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「報酬ですって?」

「ええ」


 どういうわけかお嬢の質問にレックスではなく、エンリちゃんが反応した。


 そして、エンリちゃんの顔は少しずつ怒りに染まり目つきも鋭くなっていく。


「この緊急事態にお金の話ですか!」

「別にお金じゃなくてもいいけれど」


 何故かエンリちゃんはお怒りらしい。


 あと別にお金に限定した話じゃない。大切な報酬の話だ。


 まだレックスとも報酬の話はしていなかったからな。今から詳しい内容を聞いて話を詰めるのも悪くないだろう。


 それなのにエンリちゃんはあの様子で報酬の話をするなと言う。


 やはりお金の話は大切だと思うけどな。今回のヒュドラの討伐なんてなかなかに危険な仕事だ。そうなると自ずと報酬も上がる。


 仮に今回の報酬がお金だった場合かなりの額になるはずだ。冒険者組合に危険手当なんてないと思うが、前世なら貰っていてもおかしくないレベルだと思う。


 そう考えると別にお嬢はおかしなことは言ってない。


「貴方たちに人の心がないのですか?!」

「いや、協力はするって」

「だったらっ!」


 え? まさかね。


 流石にそれはないよな。うん。あり得ない。


「なに? 報酬なしで協力しろって?」

「……」


 いやいや、レックスよ。


 頭を抱えてないでお前の妹どうにかしろよ。なにかとんでもないこと言おうとしてるぞ。止めた方がいいと思う。


「そうです。そもそもそこの魔物がいれば貴方たちに危険はないはずです。それなのに報酬を寄越せなんて図々しいにも程があります!」


 言ったよ。それもはっきりと。


 お前たちに払う金はないって。しかもだいぶ扱い悪い。


 それになんかあの言い方だと俺とフィオだけでヒュドラに突撃するみたいに聞こえる。丸投げする気なのか?


 どういうつもりなんだ。頭に血が上っているからと言って、何でも言っていいわけじゃないぞ。


「流石に失礼よ。謝って」

「なぜ私が貴方に」

「私じゃなくて私の従魔たちに」


 エンリちゃんはお嬢にそう言われてようやくこちらを見た。まるで言われるまで存在を忘れていたかのような反応だ。


 しかし、改めて俺たちを認識したからと言って考えを変える様子はないみたいだ。不機嫌そうな顔でこちらを見るだけ。謝る気なんて全くないだろうな。


 流石にここまでくると腹が立つ。


「別に俺たちはお嬢にこき使われるのは構わない。そういう約束だからな。けど、今日会ったばかりの人間に特攻して来いなんて言われる筋合いねーよ」

「きっといつもはそんなんじゃないんでしょう? 落ち着きなよ。じゃないと怒るよ」


 俺とフィオは確かに従魔だ。だから、主人に使われるぶんには全く問題ない。それこそヒュドラと遭遇した時のように囮にされたって構わない。なにせそういう約束だからな。それに信頼関係があってやっていることだ。お嬢は俺たちを無碍には扱わないと信頼しているから従っている。


 だというのに今日会ったばかりの人間にああしろこうしろと言われる筋合いなどあってたまるものか。ましてや魔物だからなのかなんなのか知らないが、お前たちだけでヒュドラと戦ってこいとまで言われている。いくらなんでも失礼がすぎる。


 フィオも穏やかな表情ではあるが、内心は穏やかではないんだろうな。実際そんなことも言ってたし。


 お嬢とベクトルも嬉しいことに憤りを覚えてくれているみたいだ。


 しかし、これは話し合いどころじゃないな。空気が最悪だ。


 実際フィオの言う通りなんだろう。現状に焦って正常な判断ができない気がする。


「君たちの言う通りだ。今のは妹が悪い。すまなかった」

「お兄様っ」


 レックスは心底申し訳無さそうに頭を下げる。


 しかし、エンリちゃんは今だに腹の虫が収まってないらしい。頭を下げる必要がどこにあるのか理解できないみたいだ。


「エンリ」

「…………失礼しました」


 レックスがエンリちゃんの名を責めるように呼ぶ。


 するとエンリちゃんは渋々ながらも俺たちに謝罪した。


 もの凄い嫌そうだけど。


「まぁ、俺たちも本気で怒ってるわけじゃないから」

「余裕がないのはよくわかったし」


 腹は立ったが激怒しているわけじゃないからな。


 どっからどう見てもエンリちゃんの暴走だ。それに対してこれ以上言及しても意味がないのは俺でもわかる。


 レックスたちは余程ピリピリしてるんだろう。


「その様子だと正式な依頼書もまだなさそうね」

「その通りだよ。全く不甲斐ない……」


 その様子だと見切り発車っぽいな。


 ケラーデさんとも情報共有できてないし、エンリちゃんも暴走しているしで大変だ。


「お互いに落ち着いてから、もう一度話しましょう」

「その方が良さそうだね」


 いや、本当に。


 今回はただ揉めただけだからな。お互いに温かいものでも食べて寝よう。


「それに私たちはまだここに着いたばかりなの。少しくらい休ませてほしいわ」

「その通りだね。本当にすまない」


 しっかり嫌味を言うなぁ。


 お嬢は相当ご立腹なのかもしれない。ヒュドラに襲われるだけじゃなく、理不尽に批難されたわけだからな。それも休みなしで。


「おそらくヒュドラも私の従魔たちを警戒してしばらくは姿を見せないはず。だから、その間に話をまとめましょう」

「わかった」

「じゃあ、また」


 そうして俺たちは部屋を出た。


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