遠路
「もうすぐなんだよな?」
「ええ」
俺は見慣れた平原を進みながらもう何度目かもわからない質問をした。
お嬢ことディジーは律儀に俺の質問に答えてくれる。
とはいえ、その声はあからさまに面倒くさそうな声だ。
「じゃあ、もうすぐこの生首ともお別れなんだよな?」
「もちろん」
黒い霧または塵の集合体を真っ白なローブで包み込み人の形をかろうじて留めている俺が言うのもなんだがやはり生首は気持ち悪い。
暗い色のローブに鈍器のような杖を持つお嬢は生首を一瞥するのともなく俺の質問にはっきりと答えてくれた。
「金になるとはいえ、よく持って行こうと思うな」
「しつこい」
そう。この生首はお金目当てなのだ。
俺たちは道中で盗賊らしき男に襲われた。しかし、結果はこの有り様。
俺が盗賊の首をひと撫でして切り落とした。
別に今更抵抗感はない。だから、さくっと始末したのだが。持ち歩くとは思わなかった。
お嬢曰く、町の衛兵に渡せば換金してくれるそうだ。
まぁ、金になるならと流したが流石にずっと見てると精神衛生上良くない。
「ポルターも見なきゃいいのに」
「嫌でも視界に入るんだよ」
そう言って、生首を持つフィオは俺を注意する。
フィオはその不自然に白い手を血で汚しているが気にしている様子もない。
フィオは全身が真っ白なので生首の血がよく映える。そんな目立つやつが隣を歩いていたら嫌でも視界に入る。
「本当にもうすぐなので、あと少しの辛坊です」
「わかったよ」
今度はお嬢の後ろを歩くベクトルが俺を落ち着かせるように声をかけた。
ベクトルはその爽やかな顔を少し困った顔にしていた。
俺もちょっとは我慢するべきか。
これまでの道程が長過ぎて俺もストレスが溜まっているらしい。
なにせサンドを出て一月弱は経っている。
もちろん、ここまでどこにも寄ってないわけじゃない。小さな村や町に寄って食糧の補給をしたりした。
しかし、俺は異世界出身元都会っ子だ。変わり映えのない町やいつまで続くかわからない大自然にはもう飽きた。一月も高速道路を進み、たまにサービスエリアに寄っている感じだ。
うんざりする。
「確か次は首都だったよな?」
「ええ」
「楽しみだねぇ」
本当に楽しみだ。
やっとこの大自然ループから解放されるんだ。
「首都サンセンタは良い所ですよ。文化も発展していますし首都だけあって治安も良い。それに清潔です」
「なるほど」
次の目的地であるサンセンタはかなり期待が持てる。多少不躾な目を向けられても気にならないくらいには。
今まで寄った町は汚い上に扱いも悪かったからな。
「確か二回目なんだよな?」
「ええ」
「教会の資料館が開放されているので、そこで調べものをしていました」
「そこで私たちの知識も仕入れたんだね」
「そうね」
お嬢の趣味はその土地々々の文化を調べること。だから、様々な知識を持っている。
俺が異世界から精神だけを連れて来られた転生なのか転移なのかよくわからない存在であることもすぐに理解できた。それも過去に異世界から人を召喚した記録が教会の資料館とやらに残っていたからだ。
更にお嬢は魔術師だ。なので、俺とフィオが人を材料としたゴーレムであることもすぐに理解できた。まぁ、製作者の糞魔術師がご丁寧に取扱説明書のようなものを残していたからお嬢も理解できたわけなんだが。
また取扱説明書には俺とフィオが不死身だとか殺戮兵器的な存在だとか書いていたが、正直どうでもいい。
今大切なことはお嬢が俺たちを拾い従魔にしてくれたのは教会の資料館のおかげということだ。
教会の資料館に足を向けて寝れないな。足なんてないし寝る必要もないけど。
「じゃあ、今回はどうするんだ?」
「気になることは粗方調べ尽くしたから資料館に用はないわね」
「なら素通りか」
お嬢に用がないならサンセンタに留まる理由もない。
いつも通り食糧の補給をしてすぐ出発する流れか。
「それはどうかしらね」
「なにかあるの?」
首都だから今までの小さな町ではできなかったなにかがあるのかもな。
「ポルターさんとフィオさんのことを知られていれば、話ぐらいは聞かれるかもしれませんね」
「そっか」
それもそうか。
このヒリングサッツ教国は異世界から人を召喚することについてやたら厳しい。確か異世界から人を召喚する『未還の魔術』の詳しい内容を知っただけで死罪だったはずだ。もちろん、関係者であるお嬢たちは例外ではある。
しかし、その当事者である俺や『未還の魔術』の最初の被害者と深い関わりを持つフィオがいると知られれば素通りは無理だろう。なにかしら重要人物と接触はありそうだ。
「そうなったらしばらく滞在するかもしれないわね」
「そうだな」
少し挨拶して終わりということにはならないだろう。
詳しい話を聞きたいからしばらく首都に留まってくれと言われることはすぐに想像できる。どういう形で留まるかはわからないが。
「まあ、休憩だと思えば良いよな」
「ええ」
「見えて来ましたね」
そんな話をしていると地平線の向こうに首都サンセンタと思われる都市が見えてきた。
本当にもうすぐだったんだな。ちょっと疑ってた。




