので、連れであることはひと目でわかる。
「なあ、あんた」
「……なんですか?」
「そいつ等はなんだ?」
しかも意外なことにその男は俺たちに話しかけてきた。
まぁ、質問の内容から警戒していることはわかる。想定内といえば想定内だ。
だから、答え方も心得ている。
「私の従魔です」
「従魔でーす」
「でーす」
これで俺たちがお嬢の制御下にあることと話せることが伝わるはず。
「そりゃ凄えな」
「……」
するとこれまた意外なことに男はニヤリと笑ったのだ。今まで従魔だと聞いて安心や納得する人間は数多くいた。しかし、そのどれとも違った顔だ。
いや、どいつもこいつも受け入れ態勢が抜群だな。




