異変
「あれがサンセンタか」
「綺麗だねぇ」
首都サンセンタは美しい都市だ。まず城壁の色が白い。おそらくただの石ではないのだろう。また、青い屋根柄のようなものが要所要所に使われていて良いアクセントになっている。外観だけで満足してしまいそうになるくらいには見応えがある。
そして、一番目立つのは首都の中央に見える建物だ。空を突き刺すように建っているそれは城というよりは宗教関係の建物に見える。
上の方に鐘とかぶら下がっているし、装飾というか彫刻がいたるところに見えるからだ。なんと言うか芸術作品のような印象を受ける。
しかし、綺麗だ。世界遺産レベルだ。
「ベクトルの言う通りだな」
「大っきいもんね」
「そう、ですね」
「……」
大っきくて綺麗だ。うん。
流石は首都だな。外から見ただけで栄えていることがすぐにわかる。
きっと中は俺の興味を引くものが沢山あるんだろうな。
「名物とかあるのか?」
「あったと思いますが、今は思いつかないですね。すみません」
「別に謝らなくてもいいって」
「行けばわかるもんね」
「全くだ」
「……」
フィオの言う通りだ。別に謝らなくても行けばすぐにわかる。
それに名物以外のことは前もって聞いている。確かサンルーブ教とかいう宗教が国教だそうで太陽を崇拝しているらしい。それで教義は生きてるものは全て平等ということ。だから、従魔にもそこまであたりはキツくないとか。
それを初めて聞いた時は少し驚いた。
人間の考えることはどの世界でも似てくるみたいだ。サンルーブ教の教義は俺が生前に抱いていた宗教に対するイメージにそっくりだからな。
まぁ、だからどうってわけでもないが。
それがヒリングサッツ教国の首都サンセンタについて前もって教えてもらったこと。
………………。
「しかし、どうするよ」
「現実逃避はもういいの?」
「ああ」
正直もう無理だ。
サンセンタの美しさに目を向けて、見たくないものを見ないようにしていたが限界だ。
現実は変わらない。
「動いてくれる様子もないしね」
「そうですね」
サンセンタの城門の前に見たくないもの、つまりデカい魔物がいる。
超デカい。少なくともゾウよりはデカい。
流石にキリンほどの高さはないが、遠目から見ても大きさは十分にわかる。
それに大きさ以外にも気になるところがある。
「あのヤマタノオロチみたいなのはなんだ?」
「実物は初めて見たけど、おそらくヒュドラね」
「ヒュドラってドラゴンだっけ?」
「いえ、確か違ったはずです」
「なら、あの見た目でトカゲの仲間なのか?」
「たぶんね」
頭が沢山あるおかげでなんとなくわかっていたけどね。
ヒュドラだってさ。初めて見た。そして、見たくなかった。
四本の太い足に長い尻尾があり、なんと頭は十個もある。多くない?
更には全身水色の鱗に覆われている。
まさかのパステルカラーだよ。自然界のファッションスター気取りか? 別にお前にその役割求めてねえよ。しかもあの見た目でトカゲってどういうことですかね? ちょっとトカゲに謝ってもらえますか?
「これは城壁にそって迂回するしかないわね」
「そうですね」
そう言ってお嬢とベクトルは進行方向を曲げてゆっくりと先に進む。
幸いなことにヒュドラとの距離は結構ある。今から迂回すればそうそう見つかることはないはずだ。
「真反対に迂回するのか?」
「西門の方が近いから、そっちね」
「なるほどな」
俺たちはサンセンタから見て北から来た。なので、ここから真逆にあたる南門に行くのかと思ったが、そこまで迂回する必要はないらしい。
危ないとはいえ、あんまり遠回りはしたくないもんな。
「バレる前にさっさと行こっか」
「はい」
しかし、なんでヒュドラが首都の前で陣取っているだ? ゲームみたいに突然魔物が湧くことはないはずだ。魔物だって一応生き物だからな。
あんなところにヒュドラがいたら生活に支障が出る。
あれでは完全に北門が使えない。住民も困るだろうし、行商人のような移動をともなう商売人もさぞお困りのことだろう。
それにあの大きさだと仕留めるのも大変だ。いくらこっちの人間が超人的な身体能力を持っていたとしても、流石にヒュドラはキツそうだ。魔術もあるにはあるが、魔術師のお嬢が戦闘を避けてるってことはそういうことなんだろうな。
俺とフィオなら負けることはないんだろうけど、戦いたいなんて一切思わない。おっかないからな。
「待て……」
「ポルター、早くしないと」
「いや、こっち見てないか?」
「え?」
いつの間にか数ある頭の内の一つがこちらを見ている。それはもうはっきりと。
俺に目はないがヒュドラと目と目が合っている気さえする。
これはヤバいんじゃないか?
「がっつり見てるわね……」
あぁ、ヤバいらしい……。
お嬢もちょっと頬を引き攣ってる。
ベクトルもいつものニコニコ顔ではなく真剣な顔だ。
フィオはもうなにか諦めたのか苦笑いをしている。
まぁ、わかる。
たぶん、避けられないんだろうなぁ。
嫌だなぁ。




