違和感
俺とフィオによるくだらなくも長い冗談を処理したお嬢は町の中心から遠ざかって行く。
先程までは武器屋や防具屋などが多くみられたが今は違う。荒事を生業とする客をメインターゲットとした商業区を抜けていた。既に鉄臭い雰囲気はなく様々な商品を販売する商店街のような場所に来ていた。とはいえ、今いるここが綺麗という訳でもなくガラクタを売っている店が多いような気がする。
こんな所になんの用があるのだろう。
主な用事は終わったはずなので、今どこへ向かってるかがわからない。
あとこの辺りはなんとなく微妙に人間が少ない気もするな。そういうエリアなら仕方ないが、妙な違和感が残る。
「なんというか、首都の割には……」
「寂しい感じだね」
そうだな。フィオの言う通りだ。
寂しいという表現がしっくりくる。
ベクトルから聞いてた町の印象とも随分違う気がする。もっと観光地っぽいところだと聞いていたから良いイメージだったんだが。
「確かにそうですね」
「仕方ないわよ」
まぁ、なんとなく察することはできる。
大方ヒュドラのせいだろう。町の中は安全とはいえヒュドラがすぐそばいるわけだからな。安全だとわかっていても安心できるとは限らない。
「ヒュドラの影響がもろに出てるな」
「そうだね」
人間はちらほら見かけるが全員顔が暗い。
それにいつもよりジロジロ見られる感じがしない。
「鬱陶しい視線がないのはいいが」
「こういうのはなんか違うよねぇ」
見られたいという願望はないが、全く見られないというのも変な気分だ。
こんなに目立つやつが二体もいるのに見向きされしない。見て見ぬふりをする人間はここに来るまでの町でも何人かいたがその様子もない。まさに眼中にないといった様子だ。
「きっと周りを見る余裕もないのよ」
「諦めとは少し違うでしょうけど、不安は大きいでしょうね」
英雄のレックスたちが何度も戦ってるにもかかわらず、解決してないんだもんな。
「そりゃ不安にもなるか」
「自分ではどうしようもないもんね」
外にはヒュドラがいるのでサンセンタに見切りをつけて逃げ出すこともできない。それに英雄も頑張って戦ってくれてはいるが、結果はご覧の有り様。かと言って、自分でヒュドラをどうにかするなどできるはずもない。
少なくとも俺がここの住人だったらそう考える。
「これでもよく保ってる方だと思うわ」
「そうですね。人は不安や焦りにとらわれると、なにをしでかすかわかりませんからね」
そうだな。
ぱっと見はそれほど町に違和感はない。俺も落ち着いて町を見て初めて気づいたくらいだ。
そう思うとまだいい方なんだろう。
「人通りが少ないだけで治安の悪化はみられませんし」
「そうね」
聞いたことを整理していくと暴動とか起きていてもおかしくはない状況なのにな。それどころか喧嘩の一つも見ていない。これはかなり治安が良いと言える。
今まで寄った町では大したことのない理由で起きた喧嘩をちらほら見た。別にそれで治安が悪いとまでは言わないが、それくらいのトラブルはあったしそういうものだとお嬢に教わった。なのにこのサンセンタではそれすらない。この状況なのにだ。
簡単に思いつく理由は宗教だ。心の拠り所があるのとないのとでは違う。共にこの苦難に抗っていると思えば、多少は持ち堪えることも可能だろう。そういう宗教の一面が関係してるのかもしれない。
まぁ、ただの想像なんだが。
「とはいえ、いつまで保つか」
「昨日の話もそうですが、あまり余裕はないでしょうね」
「ええ」
これで食べ物までなくなったら絶対に保たないだろうな。
いくら宗教で一丸となっていても心に余裕がなくなれば一瞬で折れる。それに食糧の危機は生命に直結する。精神論でどうにかなる次元の問題じゃない。
少なくとも俺は一番先に心が折れる自信がある。そう考えるとこの体で良かったと思えなくもない。
「なんとかしないとね」
「ええ」
「そのためにも準備はしっかりしないとな」
「もちろんです」
今になってようやくレックスたちの心境が少しだけ理解できた気がする。
これは見切り発車もしたくなるし暴走もしてしまう。昨日の話し合いをはああなって当然だったんだろう。俺たちは今更この町の現状を知って重く受け止めているが、レックスたちはとうの昔にこの現実を突きつけられていたのだ。
……知ってしまったなら、後には引けない。
なんとしてもヒュドラを仕留めなければならない。さっきまでみたいな消極的なやる気ではなく、積極的なやる気が漲ってくる、ような気がする。
「因みにお嬢は作戦とかあるのか?」
「特にない」
ないのかよ……。
しかし、そのはっきりした返答にはなにかありそうだな。
「作戦もないのに自信ありげだな?」
「負ける要素がないもの」
「……流石だな」
「ね」
「全くです」
それだけ聞ければ満足か。
フィオもベクトルもやる気は十分そうだし俺もばっちりだ。後はトカゲを仕留めるだけだ。さっさと済ませよう。
……それはそうと、俺たちはどこへ向かっているんだ?




