情報収集
「とりあえず到着したわけだが……」
「大変なことになってるね」
「そうね」
目的地のサンセンタに到着したのはいいが、いざ着いてみると大変なことになっていた。
「まさかヒュドラがいるとは思いませんでしたね」
「ええ」
全くだ。自分たちの目的地の前でヒュドラがお出迎えしてくれているなんて、どうやっても予想できないからな。
観光地の前でライオンの放し飼いをしてるようなもんだ。考えられない。
それにいつもはバイス塩湖ってところにいるらしいじゃねえか。
たとえ、ヒュドラの存在を知っていても普通はそっちを警戒する。こんなのは初見殺しだ。
というか、俺たちを追い抜いて行った旅人たちはどうなったんだ?
もれなく全員食われたのか?
レックスたちが助けられるのも城門の周辺に限られるはずだ。なら、目の届かないところでヒュドラに襲われようものならひとたまりもない。
今思えばサンセンタに近づくにつれて、すれ違う人間は殆どいなくなっていった。きっとヒュドラのせいで街道が実質通行止めになっていたからだろう。そのせいでヒュドラの情報も入ってこなかったに違いない。
噂くらいは聞きそうなもんだが、俺たちみたいな不気味な集団に好きこのんで噂を教えてくれるやつはいなかった。
全くもってついてない。
「これからどうするよ?」
「さっさと出発するにしても、出発してすぐに運悪くヒュドラと遭遇なんてのは嫌だもんね」
「そうですね」
俺たちが入った北門にだけヒュドラがいるとは限らないからな。別の城門から出発してばったり遭遇する確率は十分にある。
まぁ、俺たちなら死にはしないだろう。しかし、そんなリスクを取る必要もない。できることなら安心して出発したい。
「とにかく、組合に行って宿を確保しましょう」
「はい」
「それからゆっくり考えればいいわ」
「「はーい」」
急いでも仕方ないか。
中にいるぶんには安全なんだから、ゆっくり考えればいい。
これが怪獣映画とかなら城壁をぶち破って襲撃してそうだが、あいにくヒュドラは怪獣映画の主役じゃない。パステルカラーの怪獣は主役になれない。ファンシーがすぎる。少なくとも俺はそう思うし、そうであってほしい。
「でも、その前に」
「どうしたの?」
お嬢は組合へ向かおうとしていた俺たちを静止する。そして、今だに城門のそばから離れようとしない。
検問もさっきケラーデさんにしてもらった。だから、もう行っていいと思うんだが。
「フィオは荷物を取って来て」
完全に忘れてた……。
「置きっぱなしだったな」
「ええ」
ヒュドラとのごたごたで頭から抜け落ちてた。頭ないけど。
あの時は仕方なくあそこに置いてきたが、中身は結構詰まっている。流石に捨てるなんてのはあり得ない。
それに早く取りに行かないと盗まれる可能性もなくはない。今はヒュドラを撃退した直後だからこの辺りも多少は安全だ。盗むなら今だろう。
「じゃあ、行ってくるけど待っててね」
「もちろんです」
いや、流石のお嬢も待つだろ。
自分たちの荷物を取りに行っているのに無視して先に進むなんてことはしないはず。そこまで非道じゃない。
けど、返事をしたのがベクトルだけなのは気になるな……。
もしかしたらフィオが釘を差してなかったら先に行ってたかも。
まぁ、あくまでかもしれないってだけだが。
「じゃあ、行ってきまーす」
「いってらー」
そう言って、フィオは城門の兵士たちを掻い潜って荷物を取りに行った。
◆◆◆
ひとまず荷物を無事に回収して、俺たちはサンセンタの冒険者組合へ向かっていた。
あまりの荷物の大きさに一度止められ改めて検問を受けるというハプニングがあった。しかし、気にしてはいけない。ヒュドラに比べれはなんのなんの。
そして、そんなことを振り返っていると大きな建物が見えてきた。
もうあからさまに冒険者組合の建物だとわかる。俺もようやく見慣れてきたというのもあるが雰囲気からゴツいからな。
「しかし、立派だな」
「そうだね」
ゴツいだなんだと勝手な評価をしていたが、サンセンタの冒険者組合は文句なしに立派だ。
煉瓦造りで見た目もかなり凝ってる。ちょっとした城に見えなくもない。
まぁ、首都の建物なんだから見た目も大切なんだろうな。景観を損なわないようにしているのかも。
「ただ大きいだけよ」
「首都ですからね」
「なるほど、そういうもんか」
「そっか」
今まで見てきた組合の建物がショボかったのか。
確かに言ってはなんだがどこも田舎だったしな。冒険者組合というよりは休憩所といった方が適切な場所もあった。もちろん、普通に冒険者組合っぽいところもあったが多くはなかった。
そう考えるとサンセンタの冒険者組合は普通なのかもしれない。
「さっさと行くわよ」
「はいはい」
「中も気になるね」
入る前から目つきの悪い人間が沢山いる。
確認するまでもないが大体冒険者だろう。しっかり武器も携帯しているし防具もつけている。真っ昼間から組合の前でうろうろしている理由は知らない。暇なのかね。
そうして、そんな人間たちを軽く無視して俺たちは冒険者組合へ入って行った。




