騒動の発端
「いきなりで悪いね」
「いえ」
俺たちはレックスに連れられて組合の奥に通された。しばらく組合の廊下を進むと会議室のような部屋にたどり着いた。
そして、部屋に入るとそこには既にルーフェちゃんやエンリちゃんやケラーデさんもいた。どうやら他愛ない雑談をするために呼ばれたようではないと悟った俺たちはレックスに勧められるがままに席についた。
なんか抜き打ちの面談みたいだ。
「まずは改めて自己紹介をするべきだね。俺はレックス。君たちと同じ二級冒険者だ」
「私はルーフェと申します。この国の聖女をしています」
「私はケラーデだ。聖女様の護衛を任されている。改めてよろしく」
「私はレックスお兄様の妹のエンリです」
いや、聖女ってなんだ?
もちろん、ファンタジーには聖女はつきものだが、実際に目の前に現れるとどう解釈すればいいかわからない。
なにか特別な立場の人間ということくらいしか……。
「聖女とは傷を癒やすことに特化した魔術師のことだと思っておけば問題ないかと」
「そうか、助かる」
ベクトルのわかりやすい説明で大体理解できた。ゲームで言うところの回復役だと思えばいいか。
そりゃ、現実的なことを言えば医師や衛生兵のような立場なのかもしれない。けど、ケラーデさんという護衛までついているなら、聖女というのは予想通り特別なものなんだろう。それこそファンタジー要素強めの。
これで一つ疑問がなくなった。良かった良かった。
あと、エンリちゃんがお兄様って言ってたのも気になるが今は我慢。
「改めて、二級冒険者のディジーです」
「同じく二級冒険者のベクトルです」
「以下略です」
「ですです」
今日は何度も名乗ってるからもう別にいいよな。
流石にお互い飽きる。
「今は俺もただの冒険者だから敬語はいらないよ」
「……そう」
レックスがそう言うとお嬢もすぐにいつもの口調に戻した。これでお嬢も話しやすそうになったな。
しかし、そういう人に限って後で怒る場合ってあるよな。レックスは大丈夫そうだからいいんだけどさ。あれは卑怯だと思う。
お嬢は気を抜くと加速度的に口が悪くなるから少し心配なんだよな。
「それで話ってなに?」
「ヒュドラのことさ」
「それはわかってる」
口の悪さとせっかちが出てないか?
まだ口の悪ささんの出番は早いと思います。まだ楽屋でゆっくりしていてください。なんなら帰ってくれても構いませんよ。
だってレックスがちょっとびっくりしているもん。敬語じゃなくてもいいと言ってすぐこれだからなぁ。
「そうか。なら、被害の話をしよう」
「それもわかってる」
そうだな。お嬢の言う通りだ。
でも、もうちょっと言い方柔らかくならないか?
レックスのペースで話してるんだから急かすな。
「ケラーデさんから大体の話は聞いたわ」
「そうなのか?」
「ああ。さっき経緯と現在の状況の話をな」
「そうか」
しかし、聞いてないのか。
アポなしだったからレックスたちも情報共有がまだできてないのかもしれない。
報連相は大切だぞ?
「…………」
「さっさと言ってよ」
余すことなくせっかち出てるな。
でもまあ、今のはレックスも変にためたからな。急かされても仕方ない。
「ちょっと!」
「いや、ディジーさんの方が正しい。俺が迷っているのがいけないんだ」
わかってるなら、レックスも早く言ってくれ。
なんかエンリちゃんがキレだしたじゃねえか。
うちのお嬢が火をつけた感じだが、話が進まないことにはどうにもならない。
「あのヒュドラが現れて沢山の犠牲者が出たのは聞いていると思う」
「まあね」
「しかし、なんの成果も出ていないんだ」
「はあ」
まぁ、まだ外でヒュドラは元気してたしな。
「俺の友人たちもヒュドラを討伐するために懸命に戦った。けど、敵わなかった」
「そう」
ヒュドラは再生持ちだからそう簡単には倒せない。あとシンプルにデカいのも厄介なところだ。
「幸い命こそ落としていないが、被害はかなりのものになった」
「でしょうね」
でも、死人が出なくてなによりだな。
友人たちって言ってたし尚更死人が出なくてよかったと思う。
「かと言って、俺たちだけでは撃退がやっと」
「聞いたわ」
それもケラーデさん曰く満身創痍の撃退がやっとって話だった。だから、さっきの撃退時は俺とフィオ以外は戸惑っていたんだろう。
しかし、この話の流れはあまり嬉しくないな。
流石にこの後になにを言われるかは俺でも簡単に想像できる。それにレックスがさっき言い淀んでいた理由も今ならなんとなくわかる。わかるからこそ言ってほしくない。聞けばどっちを選んでも後悔しそうだから。
とはいえ、レックスはもう言う気満々だ。おそらく止まらない。凄い真面目な顔でお嬢を見つめているし。
これは言うな。言っちゃうな。
「だから、どうか助けてほしい」
「つまり?」
「ヒュドラの討伐に協力してほしい」
ほら、言うと思った。




