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戯れ

「運が良かったな」

「そうですね」


 俺とベクトルは街道から少し外れた木陰で荷物の番をしつつそう呟いた。


「行きは見つけられなかったんだよな?」

「馬車で一気に通り過ぎましたから」

「徒歩だったおかげで水浴びに丁度いい小川を見つけられたわけか」

「ええ」


 そう。運が良かった。


 俺たちは道中で水浴びに適した小川を見つけたのだ。村もなにもない街道だったので、しばらく体を洗うことすら二人はできていなかった。


 しかし、耳を澄ませば水の流れる音が微かに聞こえてきたのだ。ちょうどお嬢にうるさいと怒られた後だったから聞こえたが、いつものように無駄話をしていたら聞こえなかっただろう。


 そうして、二人はこれ幸いと水浴びをすることにした。なので、今はお嬢が水浴びをしている。そして、その後がベクトルという順番だ。


 フィオは見張り兼護衛ということでお嬢についていった。今まではベクトルがその役割をしていたそうだが、同性がいるならその方がいいだろうということになった。いくらお嬢とベクトルがそういう仲だとしても、気遣いは必要だとベクトルが言ったからだ。


 できる男は違うね。全く。


「まぁ、清潔さは大切だからな」

「そうですね。不潔だと病魔に罹りやすいそうですからね」


 大切という言葉でぼかして言ったが、どうやら意味が伝わったようだ。


 別に舐めてたわけじゃないが少し意外だな。


「詳しいんだな」

「教国ではそう伝えられていたんです」

「なるほど」


 文化レベル的にもっと衛生観念がゆるいのかと思っていたがそうでもないらしい。


 まぁ、俺も医療に詳しいわけじゃないから、綺麗にしておけということしかわからない。というか、魔術があるから医療レベルが実は高かったという落ちもあり得る。


 偏見はよくないな。


「それにディジーさんもそう教えられたそうです」

「例の師匠に?」

「はい」


 なるほどねぇ。


 賢い人はなんでも知ってるのかな。しかし、噂のスパルタ師匠が医療にまで造詣が深いとは意外だ。唾でもつけとけば治るとか言いそうなのに。


 いや、これも偏見か。


 …………偏見だとしてもなにかとんでもエピソードが聞けそうだから、後で聞いてみよう。


「すみません。呼ばれたので行ってきますね。荷物の見張りはお願いします」

「は? まぁ、いいけど……」


 いや、なにも聞こえなかったんだが。どういう聴覚してるんだ?


 まぁ、ベクトルのことだからお嬢の声にだけ敏感なのかもしれない。なんと言うか変態チックだが今更だ。


 とにかくベクトルは茂みをかき分けながら小川に向かった。


「ただいま……」

「なにかしたのか?」


 するとフィオが入れ替わるように戻って来た。しかも不貞腐れて。絶対なにかしたな。


 なにもなければベクトルは呼ばれないし、お嬢も一緒に戻ってくるはずだ。それに不貞腐れているってことはなにかいざこざがあったんだろう。


「とくになにもしてないつもりなんだけど」

「自覚がないのかよ」


 これは少々たちが悪いな。


 自覚できていないってことは反省もしてないってことだろうし。


 だからといって、どうしていいかわからない。俺は親でも教師でもないからな。


 しかし、一応話だけは聞いておくか。


「じゃあ、なんて言われたんだよ」

「なんか『じろじろ見ないで、気持ち悪い』って言われた」

「じろじろ見るな。周りを見とけ」


 お前の仕事は見張りのはずだろ。俺は親でも教師でもないけどそれはわかる。


 お前は一体なにしについて行ったんだ。


「だって、いい体してるんだもん」

「事案じゃねえか」


 だもんじゃない。


 普通にアウトだろ。適切な法に則って裁かれるぞ。


「女同士なんだから別にいいじゃん」

「気持ち悪いのが問題なんだろ」


 主な要因は気持ち悪さだろ。そこに性別は関係ない。


 そして不貞腐れるな。反省しろ。


 こんな理由で捨てられたら洒落にならない。せっかく従魔登録までしたのに気持ち悪いという理由で放り出されたら正直みっともない。不死身の俺たちにとってその汚点は永遠につきまとうんだぞ。


「戻って来たな」


 どうやらお嬢とベクトルが戻って来たようだ。


 意外に早かったがフィオがおかしな真似をしなければ、もっと早かったんだろうな。


 せっかちなお嬢にしてみればいい迷惑に違いない。


 その証拠に物騒なものがお嬢の近くで浮遊している。


「ただいま。そして、贈り物」

「あっづっっっ!!!!」


 そうして、フィオはお嬢お手製の熱湯で制裁を受けた。


 自業自得だな。


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